セイラさんとの食事
シゲムネを見送った後、そのままログアウトして眠った。翌朝は遅めに起きて、コーヒーを飲んでからそのままログイン。
様変わりした家のベッドで目覚める。するとメッセージが残っていた。
「運営から?」
どうやら闘技クエのクリアタイムから、いっさんの攻撃力がバレたみたいだ。一酸化炭素を利用した精霊の致死性と効果範囲に下方修正が入り、闘技クエの最速タイムから記録が消える事になった。
そのお詫びとして、5万Gの振り込みがあった。
「あれってタイムの記録が残ってたんだな。下手に目立つより、消えてくれて良かったな」
しかし、いっさんが弱くなっか……まあ、性能は壊れてたから仕方ないな。重精霊は認められてるみたいなので、まだ戦えるだろう。
家から出ると、セイラさんの家を見てみる。外壁と扉は作り替えられていて、中は見えなくなっていた。あのままかなり作業を進めたようだ。フレンドリストを見るとログアウトしているようだ。
俺は完成した鏡をいくつかオークションに出してみた。あとはガラスを大きくしないと、鏡も大きくはならない。現実の方法を再現しようとすると、かなりの高温とそれに耐えうる器がいるよな。
ならゲーム的に再現するとしたら……単純に材料を増やすか。あとはできたガラスを合わせていくとかか。
まあ、やるだけやってみようと家の錬金釜へと向き合う。ただ錬金釜の大きさは直径60cmほど、それより大きな物は作れないのか?
30cm四方のガラス板を作ったときの倍の量で試してみると、合成が起こらずに失敗した。
続けてガラス板を二枚で合成すると、合成は起こったが割れてしまった。大きくするにはスキルを上げないと駄目らしい。
スキルを上げるのに楽なのは、今後も考えてガラス板を作る事かな。海岸に行ってケイ砂を集める事にする。
海岸は以前と変わらず人影はなく、せっせとケイ砂を掘っていく。かなりの素材を集めたところで、転送石で戻る。帰りが楽なのはいいな。
「あ、ケイちゃん、おはよう」
「おはようございます、セイラさん」
お隣さんができるというのは、新鮮な感じだ。今もアパートで一人暮らしだが、隣人は顔も知らない……あれ、入居してないんだっけ……それくらい近所付き合いがないのだ。
セイラさんは水色のストレートヘアーで、左頬に涙型のペイントがある。どこか寂しさを感じさせる装いだ。
「どうかしたんですか?」
「久しぶりに頑張ったら、ちょっと疲れちゃって。あ、スライム返すね。凄く助かったわ」
「セイラさん用にもう一匹作ってみましょうか」
「え、本当? そうしてもらえると助かるけど」
「素材も安いですし、もう失敗もないと思います」
「そう、お願いするわ。でも先にご飯にしましょう。朝食と言うよりは、昼食の時間かな。家に入れてもらえる?」
セイラさんと一緒に家に入る。
丸テーブルの上にサンドイッチと紅茶がセッティングされる。
「簡単なモノだけどね」
「いえ、凄いです。具も色々あるし、豪華ですよ」
「多少、料理スキルは上げてるからね。どうぞ、召し上がれ」
たまごサンドから頂くが、塩加減も絶妙で美味しい。少し焼いたパンの香ばしさも、現実のコンビニのサンドイッチとは別次元だ。
「美味しいです。現実でも食べたことない美味しさですよ」
「ふふ、そんなに喜んでもらえたら、私も嬉しいわ」
ゲーム世界での食事は、ステータスにボーナスが付いたりという効果もあるが、基本は趣味の領域だ。明確な空腹感などはない。逆にいうと、いくらでも食べられてサンドイッチもペロリと食べれてしまった。
人心地ついて、紅茶も頂くと優雅な休日感が味わえた。
「ありがとうございます、セイラさん」
「こちらこそ、押し掛けちゃってごめんね。このところ、ちょっと強引かもと思ってるんだけど……寂しさがあったのかなぁ」
ふぅとため息をつくセイラさんが少し心配になる。
「何かあったんですか? 私で良ければ、話を聞きますよ」
「ううーん、ごめんね。下心ありすぎだよね……でも、ケイちゃんも自分なりに楽しんでるみたいだから、ちょっと気になったんだ」
セイラさんが話し始めた。
「私はね、この世界を楽しみたいんだ、ゲームとしてね。だけど女だと、色々と厄介なのよね」
はじめは色々なパーティに誘われて、冒険を繰り返していたんだが、より難易度の高いIDに挑む為にプレイヤー達のグループであるクランに参加。
するとどこかお客さんな雰囲気で、過剰に守られてのプレイになっしまった。高難易度のダンジョンでも、より高いプレイヤーに連れられて、一級の装備品に守られていると、本当の冒険にはならない。クランに話して、レベル相応で挑みたいと願ったのだが、玄人と組んでの攻略では、やはり物足りなさを感じていた。
さらには個人的にアプローチされる事も増えて、色々とややこしくなっていった。
そこへ新たな女性メンバーが加入すると、その子はちやほやされたいタイプで、一気にセイラさんは孤立する事になってしまった。
そのクランを抜けて、女性クランに所属してみたりもしたのだが、そこはライトプレイヤーばかりで、ダンジョン攻略はほとんど行けなかった。
結局、ランダムパーティーでIDに行くようになっていた。
「でもそれだと仲良くなる事も少なくなって、MMOである必要もなくなってきちゃったりで、少し悩んでたりもしたのよ」
「そうなんですか」
ネカマプレイでちやほやされたかった身としては、耳に痛い部分もある。ただゲーム好きな女の子と仲良くなりたい男心もわかるので、なかなか難しいんだなと感じてしまった。
「ケイちゃんは、まだ始めたばかりだけど、自分で楽しむ方法を知ってるみたいだったら、仲良くなれるかなって思って」
「もちろんです、セイラさんとは仲良くしたいですよ」
「ありがとう。ごめんね、私の都合に付き合わせちゃって。話したらすっきりしたわ」
「いえいえ、ゲームの先輩からの話は為になります。私も気をつけますね」
「ケイちゃん可愛いから、男達寄ってくるから気をつけてね。彼氏に守ってもらうのが一番かも」
「だから彼氏じゃありませんって」
まあ男除けにシゲムネを使うのは手かもしれないけど。あいつもなんだかんだで喜んでそうだったしな。
「長々とごめんなさい。それじゃ、私は家の改装を頑張るわ」
「はい、私も家に使えるガラスや鏡を研究するので、そのうちプレゼントしますね」
「それは楽しみだわ。それじゃあね」
セイラさんとの距離が少し縮まった気がした。俺もダンジョンの方を少し進めないとかな。




