大工に目覚めたシゲムネ
「ケイ……ちゃん?」
オークションからの帰り道で、声をかけられた。女性の声はセイラさんだ。疑問系だったのは、髪色を変えていたからだろうか。
それをいうならセイラさんの方が激しい訳だが。今日は金髪というか、黄色の髪を逆立て、頬には動物の髭を思わせる横線が入っていた。正直何を狙っているのか分からない。
「セイラさん、こんにちは」
「お買い物?」
「はい、オークションボードまで」
「この前は鉱山だったし、合成を先に上げているのかしら?」
「そうですね、どちらかというとそっちメインかも」
「料理上げてるんだっけ?」
そうえば、ゼラチンの事を聞いたときに、料理に使うとか言ってたかな。
「いえ、やってるのは錬金術です」
「錬金術?」
「はい、今は鏡を作ろうとしてます」
「錬金術ってそういうものを作るんだ」
セイラさんは合成関係は疎いみたいだ。その中でも錬金術はマイナーなんだろうけど。
「この前のゼラチンは?」
「スライムになりました。部屋の掃除をしてくれてます」
「???」
セイラさんの顔が疑問で一杯になっていた。錬金術の多様性は、端で聞いてもよく分からないだろうな。
「お時間あるなら、うちに来ます?」
「うち?」
「はい、スラムの方に家を買ったので」
「ケイちゃん、何か色々と変わった事してるわね」
ネカマしたくせに男に迫られるのを避けているうちに、マイナー路線に入ったわけだが、さすがにそれは明かせない。
「それじゃあ、お呼ばれしようかしら」
「はい、それじゃあ……あ、転送石がまだ使えませんでした」
「いいわよ、スラムまで歩きましょ」
そういってセイラさんは腕を絡めてくるが、俺の方が10cm以上背が低く不自然だ。さらにはセイラさんはIDの時の鎧ではなく、街中用なのかブラウスに皮のパンツというカジュアルな格好。セイラさんから腕を組まれると、柔らかな感触が腕に伝わってくる。シゲムネが興奮してたのもわからないでもない。
このままだと平静を保てないかもしれないなで、俺の方から腕を絡める事にする。これはこれで恥ずかしい気もするが、意識的には楽だった。
「ふふっ、ケイちゃんとデートね」
「女の子同士ですよ」
「あっちでもデートくらいするでしょ?」
「ま、まぁ……」
男同士で腕を組むことはないが、女の子は意外と腕を組んだり、手を繋いだりしてるなと思い出す。
それからは当たり障りのない会話をしつつ、スラムへと到着。一軒だけ浮いた建物ができていた。
外壁というか木の板ではあるのだが、そこにツタが張り巡らされていた。穴は修復されて、継ぎ接ぎだったのも綺麗にされているので、廃屋が建ち並ぶ中に新築が紛れ込んでるような違和感を出していた。
「可愛い家ね」
「友達が木工やってて、少し頼んでみたんですが……」
家に入ってみると、当のシゲムネはいなかった。家のグレードを見ると、ギリギリ上がらない状態で止めてある。
スライムが這い清めた土間はいいとして、床板が全部新品になっている。奥のベッドかある一角は、クローゼットなども置かれていて、シンプルだが過ごしやすそうな作りに。
錬金釜は土間の竈の近くに置かれていて、その一帯が工房っぽく整えられていて、棚なんかも置かれている。
丸テーブルにイスが並んだ一角は、休憩・団らんスペースか。
あともう一角にはい草が敷かれていて、和の雰囲気が出ていた。
「あいつ、どこまで本気なんだ……」
「その顔見ると、ケイちゃんが作ったわけじゃ無さそうね」
「はい、友達がやってくれたみたいです」
丸テーブルに腰掛けて天井を見上げると、俺の作ったガラスをはめた天窓も見えた。
「いい家ね、住みたくなるわ」
「ホント、あいつに意外なセンスがあったんだとびっくりしてます」
「ふうん、リアルの知り合い? それも男みたい」
「え、あのっ」
「彼氏さんかしら?」
「それは違います」
きっぱりと否定した。
「今はそうなのかもね。でも、貴女の為にここまでしちゃう人なら、脈があるんじゃないかしら?」
「ないですって。私、リアルは可愛くないですし、そういうのは……」
というか男だからな。セイラさんは、こちらを見透かすように笑みを浮かべているが、さすがに性別変えている事までは分からないだろう。
「まあいいわ。でも、この家は本当にいいわね。私も買っちゃおうかな」
「ここスラムなんで安いですけど、改装しすぎると襲われますよ」
「でもこの家で、まだ大丈夫な範囲なんでしょ? これだけできたら、個人宅としては十分よ」
そういってセイラさんは、家を出て行った。ついて行くと、本当に隣の家を確認している。
「ここまでボロボロなのね。それをあそこまでしちゃったのか」
セイラさんは、改めてシゲムネの仕事を感心している。俺も同感だ、何がここまでさせるのか。
「よし、私も負けずにやろう」
セイラさんは俺の隣の家を買ってしまった。
セイラさんはそのまま掃除を始めた。せっかくなので、スライムをレンタル。ゴミを食べると成長もするので、一石二鳥だ。
俺も何か手伝おうかと思ったが断られた。まずは自分でやりたいそうだ。
俺は元々の予定だった鏡作りを再開する。まずは硫酸で、硝石を溶かす。これはガラス瓶で溶かすだけなので、それほど手間はない。後は出てくる気体を蒸留することで、硝酸ができるはず。
ガラス作成で使わなかったフレアコンロも、この時に役立った。
できた硝酸で銀のインゴットを溶かしていく。これも銀にかけるだけなので、合成というほどでもない。
この溶液とガラス、さらにはブドウ糖でメッキが行われるらしい。ブドウ糖を得るには蜂蜜だと……正直、この行程が一番厄介なのだ。ムラ無く均一にめっきを施すのはテクニックがいりそうである。
なのでこの行程はメニューから行って見ることに。素材は揃ってるし、難易度に補正は掛かってくれそうなんだが。
ポチッとメニューから合成を開始すると……成功した!
30cm四方のガラス板に銀が付着。逆側からみたら、見事な鏡である。美人を間近でこちらを見つめていて照れる。
あとはめっきが剥がれないように裏打ちすれば完成かな。
「おお、見事な鏡ができてるな」
「お帰り」
シゲムネが帰ってきた。
「お前こそ凄い家になってるじゃないか」
「いやぁ、やり始めると面白くてな。ただグレードの問題があるだろ? 制限も多くてちょっと欲求不満なんだよな。だから、住宅街の方に家を買ったよ。そっちで綺麗な家を作るぜ」
「へ?」
「ガラスもらって行くな。もっと大きいのができるようになったら、教えてくれ。立派な家ができたら、迎えに来るよ。じゃあな!」
言うだけいってシゲムネは出て行った。住宅街に家か、ぽんと買えるだけの金を持ってたんだなぁ。
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