金策クエスト
「なんでこんな離れたオークションボードなんだ?」
「実はちょっとね……」
マーカスの店で客寄せに自分の写真が使われてたことを話した。
「そりゃ不用心だったな。その顔に、その格好だからなぁ。似合いすぎてて、そりゃあ人も集まるよ」
「ううう……まさか引き延ばして、ポスターにされるとは思わなかったんだよ」
「とりあえず、その帽子と髪の色くらいは変えた方がいいかもな」
その手があったか。
「帽子はひとまずこれでも被ってな」
赤色で鍔の広い三角帽子を渡された。魔女という感じで、マントの色とも合っている。ピンクのキャスケット帽よりは地味で目立ちにくい。
「ありがとう」
「……あ、あと、髪は染色剤だな。オークションにあるだろ」
つつっと視線をそらしながら、シゲムネが教えてくれた。
貴族の館側のオークションボードで、早速染色剤を探す。目立たないように黒にしてみた。
あとはフレアストーンを見てみると、出品がかなりある。NPCからだと100Gに対して、30Gでの販売もあって20個ほどを購入。
そろそろ所持金が乏しくなってきた。
「初期の金策か、悪い男に捕まらないように指導しとかないとな」
「もう、今度から気をつけるってば」
俺はオークションで落札した染色剤を使って、髪を黒く染める。アイテムを振りかけるだけで、毛先まで綺麗に染まるので便利だ。セイラさんの髪染めもこんな感じでやってたのかな。
シゲムネがぼーっとこっちを見てる。
「どうかした?」
「元が良すぎてかえって可愛くなってるぞ」
「ベースが清純派アイドルだからなぁ。まあ、雰囲気が変われば、あのポスターとは被らないだろ」
アイドル画像をモンタージュして作り上げた好みの顔だ。髪色で不細工になる訳がない。それだけの自信作ではある。ただ、自分で見る機会が少ないわけだが。
「鏡台とか家に欲しいかなぁ」
「台座は木工で作れるが、鏡の部分は何で作るのかだな」
それこそマーカスなら店に置いてあったし、知ってるかもしれないが、今は聞きたくない。オークションで値段を見ると、一つ3万Gとかで、とても手が出ない。
「とりあえずクエストでもこなすのが先だな。戦闘はできるんだろ?」
「ああ、風の精霊召喚と炎の攻撃魔法だな」
「召喚? あれはちょっと使い勝手悪かっただろ。プレイヤーより弱いのに、パーティー戦闘扱いで、経験値が減るはずだ」
「経験値は知らなかったけど、うちの子は強いよ。少なくとも私よりは、攻撃力高いし」
「精霊に上方修正でも入ったのかな?」
シゲムネがお勧めのモンスター討伐系のクエストをこなすことにする。街の周辺にいるNPCから受けられるクエストで、受けるとその場でモンスターがでるので、それを倒せばいいらしい。
「直接手は貸せないけど、回復くらいはやれるから頑張れ」
「ああ、やってみるよ」
俺はまずガラス瓶を取り出して地面に置く。シゲムネが興味深げに俺のやることを見ていた。
重力操作魔法で、瓶の中に密度の高い空気を溜める。それを使って、精霊を召喚した。
「なにそれ、ぽっちゃり精霊とか」
「まあ見ててよ」
NPCに話しかけてクエストを発生させる。畑を荒らすモグラを駆除するクエストらしい。会話が終わると、畑から顔を出したモグラに、風の精霊が魔法を放つ。命中すると、穴からはじき出された。
「うおっ」
シゲムネが驚きの声をあげた。穴から弾き出されたところに、炎の魔法を重ねてぶつけて、安全なままに撃破。次々に出てくるモグラを、COMならではの反応で撃ち出していく。
「このクエ、穴で出入りするモグラをいかに叩くかってゲームなのに、一撃で叩き出すとか鬼だな。ぽっちゃりさんやるねぇ」
シゲムネが感心しているうちに、ノーダメージのままクリアした。
「それだけ安定して戦えるなら、闘技クエもやれるかもな」
「闘技クエ?」
閉鎖された空間で、次々に出てくるモンスターを退治していくクエストで、撃破タイムによって報酬のランクが変わるらしい。
「それって、報酬がいいの?」
「初期の段階からしたらそこそこだな」
「ふうん、やってみるかな」
最初の街から東に向かった所にある演習場が舞台だ。一つクリアするごとに、より高いレベルに挑めるようになる。
ID扱いで閉鎖された空間に、一人で入って出てくる敵を倒していくらしい。
「いっさんの出番かな。ガラス瓶は十個か……」
最低ランクからスタート。
ブルーブルが出現する間に、いっさんこと、一酸化炭素で召喚した風の精霊を呼び出す。近づかれると、自分も死ぬので早々にブルーブルのいる辺りに派遣する。特に攻撃しなくても、近くにいるだけで窒息させる危険な精霊。ブルーブルも一瞬で死んでしまう。
「あっ」
最初にブルーブルがいた辺りが、敵の出現位置だったらしい。姿が現れたかと思うと、次々とその場で倒れていく。
ミッションクリアの文字が出るまで一分も無かった。慌てていっさんを解除して無効化する。
何とか通常フィールドに復帰する前に消えてくれた。
「あれ? 失敗か?」
「いや、一応クリアしてきたけど」
「は?」
「お、Sランク取れたな。1000Gか、時間にしたら稼げるな」
「いや、早すぎるだろ。ぽっちゃりさん、そんなに強いのか……」
いっさんは、まだ余り知られたくないので誤解されたままにしておく。続けてレベルを上げながら繰り返していったが、いっさんの敵ではなかった。
文字通り敵対する前に殺しているのだ。ワンサイドもいいところだ。9戦目まで、Sランクでレベル×1000Gをもらっていけたので、45000Gが貯まっていた。
「切りがいいから、十戦目までやるか」
「好きにしてくれ」
そんなに待たせた訳じゃないのに、なぜかシゲムネは疲れた様子を見せている。どうせいっさんはあと一回しか呼べない。
十戦目の相手はゾンビだった。
「あっ」
ゾンビは息をしておらず、窒息することがなかった。ずるっずるっと足を引きずりながら近づいてくる。
いっさんの攻撃自体は、ノックバックも無くて威力も低い。俺は慌てて炎の魔法を撃ち込む。
するといっさんに引火してしまった。青白い炎に包まれながら、ゾンビもろとも焼けてしまった。
俺は重精霊を召喚し直し、次のゾンビと戦ってもらう。一緒に炎魔法を撃ち込む。炎がゾンビの弱点属性だったことと、重精霊のノックバックのおかげで何とか倒し切れた。
「さすがにレベル10は苦戦したか」
「ああ、相性かな」
少し時間がかかってクリアランクが落ちたので、5000Gの報酬。それでも合計で5万Gの稼ぎになった。
「ありがと、かなり助かったよ」
「まあ、知識は残ってるからな。多少の事なら相談に乗れるさ」
その後、約束通りベッドを作ってくれて、家に設置。かなり世話になったので、お礼をしたいところだが、相手はブランクはあるが熟練。すぐに返せるモノもない。そのうちだな。