友人とお掃除係
「直紀、ALFやってるか?」
「紹司か、ぼちぼちだな」
以前ALFの事を調べてるのを見られた友達だ。過去にやってたが、しばらくプレイしてないそうだ。
「いや、お前が調べてるのみて、少し興味が出たんで調べてみたんだが、かなり凄いことになってんな」
「そうなのか? 俺は今しか知らないからなぁ」
「俺達の頃は戦闘重視で、クエストクリアばっかりだったんだが、今は生産も充実して、特に飯屋がすげーな。リアルな店舗とタイアップとか。ゲーム内のお金であの味を堪能できるのかよ」
「いや、俺は始めたばかりで詳しくないよ」
「そんなわけで、この週末、カムバックで無料プレイできるみたいだから入るわ。キャラ教えて、クエとか手伝うからさ」
ALFは月極で料金の発生するゲームだが、たまに新規プレイヤーや過去に遊んでたプレイヤーを引き込むために、無料でプレイできる事がある。
それを利用して三日間だけプレイする人なんかもいるらしい。
「いや、レベル差ありすぎだろ。俺はコツコツ楽しんでるだけだしさ……」
「ゲームやってると、たまに疑問に当たって困ることあるだろ。攻略サイト見るには、ログアウトしなきゃだし、俺がいると便利だぞ」
ぐっ、確かに知人がいれば初心者ならではの質問も聞きやすいんだが……。
「実は俺さ、不正してるからさ……」
ここは素直に暴露してしまう。大学入って二年目、それなりの付き合いだし、通報はされないだろう。
「え? そんなのあんの? でも、能力いじったりしたらすぐにBANされるだろ?」
不正が発覚すると、アカウントを停止されて、キャラクターも使えなくなる。紹司の言うように、能力に不正があるとかなり早い段階で見つかってしまうらしい。
「俺のはそういうのじゃなくて、キャラ作成時にね」
「ふむ」
「性別いじったの」
「は?」
さすがの紹司も少し身を引く。
「VRMMOで性別変えられないだろ?」
「ああ、だから不正なんだよ」
「今はそんなんあるのか。昔のネトゲじゃ、ネカマくらい当たり前だったのにな。ふぅん、いいね」
「な、なにがだよ」
「いやぁ、俺がやってた頃なんて、ムサい男ばっかでさ。女の子なんて見ることすら稀だったんだぜ」
さすがに今はそこまでレアではない。運営の発表だと日本サーバーで7:3くらいらしい。ただその多くは、カロリーを気にせずスイーツを食べ歩いたり、ファッションを楽しむようなライトプレイヤーらしい。
「じゃあ、待ち合わせは……」
そのまま話を進められた。
マーカスのおかげで目立つところには行きたくない。あまり地名も分かってないので、自宅に呼ぶことにした。
「ってか、もう家持ちなのかよ」
「スラムだから安いよ、2000G」
「へぇ、そんなもんか。個人で持つなら襲撃頻度も上がらないし維持もしやすいのか。利便性考えたら街中の方がいいけどな」
「俺の場合は錬金術師の家に用事があったし、男に追いかけられる恐怖もあったからな……」
なんだかんだで、知り合いとゲームできるのは楽しい。家に帰って用事を済ませると、早速ログインしてみる。
今日が金曜日で、明日・明後日は休みなので、プレイに時間をかけれるのだ。
VRMMOは脳波を送受信する端末でプレイするわけだが、体の異常があればセーフティーが働く。
長時間の空腹や、トイレなども検知して、強制的にログアウトさせられる。一通りの事を済ませて、ゆっくりとログインの時間を作るのが大事だ。
「あれ?」
我が家でログインしたわけだが、何か違和感を感じた。未だにボロのままだし、家具もない。竈はあるが、使ってないので、薪も用意してない。埃にまみれて……ん?
「埃がないのか……蜘蛛の巣やら、土なんかの汚れもないな」
誰かが不法侵入して、掃除して帰っただと!?
そんな突拍子も無いことを考えていると、ふと視界の隅に動く気配を感じた。床の割れ目から這いだしてきたのは、スライムだった。気のせいか、昨日より大きくなってる?
ステータスをチェックするとレベルが1だったのが、5まで上がっていた。そして、スキルに掃除が追加されている。
「お前が綺麗にしてくれたのか!?」
プルプルと震えて答える。
スライムの意外な特性に驚かされた。自動掃除機だったとは。しかも段差も越えるし、充電もいらない。現実にも欲しいくらいだ。
せっかく掃除してくれるなら、ちゃんとした家にしてあげたいな……スライム的には汚れてた方が餌が多いのか?
などとたわいもない事を考えていると、訪問者のベルが鳴る。
一応玄関に扉はあるが、壁に空いた穴から覗いているのがわかる。
「あ、あの、ここ、ケイ・リュウゾウジさんの家で、いいですか?」
「シゲムネさんですよね」
扉を開けると、急に居住まいをただした紹司のキャラが立っていた。
「なんでそんなに緊張してんだよ」
「やっ、だって、そんな可愛いとか、思ってもないし……」
まあ俺もリアルで女の子と接点ないし、逆の立場なら同じ様な反応になったと思う。
「まだ何もない部屋だけと寄ってく?」
「あ、ああ」
あまりに緊張されると、俺も意識……しないか。紹司だしな。結構、彫りの深いイタリア系ハンサムのようだ。顎は割れてないが。
「これは女の子の部屋じゃねえよ」
「まだ買ったばかりだし、金掛けると襲われるようにもなるんだよ」
「ああ、スラムだからな」
イスもないので、ところどころ穴の空いた板間に座る。
「でも、穴くらいふさげよ」
「といわれても、どうすればいいか分からないし」
「しゃあねえなぁ」
シゲムネは、所持袋から木材を取り出すと、ハンマーを手に立ち上がる。
「え、直せるの?」
「ああ、木工スキルは多少上げてあるからな」
トンカンと金槌を振るいながら、まずは穴の空いた床から、壁を直していく。
「踏み台もないのかよ」
「私の背中に乗る?」
「……できるかよ。待ってろよ、イスでも作るから」
スキルの補正もあるのだろうが、見る間にイスが作られていく。そしてそれを足場に天井の穴もふさいでしまい、ようやく家としてまともな形になっていた。
「あ、ありがとう」
「なに、これくらいは朝飯前だよ。家具とかも作れるけど、何がいる?」
「でも報酬とか払えないし」
「こういうのは気持ちだからよ。スキル使えるだけでも嬉しいもんだしな」
「そう? じゃあテーブルは欲しいかな」
言ったそばから作り始めて、時間もかからず完成。
「材料費とかは?」
「安い木材だから、在庫処分できていいくらいだけど……ちょっとだけいい?」
「何? 何でもするよ」
「何でも、何でもするって言ったよね。じゃあ、おっぱい触らせて!」
「ふぇっ!? 俺、男だぞ!」
「でもついてるのは確かだろ、柔らかそうに揺らしやがって!」
「でもそんな、顔あわしたときに気まずくなるって」
「そんな未来は知らん。今ここにある乳を揉みたい」
鼻息の荒い友の姿が少し悲しくなる。でも男として、その気持ちも分からなくはない。
「す、少しだけだよ」
わしっと掴まれた。
「うおぉ、なんじゃこりゃあ」
「ちょっと、強いよ、痛いって」
「けしからん、けしからんよ!」
「分かったから、落ち着いて」
「ああぁ、凄いな、こんな感じなのか……」
「あ……ん、ちょっと、そろそろ、ねぇ」
「顔を埋めていいのか?」
いいながら顔を寄せてきたので、それは叩き落とした。
「すまない、我を忘れてしまった」
「ハラスメント申請出せるんだからね。無茶はしないでよ」
「面目ない。お詫びにベッドでも作ってやるよ」
「邪な考えがあるなら、本気で通報するからな」
「わ、分かってるよ。本当にお詫びってだけだ。グレードが上がらないように、最安値の作るから」
本気で反省しているようなので、任せる事にした。
「布がいるから、オークションにでも行くか」
「ああ、私も行くよ。合成素材見たいし」
「何の合成やってるんだ?」
「錬金術」
「あれって、微妙だって評価じゃなかった?」
「いや、作れるモノは凄いと思うよ。そこのスライムも掃除機として優秀だったし」
「おおっ、いつの間にか木くずがなくなってる!?」
シゲムネの木工で出たゴミも、スライムが掃除してくれていた。ゴミ箱もいらないな。いや、スライムの巣として置いておくのもありなのか?
ゲーム用語など、わかりにくい部分、誤解している部分があれば、指摘いただけると助かります。