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第八話 藍白と杜若

 


「剣と(仮)魔法の国の異世界には、ドラゴンもいました! きゃっほい! って、マジですか~!」


 現実逃避しても無駄だった。香澄は、抵抗虚しくベランダまで引っ張られていった。


「どうして誰も、来てくれないの?! あんな、『キュォーン』だけど大音量の鳴き声が聞こえてないの?! 『管理小屋』がグラグラと揺れたりしているのに、いくらなんでも異変に気が付かないはずはないでしょう?!」


 くだんの白竜は、興味津々なキラッキラした瞳で、香澄を見つめていた。しっかりと、彼女の服だけをくわえたままで、鼻息がフーフーとかかり、香澄の前髪を揺らしていた。


「わ、わたしは、美味しくないですよ。食べないで下さい!」


 香澄は、震える声で命乞いをした。ただでさえ、突然、異世界にいる状況で精一杯だったのに、許容オーバーで、気絶したいくらいだった。

 白竜は、香澄の言葉にパチパチと瞬きをしてから返事をした。


『そうなの? でも、食べないよ』

「えっ?! 答えました。白竜さんが答えましたよね! じゃあ、離して下さい」

『逃げない?』

「は、はい」


 会話が成立していた。白竜は、グルグルと喉を鳴らしてるだけだった。しかし、翻訳魔法の力なのか?! 香澄は感覚的に白竜の言葉を理解していた。


『じゃあ、離すけど逃げないでね。そろそろ、邪魔者が帰って来そうだからね』


 白竜は、そう言って口をゆっくり開けた。服は牙に引っ掛かっていたので、香澄は震える手で外していった。服の胸元には、大小の噛み跡の穴が空いていたが、一応、スポーツブラの様な下着を身につけていたので、無防備に肌をさらさずにすんだ。


『いいかな? じゃあ、行こうか?』

「えっ! どこに?」

『ここは、邪魔者がいてお話しが出来ないから、一緒に来てね、来てね! じゃあ、暴れちゃダメだよ』


 白竜は、嬉しそうにグルグル喉を鳴らしてから、ほんのり青みのかかった白い翼を、バサリと羽ばたかせた。飛び散った羽根が、キラキラと香澄の周りに集まった。ぱあっっと羽根が光り、香澄はシャボン玉の様な虹色の球体の膜に閉じ込められた。


「魔法? 竜も魔法を使えるのですね。はぁ …… 」


 香澄は、そっと球体に触った。意外と硬く頑丈そうだなと思った。

 白竜は、前肢で香澄が入った球体を抱えてから、いきなりベランダから飛び立った。魔法の球体だからなのか、内部に居る香澄には、衝撃や重力変化を感じさせなかった。


『出発進行~♪』


 白竜は、楽しそうに喉を鳴らして上昇していった。虹色に光る透明の球体越しに、さっきまでいた『管理小屋』が見えた。小屋と言うよりも、大きな二階建てのログハウスに見えた。

 上昇して行くと、建物を中心に、なにもない草原が陸上競技場ぐらいの範囲に拡がっていた。

 そして、その更に外側は森だった。木々の隙間を霧が流れている。雲り空で視界は悪いが、かなり広大な大森林だ。

 ただ、上空から見下ろすと、『管理小屋』の周りの草原には霧がなかった。白竜の首越しに、空を見上げると、まるで台風の目の様に、ポッカリ円形に雲が抜けて青空が見えた。

 香澄は、これも魔法なのだろうか?まるで結界のようだと思った。空からの眺めは壮観で、夢でも見ているようだった。


「何をしている! 藍白あいじろ!」


 アレクシリスの声だ。白竜の正面の空中に、青色の鱗の翼竜の背に乗ったアレクシリスがいた。


『邪魔者。もう、戻ってきたの。もっと、足止めしてよ。杜若かきつばたの役立たず』

『お前こそ、どういうつもりだ。話が違う。騙したのか?!』

「藍白! 杜若! 知っていたのか?どうなっているんだ! 香澄! 無事か?!」


 アレクシリスが、怒鳴った。藍白と呼ばれた白竜は、アレクシリスの怒りを完全に無視していた。


『君、カスミって言うの? 可愛い名前だね♪ カスミちゃんかぁ、君にぴったりだね』


 香澄は、藍白と某イタリア男性タレントがのイメージが重なって見え、軽くて軟派な竜なんて嫌だと思った。香澄は、青竜の背中の鞍に乗るアレクシリスに呼びかけた。


「アレクシリスさん。わたしは、とりあえず無事です!」


 アレクシリスは、香澄の言葉に頷くと、青竜の手綱を操り藍白に近づいていった。


『ダメだよ。カスミちゃんは渡さない。人間なんかに渡せない。杜若、頑張ってね♪』

『 …… ?! 止せ! 藍白!!』


 青竜の杜若は、慌てて近づくのを止めて空中でぴったりと止まった。


「杜若、どうしたんだ? 藍白は何と言っているんだ?」


 アレクシリスは、藍白の言葉は解らないようだった。藍白は、大きく息を吸い込んだ。香澄は、嫌な予感がした。


「駄目! やめて!」

『やめろ! 藍白! バカ野郎ーーーー!!!』


 香澄の叫びは、藍白の吐き出す炎の咆哮と、杜若の絶叫に掻き消えた。

 藍白は、炎を吐ききると物凄い勢いでどんどん上昇していった。やがて、足元の景色から雲にぽっかりと空いていた穴が、どの辺りだったか分からなくなった。遠くの地平線が丸く、雲の切れ間に陸地や海が見える。

 香澄達は、遥か上空の宇宙との境目に居るのではないかと思われた。プツンと、香澄の頭の中で、何かの繋がりが切れた感覚がした。香澄は、はっと、我に返って叫んだ。


「藍白!! アレクシリスさん達に何て事するの?!」

『大丈夫だよ。杜若は強いし『契約者』を絶対に護るからね。あの程度の炎なんか、目眩ましにしただけだから、へっちゃらだよ。無事だよ』

「本当に無事なの? それに『契約者』ってアレクシリスさんのこと?」

『『契約者』は、竜と人間の盟約に基づき契約を交わせし者のことだよ。だから、あいつらは二人で『竜騎士』なんだよ』

「竜騎士 …… 。藍白は、どうしてわたしをさらったの?」

『じっくり、お話しするため?』

「はあ?!」

『もう少ししたら、『キプト』に着くからね』

「『キプト』?」

『竜族の町だよ』

「キプト、キプト……メイラビアさんの姓が確か、『キプト』だった様な?」

『竜族は、姓が無いから出身地を名乗るんだよ。僕は、藍白=バルシャ』

「藍白=バルシャ。もう一度聞くけど、何故、わたしを拐ったの?」

『世界を救ってもらう為?』

「だから、どうして疑問文なの! なっ!」


 香澄は、それ以上何も言えなかった。藍白が、予告なしに急降下したからだ。

 香澄は、突然の自由落下の感覚に、目を回して気絶する寸前に、アレクシリスの声を聞いた気がした。




お読みいただき、ありがとうございます。


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