第三十話 魔力測定
香澄に目覚し時計は必要ない。目覚ましをセットした時間の前に、起きてしまう特技があった。香澄はまだ、年寄りは早起きの法則が、適用される年齢には早いはずだ……。
『『『ちゅん。ちちち。ちゅん。』』』
今朝は、小鳥皓輝の可愛らしい合唱で起こされた。香澄は、スッキリと目覚めて、ベッドの上で伸びをした。
「んーーっん⁈ あれ? いつ寝たんだろう?」
昨夜、寝酒に杜若に果実酒を一口飲んだ辺りから、記憶が無いのでモヤモヤした香澄は首を傾げた。
『おはよう。香澄』
「おはようございます。リーフレッドさん」
美女の登場に、香澄は朝から眼福だなぁと、残念な思考で通常運転だ。
リーフレッドに朝の支度を手伝ってもらい、朝食に向かおうとしてベッドの上にいた黒猫皓輝を抱き上げた。
だが、香澄は黒猫皓輝をまたベッドに下ろした。皓輝は、首を傾げながらシッポをパタン、パタンと揺らしている。
「ところで皓輝? 聞きたい事があるから、話せる姿になって?」
『はい、香澄様』
皓輝は、少年の姿になった。青年の姿にならなかったのは、香澄が青年皓輝だと緊張するからだ。なかなか、皓輝は香澄をよく分かっていて、しかもあざとい。
「ねえ、皓輝。わたしの『認識阻害の魔術』を解いてくれる?」
『何故でしょうか?』
「昨日は、その方が安心だろうと思ったから、そのままでいいって言ったけど、このままボンヤリしてたら、色々とダメでしょう。何かを誤魔化しながら、生きていたくはないの……」
『香澄様は、ご自分が傷つく事や、魔力暴走が怖くないのですか?』
「怖いわよ。でも、いつまでも逃げてちゃだめでしょう。まあ、ダメな時は、ダメだから、周りに助けて下さいって、言うから大丈夫。それに、真っ先に皓輝が助けてくれるでしょう?」
『御意に……!』
「ありがとう」
香澄は、少年皓輝のサラサラの茶髪を撫でながら、ハイスペックになってる従者に感謝していた。
『現在、香澄様の魔術担当の小鳥三羽は、『翻訳魔法』『認識阻害の魔術』『探査用発信機』になっています』
「『探査用発信機』?」
『私は、香澄様のお側を離れたりしませんが、念のため香澄様の位置を確認する為です』
皓輝が香澄の護衛も兼ねているのだから、当然必要なのだろう。ただ、香澄はちょっと気になって皓輝に尋ねた。
「『探査用発信機』に録画とか画像通信機能とか無いよね」
『……非常時以外は、使用致しません』
「あるんだ! 非常時以外使用禁止だからね!」
『御意に……。『認識阻害の魔術』が不要なら、『ダミー』に致しましょうか? 魔導師のような魔術を感知する者に、香澄様に『認識阻害の魔術』がかけられたままだと思わせておきます』
「わあ、皓輝が進化している! それでお願いします!」
香澄が、キラキラした目を向けて笑うと、皓輝は嬉しそうに微笑み返している。
「ところで、小鳥皓輝は何羽いるの?」
『香澄様に三羽、身辺警護と偵察用にそれぞれ八羽、予備に二羽の合計二十一羽です』
「思ったよりも多い!」
『茨の塔』の今朝の食堂は、ビュッフェ形式で、好きな物を好きなだけ食べられるようだ。
香澄は、魔術師見習いの灰色ローブをフードまでしっかり被って着ていた。黒猫皓輝は、香澄の肩から背中に、貼り付くように乗っているが、重さを感じさせない。食堂の入り口で、動物を連れて入れるか心配していると、黒い魔術師のローブの少女が、大きな白兎を連れてやって来た。
白兎は、鼻先をヒクヒクさせて表情や仕草が大変愛らしかったが、中型犬程の大きさがあって、なかなか迫力があった。
少女は、戸惑った様子の香澄に、声をかけて食堂の使用方法をざっと教えてくれた。
朝の食堂は、セルフサービスでお皿を手に、食べられる分だけ取り分けてテーブルで食べる。ドリンクバーまであって、こちらは無料だそうだ。日替わりスープは一杯目は無料で、二杯目からは有料になる。
ただし、料理はおかわりは出来ないので、最初に選ぶ少し深めのお皿の大きさで料金が変わる。
実験動物の持ち込みは禁止だが、愛玩動物は、常識の範囲内で連れて来ても良いそうだ。
黒いローブの少女は、香澄に教えると大皿を手にして、すぐに立ち去って行った。少女の背中に香澄がお礼を言うと、振り向かずに頷いていた。
香澄は、大中小のお皿を前にして悩んだ。もちろん、小中のどちらにするかだった。香澄は、朝ごはんを食べる派だったが、量は少なめだった。若い頃は、ペロリと食べられた量を、胃が受け付けなくなったのは、四十代になってからだっったろうか?
朝の食堂は、夜型の魔術師が多いせいか、人もまばらだった。昼夜逆転の生活者が多いのなら、早朝にディナーを食べてしまい、今ぐらいの時間に眠るのだろうか? もしかしたら、研究に没頭して、三度の食事を規則正しく摂っていない気もする。香澄は、お皿の山を前にして、悶々と考えていた。
「香澄ちゃん、おはようございます 」
「おはようございます。メイラビアさん」
魔導師専属メイド服姿のメイラビアは、朝から背筋がピンと伸びていて、とても凛々しく美しかった。
「昨夜は、良く眠れましたか?」
「はい。いつ寝たのか、覚えてないくらいグッスリ眠れました」
「それは、良かったですね。今日は、香澄ちゃんの魔術要素を測定する予定ですから、しっかりと食べておいた方がいいですよ」
「では、中のお皿にします」
「食堂の使用方法はお分かりですか? お皿を持って、そちらのゲートをくぐると、ローブの魔法陣が反応して支払いが出来ます」
香澄はお皿を手に、大皿に山盛りの料理が並ぶエリアに向かった。手間のアーチ型の鉄製トレリスの様なゲートをくぐると、電子音のような音がした。
これが、支払い完了のお知らせ音のようだ。
「この仕組みを考えて普及させたのは、遊帆なのですよ」
「遊帆さん、意外と普通の事も、ちゃんとやってて、すごいですね!」
メイラビアは、大皿を手にしていた。彼女は、意外と大食漢さんのようだ。
「おかげで、かなり人員不足の解消と人件費が削減出来きたそうです。こちらの料理も、作り置きでも美味しく食べられる様に、保存の魔法陣の上にあります。食堂の料理人が日中に調理をして、夜に帰宅する生活になってから、料理の味が美味しくなったそうですよ」
「そうなる以前が、とても悲惨だったように聞こえますね」
「ええ、魔窟食堂の食事には、実験で死んだ動物が使われているとか言われてました。いやだわ、爽やかな朝食の時間に相応しくない話ですね」
「はははは……」
残り少なくなった皿は、白いコック服の男性が新しい料理の乗った皿と交換しているので、どの料理の皿も山盛りだった。
香澄は、美味しそうな匂いがする料理を、少しずつ取り全種類味見しようとしたが、三品目で皿の大半が埋まってしまい諦めた。メイラビアの大皿は、こんもりと盛り上がっているのに、まだ上に積みあげるらしく、せっせとから揚げを乗せていた。
香澄は、適当な席にお皿を置いて、ドリンクバーで紅茶を入れた。砂糖を入れなければ、何にでも合うからだ。蛍光色の果物ジュースらしきモノは、次回にチャレンジしようと、香澄は考えながら席に戻った。
メイラビアが、今日のスープを二人分持ってきてくれたところだった。
「このスープは、おすすめだからぜひ飲んでみて下さいね」
「ありがとうございます。いただきます」
「いただきます」
メイラビアも手を合わせてそう言った。香澄は、異世界の文化がこんなに自然に受け入れられていて嬉しくもあり、不安でもあった。
香澄は、異文化交流で合理的だからと言って、何もかも受け入れてはいけないのではないかと考えてしまった。何故なら、元々の文化も、気候風土や歴史と人々が培ってきたものだ。それを、凌駕して広まる事に、反発を抱く人がいても当然だと思ったからだ。 『落ち人』が、好意的に受け入れられない感じがするのは、こういう事から始まっているのかもしれない。
ふと、香澄は自分がずいぶんと細かい事から気にしだして、ネガティブな思考をしている事に気がついた。『認識阻害の魔術』がなくなったからだろう。
これは、前途多難かもしれない。ストレスに弱い人間は、異世界転移に向かないと思った。少しくらい、鈍くて大雑把な性格じゃないと、一から十まで気にしてしまいそうだ。何のために、心配する皓輝に頼んで『認識阻害の魔術』をなくしてもらったか、香澄は気を引き締めて、朝食のお皿の中身に集中した。
「た、食べ過ぎたかもしれない……。でも、美味しかったです! ごちそうさまです」
「ごちそうさま」
メイラビアの細い腰回りのどこに納まったのか、大皿の特盛料理はきれいに消えていた。香澄は、食べた分だけ少しぽっこりしたお腹に、せっかくスリムな体型になったのだから、維持出来るように頑張ろうと誓った。
「香澄、こっちはデザートのコーナーよ。小皿に一皿分なら無料なのよ」
「えっ! どんなのがありますか?」
黒猫皓輝は、香澄が食べた分のカロリー計算をしていたが、結果を伝えるのはやめた方がいいだろうと、欠伸をしながら考えていた。
朝食後、香澄が女子寮の部屋で寛いでいると、お昼前にメイラビアが迎えにきた。
「香澄ちゃん、『茨の塔』の実験場に案内します。場所は、塔の一階を貸し切りにしています」
「あの塔ですか?」
「はい。今日は、遊帆とノックスフィム師が担当します。明日は、ソナタナス師が午前中、精霊と魔法についての講義を行います。午後からは、トリージェラ師が精霊を行使した魔術の実践を見せてくれるそうです」
香澄は、メイラビアのあとをついて長い通路を歩いていた。石造りの階段のあるホールに出ると、沢山の扉が並んでいた。
メイラビアが、鉄板で補強された黒い扉を開けると、そこは屋外で草原が広がっていた。
「え、あれ?」
「ふふふっ。ビックリしました? 塔の内部は、違う場所に繋がっていたり、魔法をいくら使っても壊れない空間があったり、極寒の局地や灼熱の砂漠など、様々な環境の空間があるのです」
メイラビアは、驚いてる香澄を見て微笑んだ。
香澄は、まるで生きた迷宮のようだと思った。塔の形の迷宮だから、最上階に迷宮の核があるのかもしれない。香澄は、少しワクワクしてきた。
遊帆とノックスフィムは、爽やかな風の吹き抜ける草原に、まばらに生えている木の影で待っていた。小さなテーブルが置かれて、木製の椅子が取り囲んでいた。
「まず、香澄ちゃんの魔力の総量を測ろう。この魔石に手を置いてみて」
「手を置いて、魔力を込めると光るのですか?」
「あははは、何もしなくていいよ。結果が表示されるから……」
「そうですか……。魔力測定って、ちょっと憧れてました」
香澄が楕円形の湯たんぽみたいな半透明の石に手を乗せると、石がみるみる透明になっていった。
「もう手を離して大丈夫だよ」
「あ、はい」
香澄は派手に魔石が輝くのかと思っていたので、反応が少なくてガッカリした。手を離すと、魔石の中心に文字が浮かび上がっていた。
「測定不能だな……。まあ『落ち人』は、王族や高位貴族並みに魔力があって普通だから、一般的な魔力測定器じゃ総量は測れなくて当然だな」
「えっ? そんなものなんですか?」
「そうさ、だから『落ち人』は、この世界に落とされているのかもしれないよ……」
暗い目をして遊帆は呟いた。香澄は、そんな遊帆の目が赤いのを見て、また徹夜したのかもしれないと思った。
昨夜、杜若が香澄のパソコンにパスワードを入力してロックを解除してしまったから、ダウンロードしたラノベをずっと読んでいたのかもしれない。
遊帆は、何故パスワードを杜若が解除出来たのか、理由を知っているのだろうか?
「では、今度はこちらを使います。この石のどれかに指先を置いていただけますか?」
ノックスフィムが、円盤状の魔道具を取り出した。お盆の様な木製の分厚い板の表面に、魔法陣が刻み込まれている。縁に宝石の様な石が均等に時計の文字盤のように配置されている。香澄は正面の近い石に人差し指を置いた。
魔法陣に魔力を注ぐ! 必要は無いらしい。最初に触れた魔石から順番に光り始めた。そして、最終的に全部の石が光り出して、中心の魔法陣が輝いた。
ーーーーポムン!
軽い音を立てて、何かが現れた。
お読みいただき、ありがとうございます。
ご評価ありがとうございます。
久々に嬉しかったです。
次回こそは、香澄に魔法無双を……!
いや、甘々な展開を……!
いやぁ、作者も、ストーリーがブレブレなのを、自覚しています。
反省しつつも、好き勝手にしか書けない駄目作者ですね。
やっと、スマホでの新システムの執筆に慣れて失敗が減ってきました。次話が早めに投稿出来るように頑張ります。




