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魔霧の森の魔女〜オバサンに純愛や世界の救済も無理です!〜  作者: 七瀬美織
第二章 疑雲猜霧のファルザルク王国
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閑話 茨の魔王 ①

※遊帆視点です。



 俺の名は海野(うんの)遊帆(ゆうほ)。ファルザルク王国に保護された異世界人だ。現在、三十五歳の……契(・)約(・)上(・)は(・)既婚者だ。


 今から五年前に、俺は異世界転移してきた。この世界の人間に『落ち人』と呼ばれる存在だーーーー。




 ファルザルク城は、砦跡だった名残で幾つもの建物が複雑に寄り集まって、迷宮の様に複雑な入り組んだ構造をしている。城内は、貴族から平民まで、様々な職業の多くの人々が働いている。


 城は、内壁と外壁の二重構造で、外壁は王国軍の厳重な警備に守られている。


 しかし、内壁は外敵の侵入を防ぐ役割として建造されたいうよりも、増築が壁の外側にまで及び、建物と一体化した壁をそのまま残さざる得なかった結果だそうだ。

 内壁を壊さない理由に、古代魔術の結界がまだ機能しているからだとも言われている。それは本当だが、警備上の問題で声高に話すような事じゃない。


 城内で働く人々は、内壁の内側を『宮殿』、外側を『外殿』と呼び区別している。


 『宮殿』は、主に王族と大臣を中心に文官達が執務を行う王宮が大部分を占めている。その更に奥に、王族の住まう奥宮がある。

 近衛騎士団が、王宮と奥宮の間に詰所を置き、王宮内の警備を担っている。

 王宮の東に、竜騎士団の詰所と宿舎が隣接している。『囁きの森』と呼ばれる竜騎士の『契約竜』の寮は、さらに奥の崖側に建てられている。

 王宮を挟んで反対側に、魔術師団の本部兼研究施設兼宿舎の『茨の塔』がある。


 『外殿』は、王国軍兼警備隊の本部と詰所、使用人の宿舎や倉庫があって、他にも様々な施設の多くは、外殿に新築された。


 実は、古代神殿の遺跡を利用した地下道があったり、地下も何層にも広がって、ダンジョンのような巨大な古代都市があったりするのだが、割愛しておく。

 ちなみに、罠(トラップ)はあるが魔物はいない。魔物よりも恐ろしい特(・)殊(・)な(・)騎(・)士(・)が巡回しているそうだ……。


 俺が所属する『茨の塔』は、魔術師ギルドの別名でもあり、魔術師団本部と魔術師ギルドの宿舎も兼ねてた見かけは茨に覆われた石造りの古びた塔だ。


 『茨の塔』は、国中の魔術師が詰め込まれた場所だ。


 許可なく侵入すれば実験体にされて、二度と出られないとか、改造されてしまうとか、嘘か本当かわからないような、危ない噂が絶えない場所でもある。

 実態は、魔術師達が寝食を忘れて魔法の研究に励むために、様々な魔術が掛けられた実験場である。

 おまけに、内部は空間魔法で見かけよりもはるかに広いとか、魔術で時間の流れが違ったりとか、一部が違う場所に繋がっていたりとか、扉の向こうは亜空間になっている等々、俺も全部把握しきれていないので、やはり割愛させてもらう。


 そんな『茨の塔』の一角に、国家魔導師である俺の部屋はある。因みに塔の頂上というわけではない。


 この世界は、剣と魔法の世界だが、魔術師になれるレベルの魔力量と魔力操作の才能を持つ者は少ない。


 この世界は、強力な魔法を使える者を嫌悪する傾向がある。『悪魔族の申し子』などど揶揄(やゆ)され、貶められる。ささやかな魔法は受け入れているのに、強すぎる能力は嫌悪される。この世界の生物の生命活動に必要な魔素や魔力を、否定しているようで矛盾している。

 そして、地方ほど冷遇される傾向が強い。


 ファルザルク王国は、魔術師を重要視して保護している。だから、『茨の塔』に所属する者は、様々な国や場所からやって来た人々で国際色豊かな組織になっていた。


 俺が、国家魔導師なのは『聖なる茨の精霊』の祝福を持っているのと、先代魔導師の指名があったからだ。


 先代魔導師は、正に人望の厚い好々爺という感じの人物だった。この世界の常識が何もわからない俺に、短期間で死にそうなほどスパルタ教育を施してくれた。『死にそうな』は、死ぬほどのことじない。そう感じる程度の話だ。俺は、本当に殺されかけた経験がある。


 俺は、その経験の為か、どういう訳か『聖なる茨の精霊』の祝福を持っている。


 多分、魔術師見習いとして、『茨の塔』に来た時に授かったらしい。祝福を授けられた瞬間の自覚が全くないので、感動もへったくれもない。俺的には、ビビビッとかみたいな感覚が欲しかったが、そういうものらしい。人によっては生涯を終えるまで、精霊の祝福に気がつかない事もあるそうだ。


 『聖なる茨の精霊』の祝福は、物理であれ魔術であれ、どんなに俺が攻撃されても致命傷を防いでくれる。

 例えば、メイラビアの全力鉄拳を頭に受けても、たんこぶが出来る程度に緩和されるという、やや残念仕様だ。


 魔術師の世界は、完全なる実力主義で序列を決める。序列の決め方も、分かりやすく公式な決闘制度だし、管理能力のない者は幹部にはなれない。


 しかし、国家魔導師は指名制だ。先代魔導師は、次代として『聖なる茨の精霊』の祝福を持つ者を指名する。

 先代は百歳を超える高齢で、一年前に穏やかな最期を迎えた。


 『茨の塔』は、ファルザルク王国が魔術を庇護した事から始まった組織だ。魔術師団と名乗りながら、ファルザルク王国の公的機関ではない。国家魔導師と呼ばれる組織のトップのみが、魔術師団として王国の為に働く義務を負うのだ。


 国家魔導師は、魔術師団の団長として王国から命令されると、魔術師ギルドの長として、緊急時や依頼によって魔術師を適切に派遣する。判断力が必要な上、人望もなければならない。魔術師ギルドの長として、依頼の受諾や人選は、幹部連中と相談して決めるし、国の依頼を拒否する権利もある。


 ファルザルク王国は、場所と研究費を提供して、魔術研究の成果を買い取る。周辺諸国から余計な外圧をかけられるのを防止する建て前なのだ。まあ、詭弁だが、この仕組みは上手く働いている。


 基本的に、魔術師は自由を愛し支配を嫌う。マイペースなオタク気質な者が多い。

 だから、野心家は『茨の塔』の魔術師に向かない。そういう奴は、『王宮』で『宮廷魔術師』という名の文官を目指した方がいい。国家の重要ポストに就ける可能はあるだろう。


 だが、『王宮』は『鳶色の魔王』の縄張りなので、魔術を使って簡単にのし上がる事は出来ない。


 以前、精神系の魔術が得意な男が、『茨の塔』から『王宮』勤務を希望した。俺が試しに申請したら、『王宮』からすんなり許可が下りた。

 奴は、半年間ほど下級文官として働きながら、得意の精神系魔術で、機密事項を集めたり、上司の弱味を握って脅したりして暗躍していたそうだ。

 それが、突然行方不明になった。これは、消されたのかもしれないと思っていた一月後、陛下の執務官の一人になっていた。

 俺は、自分の目を疑った……。アクの強い黒い野心家が、爽やかな笑顔を振りまきながら、気持ち悪いくらいキラキラした目で女王陛下を仰ぎ見ている。誰だ、コイツ……と、思うほど別人になってしまっていた。

 まあ、望みどおりに文官として、破格の出世をしたのだからいいんじゃないか?

 何があったのか、誰も真相を知らないのに、『鳶色の魔王』に魂を売り渡したのだと影で噂が広まっていた。


 『鳶色の魔王』が誰なのか、何の組織なのかは、やはり割愛させてもらう。俺だって命は惜しい……。




 記録では、同時代に『落ち人』が生き残る事は滅多になかったし、一割弱の生存率しかない中、正確な『落ち人』の発現実数の把握は難しい。

 しかし、ここ数百年は頻繁に『落ち人』が発見されていた。ほとんどが遺体だが、直近の生存記録は百年以内に二人いた。

 その片方は、忌わしい『エンディライムの悲劇』を起こした『落ち人』だ。


 核心を知る生存者がいない為、真相は謎のままだが、エンディライム侯爵家が保護した『落ち人』の魔力暴走で、領都が消失したそうだ。犠牲者も被害も甚大なものだった。


 俺にも少なからず影響を与えた事件だった。少ない資料を調べれば調べるほど、不愉快になる話だ。『落ち人』は女性で、侯爵家に無理矢理嫁がされたらしい。


 逆に、同じ時代に保護された少女の『落ち人』は、保護された伯爵家当主と幸せな結婚をしたそうだ。彼女のラブロマンスは、演劇になったりしたそうだ。


 実は、ファルザルク王国は『エンディライムの悲劇』を『異世界転生者』の所為だと公式に発表していた。国益をもたらす事の多い『落ち人』を、これから先も国が保護する為の対策だったのだ。

 そのかわり、『落ち人』に対して厳しい法が整備されて、様々な制約が作られた。『管理小屋』で『落ち人』を保護し、『管理者』をつけて厳しく監視しながら国益に叶わない『落ち人』を秘密裏に処分する。

 当時、そんな理不尽な法が必要な程、貴族と中枢部に不安があったのだろう。


 その法のもと、何人の『落ち人』が保護されて、何人が処分されたのか公式な記録はない……。


 エンディライム領都の跡地は、見る影もなく荒れ果てて、中心に湖と不思議な赤い花が群生していて、一年中咲き乱れている。




 だから、俺が香澄ちゃんに出会えたのは、奇跡だと思った。


 俺は、異世界転移した現実を受け入れるのにとても苦労した。

 だから、ファルザルク王国に原案を出してが監修したのが、『ラノベ世代の取り扱い説明書及び質問想定集』だ。

 ラノベ世代にとって異世界転移は、テンプレだ。矛盾を突かれて論破されると、説得するのに非効率だから、絶対必要だと力説して作成された公文書だ。作らせる時は真剣に必要性を説いたが、マニュアルなんて、悪乗りし過ぎただろうか?


 川端香澄の鞄には、日常生活の匂いがありありと残されていた。手帳のカレンダーの西暦は、俺が此方に落ちてから、五年後を示していた。


 祝日の違いから、彼女と自分の世界が異なると知れたが、そこはさしたる問題じゃない。非常に似ている異世界からしか、異世界人はやって来ない。

 それは、歴代の『落ち人』の遺品からも証明されている。


 俺は、彼女のプライバシーを覗く罪悪感より、少しでも懐かしい故郷の香りにすがりたかった。この世界に比べれば、違いはあってもごく僅かと言ってもいい。少しでも、自分の世界のその後に近い出来事を知りたかった。

 その流れで、法事の予定のメモから、彼女の夫の一周忌を知ったのだった。


 スマホは壊れて、復元出来なかった。事前に復元魔法をかけておけば、壊れた物も魔法をかけた時点に復元出来るが、魔力を予め大量に注ぐ必要があり、非効率な魔術だ。


 パソコンは、なんとか復元できそうだ。手間のかかる術式を組み、魔力をコントロールしながら繊細な調整が必要だ。復元さえ出来れば、複製も可能だ。自分の才能が時々、恐ろしくなる。

 彼女が言うには、パソコンの中に、百冊以上のライトノベルがダウンロードされていて、好みの問題はあるが、一応メジャーな物は網羅しているそうだ。俺の記憶と内容に差異がないか検証するのも面白そうだ。


 最初、川端香澄の身分証の写真と生年月日から、別人の荷物が紛れたのかとも考えた。魔術を駆使して、彼女の物だと判明した。

 彼女は、若返っただけでなく、姿も瞳の色さえも変化している。リングネイリアの竜核の影響だとしても、こんな『落ち人』の前例はなかった。


 鞄の中身に化粧品や身だしなみに必要なグッズの数々の他に、病院の処方薬を見つけた。認識阻害の魔術が、薬と似た作用を一部もたらすとしても、根本の対処療法として最悪の環境にいる。環境の変化は、ストレスの原因だ。異世界という異常な環境の上に、初対面の人に囲まれて、ストレスは増すばかりだろう。


 そして、手提げの紙袋に入っていたのは、文庫版のライトノベルが数十冊。俺が異世界転移する直前まで愛読していたタイトルの第一巻から、まだ読んでない数巻と、発売されたばかりの新刊最終巻までもあり、年甲斐もなくスキップして小躍りしていたら、清掃担当の魔術師見習いに目撃されてしまった。

 新しい魔術陣の描き方を研究しているとクソ真面目な顔を作って話すと、純粋な彼は信じた……。罪悪感から、足のステップを感知して魔術を発動する魔道具を発案したら、陛下から研究費が出た。もっと精度を高めて、防御や攻撃に特化した魔道具に開発させたいらしい。


 俺は、魔術と戦争が結びつくと、兵器開発に繋がる危うさと、開発した魔術に責任を背負わなければならない事を、身をもって知って自重しようと決意する。


 ははは、この五年間で、何度目の決意だろうか……?


 その話を聞いたメイラビアに、冷たい目で見られるのはかなり堪(こた)えた。彼女は俺限定で、氷点下の対応をする。ツンツンでデレてくれない……。

 まあ、俺の自業自得であると重々承知している。


 本当は分かっている。メイラビアを解放しなきゃいけない。だが、チートな魔術をまだまだ中途半端な知識や不安定な魔力操作しか出来ない俺では、うっかりメイラビアを解放じゃなく、分解してしまいそうで怖いんだ……。いや、本気(マジ)で。




お読みいただき、ありがとうございます。

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