第二十一話 種族不明⁈
アレクシリスは、香澄に魔力を静かに流し、治癒魔法で回復をはかってくれていた。
じんわりと身体中に沁み入る魔力は、懸命に香澄を癒やそうとするアレクシリスの想いそのものだった。香澄は、意識を集中しなくても、そう感じる事が出来る程度に、魔力の感覚や魔素が馴染んできたようだ。
皓輝との『誓約』の繋がりも深まっている。香澄が皓輝の居場所を考えると、意外と近くに居ると感じて安心した。
「ランスグレイル、 …… 彼は、どうなったのですか?」
「藍白の話では、皓輝が貴女を助けるために、ランスグレイルの背中を斬りつけたそうです。傷ついたランスグレイルは、魔霧の森に逃げ去り、行方は、未だに知れません」
「ひどい、怪我なのですか?」
「皓輝は子猫の姿のままだったとか。ですが、前足の一部を巨大化させて鎌の様な爪で斬りつけたそうです。現状から、ランスグレイルの傷は、出血からみて浅くは無いでしょう。たが、命に別状はない程度だとおもわれます。彼は、回復魔法を使えるますから …… 」
「そうですか、良かっ …… 」
香澄は、自分の感情に違和感を感じた。二つの理由で香澄はほっとしたのだ。一つは、皓輝が人を殺すことがなっかた事。もう一つは、香澄の感情では考えられない部分で、ランスグレイルの生存を嬉しく感じている。
これは、リングネイリアの亡骸に宿る魔力を利用して、治癒魔法を施術された弊害なのだろうか? 香澄の感情のブレを頭から追い出しながらアレクシリスを見つめた。
アレクシリスも平静を装ってはいるが、本心はランスグレイルを心配しているはずだ。
香澄は、ただ話していただけなのに、疲れ切ってしまった。治療のおかげで、喉の痛みは消えつつあるし、身体中の痛みもほとんどなくなっていた。だが、熱が出てきたらしく、このまま眠ってしまいたいが、まだアレクシリスに聞きたい事があった。
「アレクシリスさん、わたしの姿は元に戻るのでしょうか?」
香澄の手を握った、アレクシリスの手がピクリと小さく弾んだ。アレクシリスは、眉間のしわを深くして沈黙した。香澄も黙って、秀麗な横顔を見ながら答えを待っていた。
アレクシリスは、深く息を吸ってから、何かを決意したように話し出した。
「これは、遊帆の見解ですが、結論から言いますと、このままの姿ではないかと思われます。香澄を遊帆のバイタル解析の魔術で診断すると、成人手前の年齢の種族不明の女性と表記されるそうです」
香澄は、アレクシリスの言葉にまたしても固まった。何度も、ひとつのフレーズが頭の中で繰り返される。
ーーーー 種族不明。
「我々は、重体の貴女に治癒魔法を、リングネイリアの魔力を使って施術しました。でも、誓って貴女の肉体を、変化させようとした訳ではありません。治癒魔法は、折れた骨を繋いで傷をふさぐまでが一般的な効力です。遊帆の治癒魔法は、常識はずれに強力で、原型を留めない骨や潰れた内臓までも再構築してくれました。完全な健康体近くまで治癒させています。しかし、遊帆の魔術でも肉体の再生であって、別人のように、新たな肉体を作るのは、本来不可能なのです。香澄? 震えてますね。大丈夫ですか?!」
「アレクシリスさん、今のお話しで、聞き捨てならない言葉が、種族不明って? あっ、目をそらさないで教えて下さい!」
「あの、それは、竜族、人族、獣人族、以外の、遊帆の診察したことのない種族、ということらしいのです」
「に、人間じゃないの?」
「 …… 遊帆は、ハイエルフや、神族という存在に近いんじゃないかと …… 。香澄?」
香澄は呆然とした。自分はもう人間かどうかも怪しいなんて、いきなり告白されても納得いかない。たしかに命は助かった。感謝している。しかし、こんなのは …… 。
「こんなの、異世界転生と変わらないじゃないですかっ!痛っつ!」
「香澄、傷にひびくので興奮しないで、もう眠って下さい。私は、遊帆の補助なしに治癒魔法はそこまで急速に使えないのですから」
「あと、一つだけ、お願いします! わたしは、元の世界に帰れますか?」
香澄は、ずっと、ずっと、聞きたかった言葉を吐き出せた。認識阻害の魔術に邪魔されて言えなかった。まず一番最初に確認するはずの質問だった。その答えしだいで、これからの自分の生きる指針を、決められると言っても過言ではなかった。
「『落ち人』が、遊帆も含めてですが、帰還方法を探し求めて見つけた者は、誰一人いません」
「そう、 ……………… ですか。ありがとうございます。ちょっと疲れました。眠ります。アレクシリスさん、もう、だいぶ身体も良くなってきたので、治癒魔法をやめていただいても大丈夫です。アレクシリスさんも、お疲れでしょうから」
「もう少し、様子をみてからにしましょう。治療が必要かどうか、患者が判断する事ではありません。 …… おやすみ、香澄」
「お、おやすみなさい」
香澄は、アレクシリスが耳元で最後の一言を囁いたので、大いに照れた。握られた手から、上がった心拍数が伝わりそうで、それを抑えるように目を閉じた。冷静になれるように、ずっと、ひっかかていた件を考えてみた。
多分、遊帆が認識阻害の魔術をかけたのは、悪意からではなっかたとう結論でいいだろう。
もし、香澄が目覚めてすぐの『管理小屋』で、異世界転移した事、大怪我をした治療で、姿だけじゃなく種族まで変化した事、帰れない事を一度に知ったら、パニックや人格崩壊、さらに、魔力の暴発だってありえたかもしれない。
たとえ、この魔法が高位の魔術師の干渉を受ける可能性を解っていたとしても、香澄のように次々とトラブルに巻き込まれ、実際に干渉を受けるなんて考えてもみなかったはずだと思った。
遊帆さん、疑ってごめんなさい。でも、効果抜群すぎて、やっぱり危険な魔術なので、絶対解除して下さい …… 。
お読みいただき、ありがとうございます。




