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影法師は忍ばない  作者: 雨森汐也
『紫鏡』
9/13

エピローグ

「だからー、クッチは何度も説明してるだろー。法堂先輩御一行が予定より遅めに来てちゃんとハンバーグ食べて帰ったってー。」

『紫鏡』にお灸を据えて、三人が元の世界へ戻った後、これは後日談のようなその日中の話だ。

長谷川家のリビング、時刻はもう既に夜の九時を回っている。

元は米俵のような肉厚ジューシーなハンバーグが載っていた、であろう空の皿を見て、アキが残念そうに玄一に詰め寄る。

「ハンバーグ食べたかった〜、もうお腹ペコペコだよぉ〜」

「こんな時間に食ったら太るぞ」

淀が横槍を入れるがアキは引き下がらない。口をへの字に曲げて「何か作れ」と玄一に念を送っている。

長い間結界を張っていた彼女の疲労は相当なものになるだろう。

それを分かってか、珠城がアキを宥めるように言う。

「アキ、事情を話せばお母さんが何か作ってくれるかも知れないわ。どうせ玄一さんだって何も食べてないんでしょ?」

「本当?ねぇねぇクッチ、一緒にお願いに行こう〜」

「何でクッチ同伴なのさ!」

玄一の手を引いて、珠城の両親が居る一階へ駆け下りていくアキ。珠城は怪我をした肩をさすりながら二人を見送っていた。

「珠城」

ーー珠城が座るソファーの前に法夢がずい、と現れた。手にはタオル地の白いスリッパーーメロスがある。

「世話になったな、返す」

ぽい、と珠の足元に投げるが、珠城は履こうとしない。ただ、ソファーの上で胡座をかき、頬杖をつきながら相棒を眺めているだけだ。

「何だ、水虫気にしてるのか?」

琴彦が隣のソファーに座り冗談めかして言うが、(一瞬物凄い剣幕で睨んだが)珠城は反応しない。

「俺、水虫持ってないからな。」

場の悪くなった法夢が言う。やがて珠城が静かに伝えた。

「アンタがさ、もう一回、『境』で修行するならーーメロスはあげるよ」

琴彦と丹木が同時に珠を見る。メロス本人も驚いたように一歩退いた。法夢だけが表情を崩さず、珠城を見据えていた。

《本心なのか、タマキ》

俯きがちに、珠城が答える。

「あんまり、モノに頼るのも『カゲボウシ』としてどうなのかなって思ったんだ。」

しばらく間を置いて、法夢が切り出した。

「アキには伝えたんだけどよ、今回の件はーー」


「兄貴がお前らを試す為に仕組まれてたんだ」


「えっ?」「はっ?」「へっ?」

見事に三人の声が重なる。



「俺はその為のサクラだ。残念ながら家の鏡が全部割れたっていうエピソードも、『紫鏡』に繋がる為のヒントだから嘘っぱちだしよ。どちらかと言えば、俺が『紫鏡』を長谷川家の前まで誘導したんだ。」

「ちょっとマジで藤路神社潰しに行こうかしら」

「人の話は最後まで聞けよ」

今にも飛び出して行きそうな珠城を琴彦と淀が取り押さえながら、法夢の話に再び耳を傾ける。

「ただ、一つ勘違いしないで欲しい事は、『紫鏡』は兄貴が創り出した『怪奇』ではなくて本当に出現した『怪奇』だという事だ。」

《ふむ。それなら既に調べ済みの。》

ロシュが長谷川家の白い天井にぶら下がりながら口を挟む。

「兄貴はどうやら、『境』の重要な役職に就くらしい。それで今一番活躍している『カゲボウシ』のお前らを試そうとしたんだとよ。」

へぇ、と呑気に琴彦は返したが、淀は眉をひそめていた。

「それにしては、『カゲボウシ』でもないお前によく法堂先輩はサクラを頼んだな」

珠城はまだ藤路神社の事しか考えていない。

法夢は淀の疑問に、ため息まじりに答えた。

「氷魚先輩が『役目』を降りるからな。さしずめ俺はピンチヒッターと言った所か。」

"氷魚先輩が『役目』を降りる"。たったその一言で珠城は野獣から花の女子高生に戻った。先ほどのまでの暴走は何だったのか、今はちょこんとソファーに座っている。

琴彦は全ての疑問に合点がつき、はあと力なくソファーにもたれた。淀はまだ疑問が残り、怪訝そうに法夢を見ている。

「じゃ、最後に俺たちが外に出ている間、法堂先輩は何で長谷川家に来たんだ?」

「あ、悪い。それは兄貴達が腹減ってるって連絡してきたからハンバーグの話したら」

「くそっ、やられた」

淀ががっくりと沈む。結局ハンバーグは淀にとっても惜しかったらしい。


「兎にも角にもだ、珠城。メロスはモノじゃなくてお前の"相棒"だろ。頼らなくてどうするんだ。」


珠城に背を向け、長谷川家を後にしようとする法夢。

「脇役程度の俺にお前の相棒は釣り合わないよ」



最後の最後に、振り返ってーー彼は言った。



「主役は『カゲボウシ』なんだ、忘れるなよ」












『紫鏡』…end


これにて『紫鏡』、終了です。

ここまで読んで下さって、本当にありがとうございます。

次回もある予定です。また読んで、おこがましいですが、感想など頂けると幸いです!

それでは、ありがとうございました。

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