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番外編 来栖渚の大事なもの(下ネタじゃないよ)

最近ラノベの共同合作目仲間を集めるために奮闘している鳥羽ふしみです。それでは、ごゆっくり。

バイトなし。宿題なし。


最高だ。今日は最高の日曜日だ。


猫背の背中をピンとさせ、僕はベッドから立ち上がる。


階段を下りて洗面所へ向かう途中、なにやら凛子の部屋のほうから賑やかな声が聞こえてきた。


今はもう午前十時。きっと凛子が友達でも呼んだのだろう。


上に向けていた首を正面に戻し、洗面所の扉を開いた。


開けたらなんと、女の子がお着替えしてました、というような素晴らしい展開は当然なく、誰もいなかった。


安心とも落胆ともとれない感情を胸に抱きながら、僕は冷たい水で顔を丁寧に洗っていく。


メイド喫茶で序奏なんかする手前、肌の手入れはしっかりとしとおかなければならない。


「これでよし……」


新品のタオルで軽く顔を拭いて、今度は保湿液を塗っていく。


女みたいなことをしているとは自分でも思う。けど、あのバイトで活躍するためには、それこそ女よりも女らしくなければならない。


と、琴乃さんから言われたもんでね。


これぞプロフェッショナル。


僕、カッコいい!


「……」


いや、別にかっこよくはないか。


なんだか決まり悪くなった僕は、とりあえずリビングに向かうことにした。


冷蔵庫から麦茶を取りだし、それを一気に飲み干していく。


季節はもうじき冬になるけど、それでも麦茶は素晴らしく美味い。


麦茶は夏に飲むものだと言う人は多いが、実のところ麦茶はオールシーズンいけるのだ。


「さて……どうすっかな……」


洗顔、麦茶、たった二つの行為を終えたところで、いよいよやることがなくなってしまった。


朝ごはんを食べるには中途半端な時間給のため、それは後回し。


最近のテレビ番組はどれもつまらないし、やっぱりこれも却下だ。


しばらく頭を悩ませたところで、僕は凛子の部屋の様子を見に行くことにした。


もちろん、ただ覗きにいくのでは、凛子に「何しに来たの?」と、冷たくあしらわれる決まってる。


じゃあどうするか。


僕はこう考えた。お茶とお菓子でも持っていって、いつも妹の凛子がお世話になってます、的な感じでいけばいいんじゃね、と。


なにも凛子の友達に興味があるわけではなく、ちょっとした好奇心だ。


凛子は前に、学校でボッチだとか何とか言ってたから、そんな凛子の友達はいかなるものかと。


ああ、先に言っておくが今うちに来てるやつは銀ではないと断言できる。


何故ならば、あいつがうちにやって来る時は必ず、僕が寝ていようが勉強していようがそんなことは関係なしに、僕の部屋までやってきて一言挨拶しにくるからな。


律儀ではあるが、もう少しその場の状況にあわせて行動して欲しいものだ。


だってさ、バイトに疲れてぐっすり眠っているのに、わざわざ叩き起こされるんだぞ?


喜ばしいとは口が裂けても言えないね。


そんなふうに今はなき銀のことを考えていると、いつの間にか凛子の部屋の前に到着していた。


今はなきとか言っちゃったけど、銀は死んでないから安心してくれ。


何だかオラ、ワクワクすっぞ!


とりあえず凛子の部屋の前で、聞き耳をたててみる。


なになに……。


「……」


「……」


あれ、なんも聞こえないな。


この扉は薄いから、普通の声のボリュームならこっちまで聞こえてくるはずなんだけど。


もしかしていま、ちょうど会話が途切れたところなのかも。


それならちょうどいい。


僕はお茶菓子片手にそっと扉を開いてみた。


「だから、私はあなたのお兄さんのことを愛してるわ。けれどあなたはどう? あなたの気持ちは私ほどに強いものだと言えるかしら?」


すぐにでも扉を閉めて、その場から立ち去ろうと思った。


思ったけど……何て言うか非常に衝撃的な発言を聞いてしまったことで、僕の思考と動作が完全に停止してしまったようだ。


扉を半開きにしたまま、僕は立ち尽くした。


「あら、ちょうどいいところに来たわね? そんなところに突っ立っていないで、こちらに来なさいな」


あんなとんでもないことを言ったのに、平然とした加奈子は僕の顔を見てそう言った。


ちらりと凛子の様子をうかがえば、ベッドに腰掛けいつもながらの不機嫌顔である。


しぶしぶ僕は、何だか甘ったるい匂いの立ちこめる部屋の中へと入ることにした。


僕が適当に座ると、それを確認した加奈子は再び話始める。


「私たちはいま、どちらのほうがより、あなたのことを愛しているか競いあっていたところよ」


「そ、そうか……」


僕は相づちを打つ。ていうかそうするしかなかった。


考えてもみろ。僕の元カノと妹がそんなわけのわからんことで争っていると聞かされて、何と言えというのだ。


何も言えるはずがない。


俯いたまま黙っていると、今度は凛子が言った。


「あたしのほうが……兄貴のこと愛してるもん……」


「うっ……」


以前、僕のことが好きならそれでいい。その気持ちを大事にしろと言ってしまったので、凛子に対してとやかく言うつもりはない。


その気持ちは素直に嬉しいし、ありがたいことだと思う。


けど、こうもストレートに言われてしまうと、僕としては立場がないというか何というか……。


まあ、要するにあれだ。気恥ずかしいってわけよ。


加奈子は少し唇を吊り上げて言った。


「証拠は? あなたが先輩のことを私よりも愛していると言うなら、証拠を見せなさい」


悔しそうにぎゅっと拳を握りしめた凛子を目にして、僕は咄嗟に話を遮った。


「か、加奈子……? もうその辺でやめとけよ。こんなのは不毛な争いだろ……」


だってさ、いくら凛子が僕のことを好きだとしても、その気持ちを面と向かって僕に伝えるなんてのはあまりにも酷だ。


好きって気持ちは、なにも言葉にする必要はない。


胸の奥にそっとしまっておいて、懐かしい思い出みたいに、ふとした瞬間に思い出せばいい。


とか、ちょっとカッコいいこと語るのはいいとしてだな。


凛子のやつ、一体どこに行くつもりだ?


ざっと説明しよう。凛子はおもむろにベッドから立ち上がったと思ったら、そのまま部屋を出ていってしまった。


加奈子の尋問に気分を害したと考えるのが妥当な気がするが、どうにも嫌な予感がする。


加奈子に視線をあわせてみるも、やはり僕と同じようにポカンとしていた。


「どういうことかしらね?」


「僕に聞くなよ」


「だってあなたは、凛子のお兄ちゃんなのでしょ? おまけに相思相愛の兄妹コンプレックスときたら、あなたに分からないはずがないわ」


はいはい。どうせ僕は、妹大好きの変態兄貴ですよ。


不貞腐れて加奈子から顔を背けると、下の方から何かをガサガサと物色しているような音が聞こえてきた。


下の方と言っても、恐らく僕の部屋からこの奇妙な音は聞こえてくるのだろう。


なんで分かるのかって?


簡単なことだ。


凛子の部屋の真下に僕の部屋があってだな、だからたまに、凛子の生活音が僕の部屋の方まで聞こえてくることがあるんだ。


その逆もしかりで、僕の生活音も凛子には聞こえてるはず。


じゃあ次。


どうして凛子は僕の部屋に入ったのかだ。


さっき凛子は加奈子に、好きという気持ちが自分より上であることを示せと言われていたな。


それから凛子はしばらくじっとしていたが、いきなり立ち上がって、そのまま僕の部屋へと突入した。


うん、意味わかんない。


「だめだ……分からん……」


座ったまま項垂れて、凛子が帰ってくるのを待つことにした。


十分後。


「加奈子! これが証拠よ!」


バーンと勢いよく扉を開け放ち、凛子は得意気な調子でそう言った。


加奈子はその言葉を聞くや否や、クスリと微笑して言った。


「ふふ、それは何かしら? まさか、そんな安っぽい箱が証拠だというのではないでしょうね?」


あ……あれは!?


「ふん、そう言っていられるのも今のうちよ」


「待て待て待て! ちょっと待ってくれ! どうしてお前がその箱の在処を知っているんだ!?」


「別に何だっていいでしょ」


「……」


僕はとても焦っている。


僕はとっても焦っている。


エロ本と一緒に隠しておいたあのブツが、こうも簡単に発見されてしまうとは。


って冷静なこと言ってる場合じゃねえ!


「いいから! 早くそれ返せ!」


勢いよく立ち上がって、凛子からそのブツを取り返そうとしたが、あらかじめ僕の行動を予測していたのか、簡単に避けられてしまった。


兄妹仲良く追いかけっこしているのは、非常に素晴らしい光景だ。


けど、僕の心情はそれを素晴らしいと思うどころか、むしろ苛立ちを覚え始めていた。


「さっさと返せ、この野郎!」


「きゃっ」


このままでは埒があかないと思い、凛子の背中目掛けて飛びつく。


その拍子に、凛子の手からブツが放物線を描いて飛んでいき、何とも最悪な展開ではあるが、加奈子の手もとにポトリと落ちた。


「あ、ばか! それは開けちゃ――」


「……写真?」


僕の言葉に耳を傾けることはなく、加奈子は素早く箱を開けてしまった。


もうこうなったのなら仕方ない。


諦めよう。


「ああそうだよ……それは写真だ」


右に左にと首を傾けて、加奈子はまったく意味が分からないといった様子。


まあ無理もない。


だってその写真は、全て凛子が写ったものなのだから。


小学校入学から現在に至るまでの凛子の写真。


そこには、笑っていたり怒っていたり泣いていたりと、実に様々な表情の凛子がいる。


そんな凛子だらけの写真集を、どうして僕が持っているのか。


そして、どうして凛子はこんなものを持ってきたのか。


加奈子にはさっぱり分からないのだろう。


いや、僕にもどうして凛子がこんなものを持ってきたのかは分からないが、それはひとまずおいといて。


僕は加奈子に向けて言った。


「その写真はさ、僕の宝物なんだ。自分でもちょっとキモいとは思うけど、本当に宝物なんだ。ほら、凛子が引きこもりだった時期があるだろ? そん時にさ、その写真見て、絶対に凛子の顔を忘れないようにしてたんだ」


加奈子は真剣な面持ちで頷く。


「さすがに三年も引きこもられてちゃ、いくら凛子の兄貴とはいえ、忘れちまうことだってあるかもしれないだろ?」


「そうかしら。私にはよく分からないわ」


何となく凛子のほうに視線を送ると、嬉しそうな顔して僕のことを見ていた。


「とにかく。この写真は僕にとっては宝物でさ、凛子と僕の絆をギリギリのところで繋いでくれていたんだ」


もし……もしこの写真がなかったら、僕ら兄妹はいつもみたいに、バカなことで喧嘩したり、下らないことで笑いあったりできなかったのかもしれない。


たかが写真、されど写真。


「ま、こんな話をしたところで、加奈子には理解できないだろうけどさ」


少しばかり思い出に耽っていたが、それもほんのわずかな時間。


「で、なんで凛子はこれの在処を知ってたわけ?」


凛子にしては珍しく、ニコニコとした表情で言った。


「前にね、たまたま兄貴の部屋に入る機会があって、なんとなーくベッドの下覗いてみたら、エロ本に紛れてアルバムがあったからさ」


「それで?」


「うーんと……まあ、あたしの写真なんて集めてキモイとは思ったよ? けど、すごく嬉しかったんだ。兄貴はあたしのこと、昔も今も、変わらずにちゃんと見てくれてたんだって」


「そ、そうか……」


凛子の口から、キモイなんて単語が飛び出してきたけど、なかなかに僕としても嬉しいこと言ってくれるじゃないか。


こんなもの凛子にばれたら、どんなに酷い罵声を浴びせられるのかとビクビクしてた自分がアホ臭い。


我慢しようにも自然と頬が緩んでしまい、僕は年寄りみたいに目尻にしわを寄せて微笑んでしまう。


「ほんとに……あなたたちは、とんだ変態ね。妹の写真を収集する変態兄に、それに対して嬉しいなどと言ってしまう変態妹。将来が不安だわ」


「うっせ。別に僕も凛子も変態なんかじゃない。ただの仲良しな兄妹なんだよ」


「あ、あたしも変態なんかじゃないし。こんなやつと同じ扱いしないで欲しいんですけど」


ほんとにまあ、可愛くない妹だよ、こいつは。


たまには「お兄ちゃん大好き」とかって言って欲しいものだね。


「……」


いやいや、やっぱりそれは無理だ。


少し想像してみたけど、そんなキャラはとんでもなく凛子には似合わない。


そうだな……やっぱり凛子は凛子らしくしてるほうが、まだ可愛げがあるってもんだ。


まあ、結局僕は、こんな妹でも可愛くてしょうがない、シスコン兄貴なのかもしれないな。


「何見てんの? まじうざいから、そういうの」


怒っているせいか、それとも暖房が利き過ぎているせいなのかは分からないが、凛子の顔は少し赤い。


そして僕は、そんな凛子を前にして、いつも通りこう言ってやった。


「はいはい、悪かったな」


いったん話が途切れたところで、いきなり加奈子は言った。


「そういえば私、凛子と何かを勝負していなかったかしら?」


勝負?


あ、そういえば。


どっちのほうがより僕のことを愛しているか、とかそんな感じのやつだろ?


「気のせい……じゃないか?」


当然僕はそのことはしっかり覚えていたが、知らないフリをしてやり過ごすことに。


凛子のやつもようやく思い出したみたいだが、下手くそな口笛なんか吹いて誤魔化している。


「そう……かしら? とても重要なことだった気がするのだけど」


「気のせい気のせい! うん、気のせいだよ!」


「ま、まあいいだろ? そんなに重要なことならいつか思い出すだろうし」


「何だか腑に落ちないわね」


「落ちる落ちる! 腑でも何でも落ちるよ!」


凛子が意味不明なこと言っているが、僕はそれをスルーして、加奈子もスルーして、ひとまずこの場はどうにかなった。


と思いきや。


「思い出したわ! どちらが先輩のことをより愛しているかの勝負をしていたんだわ! まったく……二人ともとぼけていたわね?」


「いやあ……そんな勝負してたんだあ……? お前ら大変だなあ……」


僕は素早く扉の方へと駆け寄って脱出を試みるも、加奈子によってそれを阻まれる。


「待ちなさい?」


加奈子は扉の前に立ちふさがり、阿修羅のごとく険しい顔をして、ご立腹な様子だ。


「は、はは……もう勘弁してくれ……」


「だめよ。白黒つけるまであなたを帰さないわ」


「ふん、どうせあたしの勝ちに決まってるけど、勝負してあげてもいいよ、加奈子」


僕の後ろからズイと前に身を出して、凛子は自信たっぷりにそう言った。


おいおい、そんなものは他所でやってくれよ。僕まで巻き込むんじゃない。


と、心の中で精一杯の悪態をつく。


だって、怖いんだもん、この二人。


今度は加奈子が小さな胸を大袈裟に前へと突き出して、えらそうに言った


「それはどうかしら? 私はフラれたとはいえ、一度先輩と付き合ったことがあるのよ? それに比べて、あなたはどうかしら? ほら、何も言えないでしょう? 要するにあなたの負けよ」


「う、うっさい! そんな過去の栄光に囚われてるあんたなんかより、あたしのほうが兄貴のこと、あ、あ、あ」


あ、あ、あ?


まさか凛子、とんでもないこと言うんじゃないないだろうな!?


慌てて凛子の口を塞ごうとしたが、もう遅かった。


「愛してるもん! あたしは兄貴のこと、まじで愛してるんだから!」






もし一緒に作品を作ろうと思ってくださる方がいましたら、Twitterにでも連絡ください。どうせ集まらないとは思いますが。とそれはさておき、今回の話はいかがでした?またいつか番外編出しますので、またお会いしましょう。ではでは

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