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番外編 凛ちゃんはお兄さんのこと大好きなんだね?

「ちょっと聞いてよ! 昨日あたしのバカ兄貴がさ!」


学校へと向かう道で、凛ちゃんはいつものごとくお兄さんの話を始めた。


別に今さらどうも思わない。前から凛ちゃんはお兄さんのことが好きだって言ってたし、今さらね。


「なになに? またなんかやらかしたの?」


興味があるわけではないが、とりあえず適当に相づちを打っておく。だって、お兄さんの話をしてる時、凛ちゃんはとっても可愛いんだもん。


恋する乙女というか、とにかく輝いて見える。


ほら、さっきまであんなに寝不足だとか言ってたくせに、お兄さんの話一つで肌はピカピカ、目はパッチリ。


これはもう重症だ。


凛ちゃんはぴょぴょんと飛び跳ねながら、大きな声で言った。


「あたしのことがね、大切なんだって! それもわざわざあたしの部屋にまで来て言ったんだよ?」


「あれ? でもさ、凛ちゃんってお兄さんと喧嘩してなかったっけ?」


確か凛ちゃんがこの前、お兄さんと喧嘩したって話をしてきたはず。理由は分からないけど、えらく落ち込んでいたのは覚えてる。


「ん? ああ、それはもう解決した」


まあ、喧嘩をすればいつかは仲直りするはず。仲直りできたなら、それは非情に喜ばしいことだ。


いつの日か、うちと凛ちゃんも喧嘩したことがあったっけ。うちの一方的な逆ギレだったけど、どうにかこうにか仲直りはできた。


そういえば、あの時はお兄さんに協力してもらったんだよね。街中で偶然見かけたなんて言ってたけど、そんな偶然があるはずがない。


お兄さんが、凛ちゃんのお兄さんだって分かっている今でこそ思うが、どんだけ凛ちゃんのことが好きなんだよって感じだ。


だってそうでしょ?


自分の正体がばれることも顧みずに、凛ちゃんのためにひと肌脱いだのだから。うちは一人っ子だから羨ましい。そんな素敵なお兄さんがいたら、絶対にうちも好きになってたと思う。


「――って銀ちゃん? 話聞いてる?」


「え、ええ? ああ聞いてるよ? で、なんだっけ?」


凛ちゃんは子供っぽく頬を膨らませて、拗ねたような態度をとっている。前言撤回。やっぱりうちは、お兄さんじゃなくて凛ちゃんみたいな妹が欲しいかも。


「やっぱり聞いてないんじゃん! 銀ちゃんのバカ!」


「ごめんごめん。つい、ね? で、お兄さんのどこが好きとかそういう話だったっけ?」


凛ちゃんはぴたりと足を止めて、目を大きく見開きながら言った。


「ち、違う違う! そんな話してないよ!」


「あれ? そうだっけ」


「もう……意地悪なんだから……」


小さく身体を縮こませた凛ちゃんを尻目に、うちはぼんやりと空を眺める。どこまでも真っ青に広がった空。雲一つなくて、快晴だ。


うちも凛ちゃんみたいに心から大好きだって思える人が欲しいな、なんて考えてたら、不意に横腹をつつかれた。


「あのさあのさ、銀ちゃんって好きな人とかいないの?」


ニヤニヤと笑みを浮かべながら、凛ちゃんは興味津々な様子でそう聞いてきた。


好きな人、そう言われてぼんやりと思いついたのはこの顔だ。


「凛ちゃんかな」


「ええ!? いやいや、そういう意味じゃなくて……」


「分かってるよ。けど、今はいないかな」


そう、少なくとも今はいない。いつかはできるのかもしれないという淡い期待をこめて。


「今は? じゃあそういう人ができる予定でもあるの?」


「……ないよ」


どうしてそこを聞いちゃうかな。うちだったら絶対スルーしてたよ、これ。


凛ちゃんはつまんなそうな顔をしながら、再び歩みを進める。しかし、数歩も歩かぬうちにまた足を止めて、今度は迫真に迫る表情で言ってきたのだ。


「あたしの兄貴はダメだからね!?」


どてっと盛大にこけて、うちは思わず苦笑いしてしまう。さすがに凛ちゃんの好きな人を横取りしようとは思わない。


確かにお兄さんは素敵な人だけど、恋愛対象として見ているかと聞かれれば、間違いなくいいえと答えるだろう。


外はこんなにも寒くて冷え込んでいるというのに、凛ちゃんは汗を流していた。というか冷や汗を。


「あり得ないよ。お兄さんは」


「どうして? あんなにカッコよくて優しい人はいないよ?」


どっちだよ。凛ちゃんはうちとお兄さんをくっつけたいのだろうか。いや、さすがにそれはない。


恐らくこれは、いつものお兄さん自慢だろう。


困ったものだ。毎日毎日そんな話を聞かされるこっちの身にもなって欲しい。


「そうだね、凛ちゃんのお兄さんはカッコよくて優しい人だよね」


棒読みで言ってはみたが、なにやら不服だったのか腕組しながらうちを睨み付けてきた。


「けど、あげないからね? 例え銀ちゃんが親友だとしても、兄貴だけは譲れないから!」


あげないって、お兄さんはモノじゃないんだから。それにうちは、お兄さんのことが好きとは一言も言ってないんだけど。


「もう分かったから。うん、うちはお兄さんのことは好きでもなんでもないよ」


「よろしい」


嬉しそうにスキップしている凛ちゃんを見て、やっぱりうちはこう思った。


「ねえ、凛ちゃん?」


くるりとこちらを振り返り、きょとんとした表情でうちの言葉を待っている。


やっぱり凛ちゃんは、お兄さんのことが好きな凛ちゃんは、すごく幸せ者なんだと思う。兄妹だからとかそんなことはどうでもよくて、ここまで人を好きになれることはとってもいいこと。


これから色んな壁にぶちあたるとは思うけど、それでもうちは、凛ちゃんを応援してあげたいな。


まあ、まずはお兄さんが凛ちゃんのことを女性としてみないことには始まらないけど。


うちは今日も元気な凛ちゃんに向けて、少しだけ意地悪するつもりで言葉を投げかけた。


だってさ、やっぱりここまで惚気られちゃ、うちとしてもつまらないじゃん?


「凛ちゃんはお兄さんのこと大好きなんだね?」


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