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ロリコンじゃない、シスコンだ その⑤

お久しぶりです、更新遅れました。では、ごゆっくり

夏休みが終わり学校が始まった。いつものことだが寝不足だ。

ついさっきまで宿題と格闘していた僕だったがどうにか決着はついた。


「ふあ~~あ、ねっみぃー……」


もう夏は終わったというのにいまだ眩い輝きを放つこの太陽。空気読めないにもほどがある。そしてここにも同類が。


「おっす渚! 夏休みはエンジョイできたか? ちなみに俺は特になにもなかったぞ」


「はいはい、おはようおはよう。今日も朝から鬱陶しいなお前……僕もお前と同じで何もなかったよ」  


投げやりな返しに腹を立てたような顔をする。


「はい、も、おはよう、も一回でいいんだよ。ほんとお前って社会不適合者だよなあ?」


「うっせ。もう用は済んだならとっと行けよ。僕はお前とは一緒に学校に行きたくない」


何を勘違いしたのか嬉しそうな顔をして。


「素直じゃねえな、お前! そんなに俺と一緒に行きたいならそう言ってくれ――」


僕は全力ダッシュで逃げた。だってうざいんだもの、あいつ。

朝から余計な労力使わせやがって……後であいつに飲み物でもおごらせよう。


向坂が視界から消えたことを確認した僕は、ようやくここらで歩くことに。家から学校まではそんなに距離ないので、走ったりしようものならすぐに着く。

もう校門近くだ。いつもより少し早く学校に着いたな。などと考えていると、前方に見慣れた後姿があった。あれは……間違いなく加奈子だろう。

 

髪に朝の陽ざしが差し込んでそれが光となって反射する。目がちかちかとして、なかなか加奈子に視点が定まらない。

そうこうしてるうちに、加奈子は下駄箱へと向かっていってしまった。 

今さら追いかける気にもなれなかった僕は、そのままゆっくりと歩き、一人きりで登校を終えるのであった。


なんら変わり映えの無い学校生活。退屈な授業。そして向坂。

それは昼休みのことだった。一人机に向かって昼飯を食べていると、性懲りなく椅子を運んでこちらにやってくるこの男。まあ、この男っていうか向坂な。下の名前は忘れた。こいつはいつもいつも僕と一緒に飯を食べようとするのだ。


睨みつけて無言の圧力をかける。


「ん? なんだよ? 俺の顔になんかついてるか?」


やっぱダメか。奥なる手は……


「どうしたんだよ? いきなり寝たふりなんかして。そんなに俺にかまってほしいのか? ったく、仕方ねえなあ……」


クラスの女子、まあ腐ってる方々だけど、教室に悲鳴というか歓声みたいなのが沸き上がったので、僕は慌てて向坂に蹴りを入れた。


「いってえな! いきなり何しやがる!?」


顎をくいっとして、周りを見るよう合図する。


「ああ? 周りを見ろだあ……? ってうお、なんだこの注目は?」


「お前が変なこと言うからだろ? 学校中の腐女子の恰好の的なんだよ、僕たちは」


こいつのせいで散々な目にあってきた。

僕と向坂が知り合ったのは、高二になってから。知り合ったといってもあっちからの一方的なものだったけど。


しょうじき仲良くしようとは思ってなかった。いわゆる、向坂は学校の人気者だったので、その対極にいるような僕には荷が重い。

どんなに拒んでも向坂は距離を埋めようとする。諦めた僕は、もう向坂を友達として認めざるを得ないと思った。


そうしてしばらく関わるようになったのが六月頃の話し。

一緒に登校して、一緒に昼飯を食べる。休日はたまに遊んだりもした。 

今思えば、ああしてともに過ごした時間は楽しかったと思える。いや、今じゃなくても、きっとあの時の僕も同じ気持ちだったはずだ。


だが、問題なのはこれからだ。

妙な噂を流されたんだ。僕と向坂がデキてるっていうね。出所はうちのクラスの女子。


初めこそ気にしなかったが、その噂はどんどんエスカレートしていき。最終的には僕がほんとは女なんじゃないかという話まででたぐらいだ。  


そこからは悲惨だった……校内を歩けばヒソヒソと噂され。下校するときはストーキングされる始末に。


ここまできてようやく僕は理解したんだ。向坂と関わるのはまずいって。 

それからというもの僕は向坂を無視し続けた。それはもう徹底的にね。


それからしばらくして、僕らがあまり一緒にいなくなったので破局したという噂が流れ始める。徐々にこの話は鎮静化していき今に至る。


けどまあ、そうは言ってもいまだに根強い連中もいるもんだ。現にこうして、僕と向坂の絡みを好奇な目で見るやつらがいるのだから。


「どした? 急にぼうっとしちゃって。具合でも悪いのか?」


ぐっと顔を近づけて至近距離で言われる。


「だからさ、お前がそういうことするから噂されるんだろ? 少しは自覚しろ。それともなんだ、お前もしかしてホモなのか?」



冗談めかして言ったつもりが、なぜか真剣な表情を浮かべていた。こいつはちょっと鈍感なところがあるから、もしかしたら冗談通じてないのかも。


慌ててさっきの言葉を否定した。


「悪い、今のはほんの冗談だからな? だから気にす――」


「相談があるんだ!」


突拍子の無い一言に思わず思考が停止する。

今の流れでどうしたらそんな話になる? まさかこいつホモなんじゃ……

いやいや、それはさすがにあり得ないだろ。さすがに、ねえ……?

かぶりをふってから、とりあえず内容を聞いてみた。


「そ、そう、だんって……何だ……?」


もし、万が一の場合を考えると、どうしても声が震えてしまう。声だけじゃない、手も足も体も何もかもがビクビクと怯えているのだ。

それもそのはず。ホモではないと言い切れないんだな、これが。


つまりだな、本来であれば、僕みたいな地味なやつがリア充野郎に友達になろうなんて言われることはあり得ない。類は友を呼ぶじゃないけど、友達ってのは似た者同士でなるもんだろうさ。


けどこいつは違う。こいつはわざわざ僕みたいなやつと友達になろうとした。そう、わざわざね。

依然として真面目な顔を崩すことなく言う。


「ちょっとここじゃ……話辛いからさ、屋上で話をさせてくれ」


「お、おう……」


額から冷や汗が流れ、頬を伝って落ちていく。これは……完全にやばいパターン。

しばらく僕は向坂の背中を追いかけて歩く。こいつは言った通り屋上へと向かっているようだ。

この間ずっと互いに無言で、非常に気まずい思いでギクシャクと動いた。


やがて屋上に着いて、向坂は近くにあったベンチに座り、目で「お前も座れ」という合図を送って来た。それに応じざるを得なかった僕は、とりあえず隣へと腰掛ける。周りを見るも、幸運なことに人っ子一人いないときたもんだ。


普通に考えれば絶好のチャンスだろう。告白するなら。だが思いだしてくれ、こいつは向坂行介、僕のクラスメートにして男である。


これをどう前向きにとらえても、これから起こるかもしれない事態は、良いことだとは言えないはず。


「なあ、来栖渚……俺はお前に、とても重要な話がある。いや、話というよりは、俺の一方的な相談だと思ってどうか耳を傾けてくれ」


「お、おう……」


いつもの爽やかさはなく、まるで獲物を前にした獣のような鋭い目つき。

男はみんなケダモノだとか言うが、それはどうも正解のようだ。

すると突然、向坂(男)が僕の手を握りしめ、必死の表情で僕に訴えかけてきた。


「お願いだ! 俺にお前の妹をくれ! もう一目ぼれだったんだ! 一見しただけでは人を寄せ付けない厳しい顔つきにみえるが、その実は照れ隠しで、ほんとはとっても素直な女の子で――」


「お前に僕の妹はやらん!!」


「そこをどうかお兄様! このはしたない私めにお恵みを!」


自分ではしたないとか言っちゃってるよ。まじドン引き。いや、まあそれはいいとして、こいつは一体どこで僕の妹と知り会ったというのか。


妹は中学生だから学校で遭遇するはずがなく、向坂を僕の家に入れたことは……多分ない。ということは、まさかストーキング? この野郎向坂め、僕はお前を見損なったぞ。


「最低変態野郎が、僕の妹に付きまとうのはやめろ。さもなくば、正義のお兄ちゃんアタックがお前を滅するだろう」


できるだけ低いトーンで、なおかつ、できる限りの怖い声を出した、つもりだったんだが……。


「はっはっは! なんだ正義のお兄ちゃんアタックって? お前ほんとに最高だよ!」


お前はほんとに最低だよ……。くそ、どうして僕の声はこんなに高いんだ。


「うるせぇ! とにかくお前に僕の可愛い可愛い妹はやらん!」


僕の勢いに圧倒されたのか、向坂はピタリと笑うのをやめた。

これ以上こいつと話すことはないと思い、僕は屋上を颯爽と立ち去ろうとした。

が、やはり、そういうわけにはいかないようだ。


「待って、待って下さいお兄さん! 俺の目にはもう、あなたの妹さんしか入らないんです! 確かに俺はお前と違って雰囲気も爽やかで、女子からもモテモテだ!」


何を言い出すかと思えば、これじゃ完全に自慢じゃないか。

確かにお前はイケメンだよ。僕とは違って人当たりもいいし、まあとにかくそこに異論はない。


「それで?」


「だから俺とお前の妹なら、見た目的な意味でベストカップルだとは思わないか? なあ、そうだろ? そう思うだろう? ならお前の妹を俺によこせ!」


まだ何も言ってないぞ、僕は。そりゃ見た目だけなら、お前は誰にも劣らないだろう。


だが――


「向坂……男はな、顔じゃねんだよ。男はなぁ! 顔じゃなくて中身が大事なんだ! だからお前みたいな変態には妹はやらん。それだけは譲れない」


これで兄としての役目は果たした。妹の彼氏を人選してやるのも、兄の仕事の一つ。

向坂は打ちひしがれてガクッと膝を地面につけ、そして悔しそうに顔を顰める。


「俺は……俺はいまようやく気づいた……、顔だけじゃだめなんだな……この思わず見惚れてしまうほどの顔でも、お前の妹のハートを射抜くことはできなかった」


いや、というよりも、僕の妹に目をつけた時点でお前の負けは決定していたわけだ。

どこの世界に、そう易々と妹を手放す兄がいるというのか。いない、そんな無慈悲な兄はいるはずがない。


いるとしたら、テポなんちゃらとかいうミサイルをぶっ放すお隣さんの国の総書記ぐらいだろう。


「一昨日きやがれ!」


僕は勝ち誇った顔つきでそう決め台詞を吐き捨て、屋上を後にした。


僕が教室に戻って席についた瞬間、何やら歓声が沸き起こった。

黄色い悲鳴ってやつ、なのかな? 

いやこれは違う、なんか臭うぞ! この匂いは……まさか腐女子!?

くそ……ようやくこの腐った世界から解放されたと思ったのに、これではまた逆戻りだ。


「キャー! ホモよホモよ! BLよ!!」


「どっちが受けで、どっちが攻めなのかしら?」


そんなわけのわからない言葉を聞きながら、僕はあと三分となった昼休みを過ごすのであった。


『アキラと幽霊』という作品を書いてみたので、そちらのほうも試しに読んでみてください。べ、別に読んで欲しいわけじゃないんだからね!(嘘)

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