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宇宙の狩り場

地球防衛軍日本支部に所属する猛と美樹は、隕石の衝突により連絡の途絶えた宇宙ステーションの状況確認のために向かったが、既に宇宙ステーションを占拠した異星人に捕まり、美樹が彼等によって磔にされ、気を失った猛も異星人のリーダー格の女サリアによって焼き殺されそうになった。


サリア達は宇宙を漂流する中で捕らえた者を喰い殺す異星人だったが、サリアは自分が捕らえた猛を試すべく、磔にされた美樹を助けさせ、その間に自分の仲間に猛を狩らせるゲームを行わせた。


猛と美樹を襲うサリアの真の狙いは?

そして、絶対絶命の窮地に陥った猛と美樹の運命や如何に!

富士山を望む地球防衛軍日本支部の宇宙ロケット発射台から地球から10万Km彼方にある地球防衛軍宇宙ステーションに向けて、地球防衛軍隊員である真中 猛と藤崎 美樹の2名を乗せた連絡用シャトルが打ち上げられた。


「打ち上げ後10分、計器類、各装置異常なし。」

「大気圏離脱まで5秒…4、3、2、1…0。大気圏離脱。」


2人を乗せたシャトルは無事に大気圏を離脱し、メインロケット部分とシャトル部分を切り離し、地球防衛軍宇宙ステーション目指して順調に航行していた。


「軌道上、障害物目視確認…、障害物無し。」

「宇宙ステーション到着までの予定時間、20分。」


猛の操縦と美樹のナビゲーションにより、無事に宇宙ステーションに到着しそうであった。

「ふうーっ、初宇宙は緊張するなぁ。」

「がさつな猛先輩でも緊張するんですね。」


順調に航行出来て一安心した猛に向かって、ナビゲーター席の美樹が意地悪な笑みを浮かべながら話しかけた。


「がさつとは失礼だろ!」

「だって、本当の事ですもん!」

「たく…、こいつは。」

「女の子に口喧嘩したって、不器用な先輩なら勝てませんよ!」


ああ言えばこう言うではないが、猛の一言一言に笑顔で、かつ、勝ち誇ったように、美樹が切り返した。


「…ったく、女って奴は可愛くねえな!」

「セクハラ~!」


どう言っても猛の負けは確定だった。


2人が宇宙ステーションに来るのには訳があった。

2日前、地球防衛軍宇宙ステーションから隕石に衝突した旨の連絡が入ったが、その後の連絡が不能となり、猛達が状況 確認のためにやって来たのだ。


「美樹、この先何があるか分からん。気をつけて行こう。」

「は~い。」


明るく、返事しながらも、美樹は内心不安に押し潰されそうになっていた。

それが証拠に、美樹は猛の左手に自分の右手を添えた。


「美樹…。」

「私がこの前みたいに襲われたら…、先輩、あの時みたいに私の事を守って下さい!」「美樹。」

「…先輩。」

「やだね!」

「…へ?」


猛の思いがけない一言に美樹は言葉を失った。


「せ…、先輩?何で?…、ヒドーイ!」


美樹は目を赤くしながら猛に訴えた。


「嘘だよ!」

「え?う…!もおーっ!何でそんなこと言うんですかああ!」


美樹は口を尖らせ、猛を睨み付けた。


「ははは、怒った?」

「怒りますうう!」


猛の意地悪な一言に美樹はプイっと横を向いた。

その後、猛は美樹の宇宙服の肩に手を当てた。


(宇宙服はNASAとかで使用されているタイプとは違い、地球防衛軍の隊員が宇宙船外でも動きやすいように、かなり厚めのウエットスーツを来たような、身体にフィットしたような物で、隊員達は、隊員服の上から直接、隊員用の宇宙服を着用している。

そのため、強く振れられるのが分かるのだ。)


「な、何?」

「冗談だよ!何かあったらお前を守るよ!」

「せんぱあーい。」


さっきとは打って変わって、ほっとした笑顔に戻った美樹が微笑んだ。


その時!


『ピーッピーッピーッ!オートパイロット解除』


自動操縦解除の警告音が操縦室内に鳴り響いた。

その音に慌てた2人は互いに前を向いた。

猛は宇宙ステーションへの接舷航行を開始し、美樹は宇宙ステーションへの無線連絡を行った。


「宇宙ステーション管制室へ、こちら日本支部連絡機。応答願います。」

「…。」


しかし、宇宙ステーションからの応答は何一つ無かった。


「何で?応答が無い!」

「もう一度やって見ろよ。」

「はい。…宇宙ステーション管制室へ、こちら…。」


その時!


『ピーッピーッピーッ!オートパイロット開始!』


突然、オートパイロット開始を知らせる警告音が鳴り響いた!


「ちょっ、ちょっと先輩!何やってるんですか?」

「いや、俺、スイッチ触ってないぞ!」

「え?」


宇宙ステーションに接舷する際、細やかな操縦を要求されるため、連絡用シャトルと宇宙ステーション管制室との連携が必要であった。

接舷寸前で自動操縦をする事は有り得ない事だった。

しかし、猛達を乗せたシャトルは何者かにハイジャックされたかのように、勝手に宇宙ステーションへの接舷を実行していた!


「美樹!日本支部に連絡だ!」

「はい!日本支部こちら連絡機…ブチッ!」


シャトルの無線機までもが機能停止した。


「先輩、私怖い!」

「落ち着け、大丈夫だ!」


不安に苛む2人を乗せたシャトルは宇宙ステーションの接舷口に接近し、シャトルの搭乗口と宇宙ステーションのデッキが無事接続された。


「先ぱ…ぃ。」


シャトル操縦室後方の、搭乗口方向に光線銃を構えた猛の背中に隠れるように、美樹が震えながら下がった。


「何が来るか分からん?気をつけろ!」


普段は呑気な猛でさえも、固唾を飲んで視線と銃口を操縦室後部ドアに向けた。


緊張してるとは言え、どのくらい時間が経ったのだろうか?

勝手に宇宙ステーションとシャトルが接舷してから、何事も起こらなかった。

宇宙服のヘルメット内の猛や美樹の額や頬に脂汗が滲み出る。


(畜生!何時までこんな事続けるんだ?)


猛に焦りが出た時!


「うわああああ!」

「きゃああああ!」


突然!操縦室内に高圧電流が流れ、宇宙服を着ていた2人が一気に感電した。

恐怖の電流責めに耐えきれず、猛は構えていた光線銃を落とし、美樹はその場に座り込んだ。


「ぐわあああ!」

「いやあああ!」


2人が更に苦しめられた後、高圧電流もすぐさま途切れた。


「ハァ…、ハァ…、み、美樹、無事…か?」

「ハァ…、た、た、猛先…。」


2人が息も絶え絶えになった時!


『ブシュー!』


操縦室内後部のドアを開け、何者かが操縦室内に侵入して来た。


「美樹、隠れろ!」

「キャーッ!」


猛が美樹をコクピットの奥に押し込めると、自分は美樹をかばうように仁王立ちした。


その時!


『ビーッ!』


「うわああああ!」


侵入して来た何者かが猛にレーザー光線を浴びせ、猛は足元から崩れ落ちるように倒れた。


「先ぱーーいっ!」

(先輩、私を助けるために…、イヤッ!死んじゃ嫌あっ!)


だが、猛を心配する美樹にも魔の手が迫っていた。


「きゃああーっ!嫌あああぁーっ!」


猛を撃った何者かが、美樹をコクピットの奥から引きずり出した。


「いやあああ!止めてーっ!」


何者かは美樹を肩に担ぐと、床に横たわる猛を踏みつけながら操縦室外に出た。


「先ぱーいっ!助けてーーっ!」


美樹は動かなくなった猛の名を叫び、助けを求めたが、当の猛は光線銃を浴びた衝撃で意識を失いかけていた。


「…み、美樹…。み…。」


宇宙服のヘルメットのバイザー越しに見える、さらわれた美樹を助けようとした猛も、いつしか意識を失った。




「いやあああ!」


自分を担ぐ何者かの肩の上で逃れようと暴れる美樹だった。

だが、女の力ではどうする事も出来なかった。


シャトルと宇宙ステーションとを繋ぐ搭乗用デッキを抜けると、何者かと同じ格好をした者達が2人待ち構えていた。

美樹を担いでいた何者かは美樹をその2人に預けると、再びシャトルに向かって歩き出した。

美樹はその2人によって、側にあったストレッチャーに乗せられ、宇宙服のまま、両足首、両膝、腰と両手首、そして両肩をベルトでガッチリと固定され、逃げることはおろか、抜け出すことも出来なくされた。


「お願い!ほどいて!嫌あ!」


美樹は何度も泣き叫んだが、誰も顔も合わせず、宇宙ステーション内部へと連れ去られた。


「助けてーっ!」


美樹が助けを求めた時、シャトルの方から自分を最初に連れ去った何者かを見た。

彼は両手に猛の足を持ち、猛を引きずりながらデッキから現れた。


「先ぱーい!猛先ぱーいっ!」


美樹が猛の名を何度も泣き叫んだが、ピクリとも動かない猛が段々と小さく消えていった。




この宇宙ステーションは全長約1Km、幅も300mはあるため、内部もそれなりに広いが、ストレッチャーに乗せられた美樹はいつしか宇宙ステーション中央部にあると思われる居住区の医務室に連れてこられた。


「止めて…。」


ストレッチャーに乗せられたまま、美樹は宇宙服のヘルメットを取られた。

すると、美樹を連れ去った2人のうちの1人が棚の中から注射器を取り出し、別の棚にあった引き出しから薬品の入った小ビンを取り出し、中の液体を注射器に注入した。


「な、何する気?…、お願い、止め…て。」


美樹が想像した通り、その者は注射器の針を美樹の首元にあてがった。


「いやあああ!助けてーっ!」


美樹は再び泣き叫んだが、もう1人の何者かによって頭を押さえられ、全く身動きが取れなくなっていた。


「猛先ぱーい!助けてーっ!」


美樹の叫び声が室内にこだまするが、程なくして、何も聞こえなくなっていた。




その頃、猛も、自分を撃った何者かによって美樹とは違うところへと引きずられていた。


「…、う…。」


辛うじて命は無事だったようだが、かなりの衝撃に身体は麻痺し、意識も取り戻せていなかった。


とある一室に連れてこられ、何者かによって部屋の中央にある台の上に乗せられると、彼は猛の宇宙服のヘルメットを強引に抜き取った。


「…ん。」


すぐさま、宇宙服も脱がされ、猛は中に着ていた隊員服の格好にさせられた。

すると、何者かは猛を大の字に寝かせると、猛の両手首と両足首と首に枷をはめ込み、猛を台の上から逃げられなくした。


「…う、」


大の字に拘束された猛だが、まだ意識は回復していなかった。


しかし、その時猛は夢を見ているような感覚に襲われた。


『…喰わせろ!』

『…喰わせろ!』

『焼いて喰うか?』

『煮て喰おうか?』

『…喰わせろ!』


赤黒い闇の世界で、多くの者が猛を喰おうと狙っているような恐ろしい悪夢を見ているかのようだった。


「…くっ、…あ、…うぅっ。…。」


悪夢にうなされ、脂汗を滲ませた猛が小さくうなり声をあげていた。


「フッ。」


猛のうなされる姿を見て、何者かはほくそ笑んだ。


すると、猛の側に居た何者かが、自分が着ていた宇宙服を脱ぎ捨てた。


そして…。


「…起きな!」


何者かはまるで女性のような声、しかし、女性にしてはドスの利いた声で猛に怒鳴った。


「…ん、…ッ!」


その声に反応した猛がゆっくりと目を覚ました。


「…ここは、どこだ?」


大の字にされた猛が台の上で辺りを見渡した。


「ここはお前達の宇宙ステーション、この部屋はお前を焼き殺すための部屋よ!」

「…焼き殺す?…んっ!」


何者かの『焼き殺す』の言葉に反応した猛が起き上がろうとしたが、ガッチリと首、両手首と両足首を金属の枷で大の字に拘束された猛は台の上から起き上がれなかった。


「お前達は私達な喰われる運命にあるのよ!観念しな!」


猛は声の主の方を見た。

そこには、身も黒髪も細長く、しかし、顔は透き通るほど青白く、両目が真黒の女性が立っていた。


「お前は誰だ?美樹は、俺の他にいた仲間はどこにやった!」

「威勢が良いわね。あれを見な!」


女が猛の正面の壁を指差した先に、テレビモニターがあり、同時にモニターのスイッチがオンになった。


画面の向こうには、宇宙ステーション内部の何処かの壁に、ヘルメットを取った宇宙服姿で立ったまま、両足首を壁に縛られ、両手首を後ろ手に縛られた美樹が映し出されていた。


「美樹ーっ!」


画面は美樹の顔をズームアップした。

美樹は首をうなだれたまま、布で猿ぐつわをはめられていた。


「…ううっ、…むぅ。…。」

「美樹ーっ!お前、美樹に何をした!」


猛は怒鳴りながら女に尋ねた。


「女もお前も私達のエサさ!いずれお前達は喰われるのよ!しかし、女もまだ死んでない。筋弛緩剤を打って、動けなくしたがな!」

「止めろ!美樹を離せ!喰うなら俺だけを喰え!」


猛の言葉に女は顔を猛に近づけた。

氷のように、まるで生気を感じない肌と全てが黒い眼球が女の不気味さを猛に与えた。

しかし、この女の一番恐ろしい所は、口の中の歯が全て牙となっていて、今にも自分をかみ殺して喰らいつこうとする凶暴な肉食獣を彷彿させた。


「ウッ!」

「カッコつけてんじゃねぇよ!」


女は猛の顔の側で怒鳴りつけると、再び立ち上がって話を始めた。


「どいつもこいつも自分の事しか考えない癖に、嘘付け!」

「嘘じゃない!美樹を今すぐ離せ!」


美樹を助けたい一心の猛は必死になって女に訴えた。


「…クッ!」

「ぐわあああ!」


女が手元にあるスイッチを押した途端、猛を乗せた台が一気に加熱された。

一瞬で加熱は終わったが、猛はすぐに焼ける苦しみを味わった。


「…面白い。そこまで言うなら試してやる、お前の本気を!」

「何?」

「今から私とお前でゲームをしよう。」


女の提案に猛は戸惑ったが、女は構わず話を続けた。


「私は宇宙の流浪の民、名はサリアだ。私達は定住の星を持たず、永遠に宇宙をさ迷う者だ。私達の仲間は常に飢えと渇きに苦しみ、殆どが飢えから死んでいった。残った仲間で何とか生きてきたが、やっとエサになるお前達地球人を見つけ出した。」

「サリア、宇宙ステーションの地球人はどうした?」

「地球人共は我々が隕石で攻撃した際の電気ショックで全滅した。お陰で殺す手間が省けたよ。連中を全て喰った後にお前達がのこのこ現れた。だからお前達を喰い、地球に降りて、全ての地球人を喰らうのさ!」

「止めろ!」

「所詮、弱者のお前達は我々の前では喰い殺すしか役に立たない。宇宙も弱肉強食の世界だ!」

「これ以上、地球人の犠牲者は出さん!」

「だからお前は私とゲームするのさ。」

「ゲーム?」

「狩られる側のお前が、狩る側の私達から女を取り戻す。単純だろ!」

「やってやる。美樹を助ける!今すぐこれを外せ!」


猛は、もがきながら自分を束縛する枷を外させようとしたが…、


「甘いわね、お前も私達のエサなんだよ!先ずは自分が助かるよう頑張りな!」


サリアは再び宇宙服を着ると部屋から出ようとした。


「今から一時間の勝負だ!」


サリアは再び台を加熱させ、部屋を出た。


「があああああ!」


再び、台の上で猛は炎熱地獄に襲われた。


「ちくしょおお!」


大の字のままで必死になって暴れるが、枷から腕や足を抜け出す事が出来なかった。


「ぐ、あ、が、ああああ!」

(熱い!焼き殺されてたまるか!)


だが、奇跡が起こったのだろうか?猛を拘束している枷が熱で変形してグニャグニャになったのだ!


「ぐおおおお!」


両手首と両足首を一気に抜き取り、首の枷も引き抜し、猛は台の上から抜け出すことが出来た。


「…何とか助かった。」


台の側にある操作盤から装置を停止させ、炎熱地獄から逃げ出せた。


「待ってろ美樹!必ず助け出してやるからな!」


猛は、テレビモニターに映し出された、後ろ手に立たされ、壁に磔られた美樹の姿に救出を誓い、拷問部屋を出た。




その頃、サリアは自分の仲間達が居る、宇宙ステーションの中央部に戻った。

仲間達はサリアを除いて7人、彼等の視線の先には、宇宙服姿で壁に磔られた美樹が居た。


「…むぅぅ、…うふぅ…。」

「喰いたい!」

「女の肉!」


彼等は今にも美樹を喰い殺そうとしていた。


(い…、いやあ!…、食べられるなんていやあああ!)


「お止め!」


サリアの一声で男達は美樹から離れ、彼女は美樹の正面にやって来た。


「上手そうな肉だね。」

「うううーっ!…ふむーっ!」

(いや!食べないで!)

「何言ってるか分かんないわね。」


サリアは美樹の猿ぐつわを取り、話せるようにした。


「…お願い、助け…て。」


美樹は注入された筋弛緩剤の効果が薄れたものの、まだ全身に力が入らず、喋るのもやっとのようであった。


その時!


『ピシャッ!』


「きやっ!」


サリアが無抵抗の美樹の左頬に平手打ちした。


「まだ命乞いするとはな…情け無い!」


美樹の姿に何故苛ついたのかは分からないが、サリアは無抵抗の美樹何らかの敵対的な感情を露わにした。


「あれを見な!」


美樹の顎を持ち上げ、サリアは反対側の壁にあるテレビモニターを映し出した。


「うわああああ!」

「ぎゃああああ!」


そこには、大の字にされた猛が台の上で炎熱地獄にされていた光景が映し出されていた。


「止めて!彼を殺さないで!」


サリアはテレビモニターのスイッチを切ると、再び美樹の方を向き、


「あんた、あいつが好きなのか?」


意外な質問で美樹を一瞬、唖然とさせた。


「関係ないでしょ!私のことより彼を助けてあげて!」

「…嫌だね!」

「食料にするなら私だけでいいでしょ!お願いだから彼を殺さないで!」

「さっきまで自分の命乞いをして、今度は自分を犠牲にしてまであいつの命乞いのするのかい?」

「そうよ!私の大事な人よ!彼を殺さないで!」


猛を助ける美樹の気持ちに押されたのか?サリアは落ち着いた口調で話した。


「面白い!あんたはそこで待っときな!」


そう言いながら、サリアは再び美樹に猿ぐつわをすると、仲間の方に振り返り、何かを命じていた。

すると、仲間7人のうちの槍を持った2人が猛の居る方に向かって走り出した。


(先輩…、先輩だけでも助かって!)


磔られた美樹には猛の無事を祈るしかなかった。




とっくに拷問部屋から抜け出した猛は、通路を慎重に進んでいた。


(サリアと仲間は一体全部で何人だ?それに、武器がないと…。)


丸腰のままで進む猛だったが…、


(あ、あれ?)


通路の先に、宇宙ステーションの隊員が使っていたと思われる光線銃が落ちていた。


(エネルギーも満タンだ!武器が転がってるなんて、あいつら抜けてるのか?)


いぶかしる猛の行く先から何者かが迫り来るのを見つけた。


「エサーッ!」

「喰う!」


(もう来たか?殺られてたまるか!)


猛は通路の脇に隠れ、サリアの仲間が近付くのを待った。


「ウオオオ!」

「どこだーっ!」


(2人か…、よし!)


猛は一気に通路に出て、光線銃を一発撃った。


『バシューン!』


「ウギャアアア!」


猛はサリアの仲間の2人のうちの1人を撃ち殺すと、もう1人に狙いを定めた。


「武器?そんなバカな?武器は全て没収したはずだ!」


残る1人は武器を手にした猛を見て相当動揺していた。


「手を上げろ!」

(何でこんなにビビるんだ?それに武器は没収したって?)


猛も疑問を持ったが、ここで形勢が逆転してはマズい。

猛は警戒を解かなかった。


「サリア…、話が違う!」


混乱しながらも、もう1人が槍を振りかざした!


「死ねええええ!」


『バシューン!』


「ウギャアアア!」


猛は怯まず、残るもう1人の男目掛けて銃を撃ち、男はその場に崩れ落ちた。


「美樹は!俺の仲間はどこだ?」


猛は死にかけているサリアの仲間を詰問した。


「…あ、あっち。」

「お前達は全部で何人だ!」

「い、言わん。…、ぎゃああああ!」


口を割らない男に猛は顔を殴ると、男は息も絶え絶えに口を割った。


「な…7、サリアを…、入れ…た…ら、8に…。」


事切れると、男はがくりと首を横に向き、何も語らなくなった。


「サリアを入れてあと6人、サリアが言ったタイムリミットまであと51分、絶対美樹を助ける!」


猛は2人が来た方向、美樹が捕らえられているその先へと進んで行った。




その頃、サリアとその仲間は、猛に仲間を殺された事に動揺していた。


「殺られた!」

「何故だ?」

「まさか!」


そこに!


「静かにしな!」


サリアの一喝に残った仲間が一斉に沈黙した。


「だらしないわね!あの2人の弔い合戦だ!」


サリアが今度は3人に命じ、猛の制圧に向かわせた。


(神様、猛先輩を助けて!)


未だ磔られた美樹が猛の無事を祈った。




「美樹は…、一体どこにいる?」


焦りの表情のまま、猛は前に進んだ。


その時!


『ブン!』


猛のすぐ側ちあった小型のモニターが映し出され、猛の居るところを中心にした通路図が表れた。


「な…、何だ?」


突然映し出された映像に驚く猛だったが、そこに動く点を3つ見つけた。


「これは…、もしかして…!」


3つの点はそれぞれ、別の方向から猛の居るところを目指していて、あたかも、猛を挟み撃ちにするかのように迫っていた。


「餌の癖にィィ!」

「殺す!コロス!」

「コロス!」


3人のうち、1人が猛の後ろ姿を見つけた!


「死ねえええ!」


男は手に持つ槍を猛の背中目掛けて投げつけた。


「ウギャアアア!」


猛は槍を背中に受け、悲鳴を上げながら床に崩れ落ちた。


「やった!」


男が歓喜の雄叫びを上げながら猛に近付いた。


その時!


「お前、なんて事を!」


残る3人のうちの1人が猛を抱きながら槍を投げた男を怒鳴りつけた。


よく見るとそれは猛ではなく、一緒に猛を追いかけて来た仲間だった。


「俺は餌だと…!」

「うるさい!」


3人のうち、1人は仲間に殺され、残る2人が仲違いから喧嘩を始めた。


「この野郎!」

「俺じゃない!」


すると、そこに!


『バシューン!』


「ウギャアアア!」

「アガガガガガ!」


喧嘩を始めた2人が猛に撃ち殺された。


「これで残り3人か…。」


猛は美樹が居る方に向かって再び進んだ。


猛が離れてすぐ、通路図を映し出していたテレビモニターの画面の映像が消えた。


「また…殺られた!」

「エサの分際でェ!」


サリアを除き、残る2人が歯ぎしりしながら悔しがった。


「あの男、なかなかやるわね!あんた達!早く始末しな!」


サリアが残りの2人に猛を倒すべくこの場から離れさせ、自分は美樹の側にやって来て、美樹の猿ぐつわを外した。


「…ッ、ハァ、ハァ、…猛先輩は強いわ!あんた達の手に追えないわ!」


美樹は気丈にもサリアを睨みつけ、サリアに猛を殺させることを止めさせようとした。


「楽しみはこれからよ!」

「負け惜しみね!」

「…いいわ、あんたにはこの作戦を教えてあげる。冥土の土産に!」


サリアはまた美樹に猿ぐつわを噛ませると、美樹の耳元で何かを囁いた。


「…!ふがぁ、ふごぉ!」


サリアの言葉に美樹は大いに驚き、首を乱れ振りかざした。


だが、その後すぐ、再びサリアが美樹の耳元に囁いた瞬間、美樹の瞳は大きく見開いた!




「お、おかしい?何故餌はああも仲間を殺せる?…ッ!ま、まさか、サリアッ…独り占めに!」


サリアの仲間のうちの1人が、これまでの猛の快進撃に疑問を抱き、まさかサリアが自分達を騙して猛達を独り占めにするのかと疑念を持った。

すると、その男は、もう1人を呼び戻し、美樹とサリアがいる、自分達の元居た場所に戻った。


「サリア、女を独り占めして喰おうとは卑怯な!」

「許さんぞ!」


2人の男は、サリアが美樹を独りで喰うものと信じ、美樹が磔られている場所に急いだ。

2人が戻った時、そこにサリアの姿は無く、宇宙服にヘルメットをつけて壁に後ろ手に磔られた美樹がいただけだった。


「サリア、どこだーっ!」


男達が何度も叫んだが、サリアは一向に現れなかった。

代わりに、磔られた美樹がわなわなと小刻みに震えているだけだった。


「サリアはいない。女は俺達の物だ!」


2人のうちの1人が美樹の目の前に来ると、ヘルメットを無理矢理こじ開けた!


その時!


「ウギャアアア!」


ヘルメットをこじ開けた男が突然、全身を炎に包まれて、ジタバタと悶え苦しみ、遂には力尽きて動かなくなった。


「…っ!何だ?」


最後に残った男が美樹の姿を見ると、そこには美樹の姿はなく、彼らの持つ小型の火炎放射器が仕込まれていた。


「な…?おのれえええ!サリアアアア!」


仲間を目の前で殺され、餌である美樹を奪われたと思った男は怒り狂った。

男は一心不乱になりながらも、自分達を裏切ったサリアに憎悪を抱きつつ、辺りを探した。


「私ならここだよ!」


通路の近くにある医務室の扉の中から仁王立ちしたサリアが現れた。


「こ、このアマぁ!」


男が死に物狂いでサリア目掛けて突進した。


その時!


『バシューン!』


「ウギャアアア!」


男は背後から何者かによって光線銃で撃ち殺された。


男が倒れたその先、サリアの遠くの目の前に猛が現れた。


「やっと来たかい!」

「サリア!美樹を返せ!」


猛は倒れた2人の男達を飛び越えながら、サリアの元へと駆け寄った。


「ほら、お前の女だ!」


サリアは、医務室の中から隊員服姿で後ろ手に、それに両腕と胸を縛られ、猿ぐつわをされた美樹を引き出した。


「美樹ーーっ!」

「ふふえんあー!」

(猛先ぱあーい!)


後少しで美樹に届く距離まで近付いた時!


「止まれ!動くな!」

「ふあーっ!」

(いやあーっ!)


サリアはナイフを美樹の首に突きつけ、猛を威嚇した。


「汚いぞサリア!約束だ!美樹を離せ!」

「あんたはバカか!誰があんな馬鹿馬鹿しい約束なんかするんだい?全くおめでたいねえ。」

「ぐ…畜生!」


目の前で美樹を助けられない悔しさとサリアの狡猾さに、猛は怒りで身を強く振るわせた。


「うむむーっ!ぐむむむーっ!」


美樹の苦しみ姿を見て、猛の怒りは更に増していった!


「だったら美樹を離して俺を殺せ!」

「今更何カッコつけてんだ!コイツもあんたも私に殺されるんだよ!」


今にも殺されそうな美樹を助けるべく、猛はサリアに向けて光線銃を構えた。


「撃ちたかったら撃ちな!」

「このアマぁ!」


猛が光線銃のトリガーに指を入れた。


その時!


「うーっ、ううーっ、うううーっ!」


美樹が激しく首を上下左右に動かし、口に結び付けられていた猿ぐつわを外した!


「先輩!サリアさんを撃たないで!」


思いがけない一言に猛もサリアも驚き、猛はトリガーを引こうとする指を外した。


「美樹?どうしたんだ?」

「先輩、サリアさんは本当は良い人なの!サリアさんはもう私達を食べるつもりも、殺すつもりなんてもう無いの!」

「…え?」


美樹の必死の説得に圧倒された猛だったが、猛には美樹を殺そうと、美樹の首にナイフを突きつけているサリアは憎むべき敵以外の何者でもなかった。


「う…、うるさい、黙れ!」


サリアもまさかの一言に激しく動揺し、美樹の首に突きつけたナイフに力が入らなかった。


「さっきも、あの男達から私を守るために、私の事を助けてくれたのよ!」

「言うなーっ!黙れ、黙れ!」


必死にサリアの助命を乞う美樹と、酷く動揺するサリアを見て、猛は光線銃の銃口を下に下ろした。


「これが私の本気だーっ!」


甲高く叫びながら、サリアは右手に持ったナイフを再び握り締め、猛目掛けて力の限り投げつけた。


「止めてーっ!」


投げつけたナイフは猛の左腕をかすめるように飛び越え、猛には当たらなかった。


「このお!」


猛は再び光線銃の銃口をサリアに向けた!


その時!


「ウギャアアア!」


猛の背後で何者かが断末魔の雄叫びを上げた!


猛が振り返ると、猛の背中のすぐ側に、さっき美樹の宇宙服に仕込まれた火炎放射器で火炙りにされた男が、眉間にサリアが投げたナイフが刺さったまま立ち尽くしていた。


「…、う、ら、ぎ、り、も…、の…、ッ…。」


男はサリアを憎しむ怨差の言葉を吐きながらその場に崩れ落ちた。

同時に、サリアも美樹を縛っていた縄を離し、その場に膝をついた。


「どう言う事だ?」


猛はサリアの信じ難い行動に困惑していた。

そこに美樹が、


「先輩、ごめんなさい、ちょっと黙ってて下さい。」


助けに来た猛からサリアを庇うように、猛の言葉を制した。


「おい、美樹?」

「…。」

「先輩、お願いだから黙ってて!」


いきなり塞ぎ込んだサリアと、自分を諫める美樹の言葉に、猛は更に困惑した?


「だから、どうなって…。」

「いいから黙ってて!」


流石の猛も、美樹の怒りの怒鳴り声に言葉を失った。

美樹はサリアに向いてしゃがむと、


「サリアさんのバカァ!何で自分の気持ちに素直になれないの?」

「…。」

「正直に言おうよ、ね。」

「…。」

「サリアさん、先輩だって凄く優しい人なの。だから安心して。」


美樹の優しい問いかけに、最初は黙り込んでいたサリアも、うっすらと涙を浮かべながら喋り出した。


「私にも…、好きな人がいた。彼は私達のリーダーで、常に私達の事を思いやっていてくれて、餓えと渇きに苦しむ私達に、命駆けで先頭にたって戦い、殺した敵を自分より私達仲間に食べさせてくれた。」


サリアは美樹を縛っていた縄を解きながら、更に話しを続けた。


「しかし、彼はとうとう飢え死にした。私達にひもじい思いをさせなかった犠牲に…。最期まで自分より私達仲間の事を思いやってくれたの。だけど、他の男達は違っていた。自分が喰いたい欲望しか持たず、仲間と助け合う心が無くなり、いつしか私達は喰うためだけに寄り合い、時には仲間同士でも殺し合うようになったわ。この宇宙ステーションを襲ったのも、飢えを凌ぐためだけ…。」


サリアは縄を解き終わると、ゆっくりと立ち上がった。


「しかし、猛と美樹は違った。あんた達の宇宙船が来たときは、あんた達を殺してから喰うつもりだったけど、猛が美樹を命懸けで庇い、美樹も猛を助けたい気持ちが分かったから、わざと銃のエネルギーを落としてから猛を撃ち、美樹もすぐ殺さないようにあいつ等に言い聞かせたわ。最初は私も、もしかしたらあんた達も自分の事しか考えないでいるのかと思ってたけど、2人とも、お互いを助けようと必死だった。私は、今まであんた達や他の人達を襲って食べた事を悔やんだわ。」

「だったら、なんで俺達を殺すような真似をしたんだ?」

「それは…。」

「それは私が話すわ。」


美樹が代わりに話し出した。


「最初から私達の味方をすると、あの男達が私達に一気に襲いかかって助からないかもしれなかったから、彼等を騙して、先輩に殺されやすくしたのよ。途中、無造作に銃が置いてあったり、通路図が表れたり、先輩の手枷とかが外れやすくしたのも全てサリアさんがしたのよ。」

「まさか…?」


サリアと美樹の話を聞き、猛はいつしか手に持っていた光線銃を床に落とした。


「ありがとう…、美樹。」

「良いの。あなたに捕まって、磔られた時はすごく怖かったけど、サリアさんが優しい人で良かった。」


再び両膝を床に付けたサリアが美樹にもたれかかった。

背の高いサリアに比べるより、女性の中でも小柄な美樹の胸に顔をうずめ、美樹は幼子を優しく包むようにサリアの身体を抱いた。


「サリアさん、地球に来て。私達と地球で暮らそう!」


美樹がサリアの顔を見つめながら優しく問いかけた。


「美樹…。嬉しい!しかし、ダメなの。」

「何で?」

「私は所詮異星人、地球人とは仲良くなれない…。」

「そんな事無い!私があなたを守るわ!」

「駄目よ!あなたの仲間の地球人を食べた私は地球で暮らせない!」

「だからそんな事無いって言ってるでしょ!」

「でも…ダメ。」

「サリアさんの分からず屋ーっ!」


何時までも平行線を辿るやり取りに堪えきれず、美樹がサリアを怒鳴りつけた。


「美樹!サリアを責めるなよ。」

「だって、だって、サリアさんが…、サリアさんが!」


感極まって瞳に涙をたたえた美樹を猛が宥めたが、美樹の気持ちにはまだ響かなかった。


「サリアにはサリアの思うところがあるから、取り敢えず今はそっとしてあげよう。」

「…先ぱ…い。」


猛も、感情が高ぶる美樹の両肩を抱き、優しく諭した。


「ありがとう…、猛、美樹、ごめんなさい…、今の私にはお腹に、亡くなった彼の子がいる。私はともかく、この子が地球で育ったら…、異星人の子が…。」


サリアは両目から大粒の涙を流しながら猛達に訴えた。


「サリア…。」

「サリアさん…。」


2人はサリアの涙を見て、言葉を止めた。


暫くの沈黙を破って、美樹がサリアに話しかけた。


「ごめんね。お腹の子と何時までも仲良くね…。」

「…美樹。」


美樹が再びサリアを優しく抱きしめた。


「ありがとう、美樹。分かってくれて。」

「良いのよ。お礼なんて。」

「サヨナラ。私はこれから私達の避難ポッドに乗って別の星に向かうわ。」

「気を付けてね。」

「だけど、最後に一つだけ、ワガママを許して。」

「何?」

「猛…、私を抱いて。」

「え、ええっ?」


まさかの一言に猛は驚いた。


「あのう…、だけど…。」


どぎまぎしている猛は何度も美樹の顔をちらちらと見ながら、言葉を濁した。


「先輩…、サリアさんのお願いを聞いてあげて。」

「う…ん。」


美樹の許しを得た猛は、サリアを優しく抱いた。


「ありがとう…。」

「サリアさん、またいつか会おうね!」

「美樹…、あなたの事は絶対忘れない!」


サリアは、自分達が持っていた避難ポッドに向かうと、猛達も宇宙ステーションの管制室に向かった。

管制室内の無線機にサリアの声が入った。


「猛、美樹…、さようなら。」

「サリア、またいつかな。」

「サリ、アさん…。」


最後の別れを悲しんでか、美樹は子供のように泣きじゃくりながら喋った。

そして、サリアの乗った避難ポッドが宇宙ステーションから旅立った。


「サリアさーんっ!」


美樹は両手を垂直から水平に、扇を描くように何度も大きく振って、どんどん小さくなるサリアの避難ポッドを見送った。


「サリア、どこかの星に無事に着くといいね。」


猛が小さくなる避難ポッドを見つめながら美樹に話した。


すると、


「先輩やっぱり気付いてない。」


美樹が猛を見ながら呟いた。


「気付いてないって?」

「さっきの話、サリアさんの嘘ですよ!」

「え?」


またもや困惑する猛に美樹は話を続けた。


「サリアさん嘘ついてた。やっぱり地球では暮らせないと思ったから…、私を説得するためにあんな嘘ついてた。」

「だったら何で止めなかったんだ?」

「先輩…、女心が分かってないんですね。」

「?」

「サリアさん、自分が異星人だからって悩んでた。それで、私の事を傷つけないように言ったんですよ。だから、私もサリアさんの気持ちを傷つけないように分かった振りしたんです。」


その頃、避難ポッドの中で、サリアが1人呟いた。


「美樹、ごめんね。あなたの彼に抱かれて…。猛は私の彼に似てたから、彼が死ぬ前に私を抱いてくれたのと同じ暖かみを感じたわ。結局、私は彼の子を身ごもらなかったけど、これが私の運命なの。流浪の民は永遠に宇宙をさすらうわ。そしていつの日か、また、あなた達と…。」


ポッドの瞬間冷却装置が作動し、サリアと、頬の涙を永遠の宝石に姿を変えさせ、ポッドは漆黒の宇宙の彼方を目指して静かに進んだ。


美樹は溢れ出る涙を懸命に堪えながら、話を続けた。


「地球人でも宇宙人でも、女や女の子って強いですね!自分の気持ちを抑えて相手の気持ちを思いやれるから!」

「はいはい。女の子さんは強いですよ。」


美樹の言葉にふてくされる猛だった。


その猛に対して、


「い゛、痛でで!」


美樹が猛の左頬を思い切りつねった。


「な、何すんだよ?」


美樹はつねった指をゆるめると、


「先輩、さっきサリアさんを抱いたの、怒ってるんですから!」

「そんな?だってお前が『抱いてやれ』って言うから…?」

「私の目の前であんなに優しく抱かなくても良いでしょ!」

「全く、抱いてやれとか抱くなとか、訳わかんねーよ!」

「先輩はもっと女心を勉強した方がいいですよ。」

「偉そうに言うなよ。」

「女の子の事を分かってないとモテませんよ。」

「はいはい、どーせ女の事なんて分かりませんよ!ったく、命賭けで助けてやったって言うのに…。」


猛が美樹に対して背中を向けつふてくされた瞬間!


『がばっ!』


美樹が猛の背中を強く抱きしめた。


「お、おい、美樹?どうしたんだよ?」

「ありがとう、助けてくれて!私、食べられて殺されるなんてイヤだった!すっごく怖かった。でも、先輩の事、信じてた。先輩が私を、私を助けに来てくれるって!」


美樹が泣きながら猛の背中に抱きつき、猛にありのままの感謝の気持ちを伝えた。


「美樹…、約束しただろ、お前を守るって!それだけだよ。」

「…せんぱぁい。」


お互いに向き合った2人が、お互いの気持ちを分かり合った時を迎えた。


涙の跡が頬に残る美樹が背伸びして瞳を閉じ、キュッと閉じた唇を猛に差し出した。


「…美樹。」


猛は美樹の肩をそっと抱き、自分の唇を美樹の唇に触れた。


否、


お互いの唇が触れ合う寸前、管制室内のスピーカーから交信音が鳴り響いた。


「宇宙ステーション管制室、こちら…。」


消息を絶った猛達を捜索しに来た地球防衛軍の別の連絡用シャトルが、宇宙ステーションに接続されたままの猛達が乗って来たシャトルを見つけ、宇宙ステーションに交信して来たのだった。


「こちらは宇宙ステーション管制室…。」


猛と美樹は慌てて前を向き、猛達を救助しに来たシャトルを迎えるために誘導を開始した。

シャトルも速度を落とし、2人の待つ宇宙ステーションへの接舷航行を開始した。

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