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短編

作者: codama

 彼と分かれ、夜行バスに乗り込んでから、まだ五分も経っていないというのに、私は寂しさを感じてしまった。

 隣に、彼がいない。

 ついこの間まで、それが当たり前だったのに、一度こうして、長い間一緒に過ごしただけで、私はこんなにもか弱い乙女になってしまうのか。

 ぼんやりと、携帯の画面を見つめる。私以外誰も乗っていない車内を携帯が青く照らす。待ち受け画面で笑っている彼、そして隣に寄り添う私。とても、幸せそうに見える。

 でも、今はここに映っている私が別人のように思える。

 別にケンカ別れをしたとかそういうわけではない。私の我儘なのだ。離れたくない、ただそれだけ。単純に、寂しいだけ。それだけなのに、こんなにも胸が苦しくなるのだろうか。

 電話をすれば、いつだって彼の声を聞くことが出来る。話をすることが出来る。メールだってある。言葉を交わさずとも、彼とのやり取りなど、やろうと思えばいくらでも出来る。

 でも、そこに彼のぬくもりは感じられない。耳に感じる、携帯の機械的な冷たさに、私の寂しさは一段と増す。

 こんなことを伝えても、分かってもらえないような気がする。聞き訳がないとか、頑固というわけではなく、彼は心が強い。ちゃんと自分の芯を持ってる。きっと私がいなくても、何の問題もなく、これからの毎日に戻っていくんだろうなあ。そう思うと、どうしようもなく不安になってしまう。

 彼はしっかりしている。優しくて、何でも出来る器用な人だと思う。長い間ずっと見てきたから分かる。でも、だからこそ私は不安になってしまう。愛し合っていない、という心配はないだろうが、私がいなくても彼は平気なんじゃないかと思ってしまう。私がこんなに苦くても、彼は何とも思ってないのかも知れない。重い女だって思われても仕方ないのかも知れない。

 結局、私は我儘なのだ。

 嘆息するかのように、顔を窓枠に預ける。冬の窓はとても冷たかった。ああ、彼の肩によくこうして顎を乗せていたなあ。つい先ほどの出来事も、どこか遠い思い出のように感じてしまう。冷たい窓が、彼の暖かさを実感させる。

 隣に、彼のぬくもりはない。

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