○三人目 島野広一
備考・川野弘人の後輩、農業サークル
弘人さんですか。はいはい、知っていますよ。今は短期留学中でしたよね。
どんな先輩だったか、ですか。
んー、とりあえず無口な先輩でしたね。僕は弘人さんの一つ下なので、三年以上の付き合いではあるんですが、確実に僕の一つ下の後輩の誰より、聞いた声は少ないと思います。それでもサークルの何人かでご飯を食べに行くときはおごってくれたり、イベントで車を出してくれるよう頼めば二つ返事で受けてくれたりと、良い先輩ではありましたよ。サークルの役員が終わってからも、時々は自分の家で育てたものを、持ってきてくれたりもしました。
正直、最初はみんな怖がるんですよ。背は高い坊主で、表情どころか瞳も見えないし、ひどく無口です。ツリ目だから、怒ってるようにも見えるんです。でも、付き合っていれば、悪い人ではないとわかりますよ。
事件も最初、直接は聞きませんでした。先輩と同じ学部の女の子が、弘人さんが刺されたらしい、と騒いでいたのを耳にしたのが最初です。偶然、その日部会に弘人さんがいらしたので、その時に詳しく聞きました。
珍しく質問責めに合って、不謹慎な誰かが『傷を見せてくれ』と言っていましたが、照れたようにずっと笑って、結局見せてはくれませんでした。
山口亮太さん、ですか? その人は知らないですね。多分、聞いたこともないです。
四年間弘人さんと反目しあっていた? へぇ。それは、少し違和感がありますね。弘人さんは誰かと揉めるような性格ではなかったと思います。何と言うんでしょう。そこまで親しい人はできないけど、誰にも嫌われない人だと思います。だって、基本的に無口な人なので、こちらから話しかけたり、近くで彼が興味を持つような話題を口にしたりしなければ、喋りもしないんですよ。
嫌いな人とか苦手な人って、ふつうは避けるものでしょう。もうハタチを越えて、嫌いな人を貶めてやろうとかは思わないでしょうし。その山口という人は、自分からわざわざ嫌いな弘人さんに話しかけて、またさらに嫌いになっていったんですかね? そうでないと、怒りとか嫌いな感情って、続かないと思うんですが……。
よほど怒りが深い人か、粘着質な人だったんでしょうか。どちらにしても、変わった人ですね。僕は、そんな人と関わりたいとは思えないです。