○二人目 宮城光
備考・X学部院生一年次、彼らと同期入学の同級生
ええ、弘人と亮太とは同じ学科です。それぞれ、院に進学したのと留年で、一応は同じ大学に入って五年目になりますね。
でも、二人についてはそれほど知りませんよ。専門が違うので講義で会うことはありませんし、二人ともシャイなところがあったので、私たち女子とはあまり話しませんでした。学科の飲み会で近くになれば話すぐらいですね。話しかけて拒絶するようなことはありませんでしたが、二人とも自分から話しかけたりはしません。私もそこまで二人に興味を持たなかったので、特に深く話しをした覚えはないです。
仲は、かなり険悪だったみたいですね。学科で流れてくる噂を聞くと、そう思います。去年二人が同じ研究室に配属されて、「研究室の雰囲気が悪いやっさー」と、二人と同じ部屋に配属された男の子が、よく愚痴っていました。
亮太は明るい性格でよく笑う子でしたから、お酒の席で、自虐ネタみたいにして自分たちの不仲を、面白おかしく話していました。もちろん、弘人がいないときです。でも、飲み会で二人が近くにいて弘人のことが話題になっていても、笑いながらその話題に加わっていましたよ。
弘人は基本的に無口で、いつもむっつりとした顔をしています。目を閉じているのか開けているのかがわからないほどの、ひどく細い一重ですからね。それも、無愛想を助長させます。
飲み会の中盤で人が入り乱れているようなとき、一人で黙々と飲んでいるような子でしたから。話しの輪の近くにいる時には、いきなり話をふっても答えてくれるので、周りの話しを聞いてはいるみたいですけど。時々ですが、乾杯の直後でも一人、隅の方で飲んでいることがあるので、気を使った人が話しにいったりはしていましたね。そういうところは、雰囲気が悪くなるのでやめてほしいですけど。一人でいるのも好きなんでしょう。とりあえずわたしは、弘人の前で亮太の話しをしたことがないので、そこはよくわかりません。
飲み会の話ししかしていないって? あはは、仕方ありませんよ。言ったように、他であまり会わないんです。でも、うちの学科は他に比べて飲み会は開かれていた方なので、めったに会わないというわけではないですよ。
飲み会以外といえば、ボーリング事件というのがありました。学科でボーリング会が開かれたときに、二人が大騒ぎになるほどの殴りあいを演じたそうです。わたしはその時に参加できなかったので、それも、詳しくは知らないんですが。
だから、あの事件については正直わからないですね。わざとなのか、わざとでないのか。二人の不仲は学年を超えて、学科では知られていましたから、何度か他の同級生や後輩が面白おかしく噂話はしていましたけど。二人とも、学科の後輩とそこまで親しくするような性格でもなかったので、少ししたらみんな忘れていましたよ。
なぜ下の学年まで知っているのか、ですか?
何ででしょうねぇ、わかりません。たぶん、大学生になってまで殴り合いを演じる二人が面白かったからじゃないですか? 大学生って、もう大人じゃないですか。大人はそこまで反目しあう前に、解決するものですよ。ただ、わたしはそこまで二人が子どもにも見えないので、たぶんお互いが、お互いに触れられたくない部分に触れてしまう存在なんじゃないかと思っています。わからないですか? んー、上手く説明できません。
まぁ……、要は合わないということでしょう。