○一人目 間宮守
備考・X学部四年次、彼らの研究室の後輩、事件に遭遇
あの事件のとき? いやぁ驚きましたね。いきなり『刃物を持った男が乱入』ーなんて、高校で妄想したことはあったけど、実際に起こるなんて思いませんでしたもん。
みんな無事でよかったですよ、はい。
あぁ、正確にはみんなが無事、ではないですね。弘人さんの傷がありました。今も傷は残っているそうですね。たしか、右肩でしたか。
でも深くはないらしく、腕が動かなくなるような、重いものではなかったみたいです。カットの深いTシャツを着た日には、傷が見えることがありましたね。不都合としては、それぐらいじゃないでしょうか。
犯人は、冴えないやつでしたね。変質者なんて、そんなものなんでしょう。入ってきて、
「立て」と言うところまでは、それなりに恐怖の対象ではあったんですが。
事件について、少しはご存知なんですよね? それだったら、まぁ知っての通り。あとは亮太さんに殴られて終わりでしたから。
事件についての感想、ですか。やっぱり一番深く思ったことは「こんなものなのかぁ」ってことですかね。そこそこ怖い思いをしたのに、大学全体の扱いはすごく小さかったんですよ。一応、すべての学部の掲示板に『不審者が刃物を持って構内に侵入』とは貼りだされて、注意喚起がされたみたいですが。サークルの友人に訊いてみても、知らない人もいましたね。さすがに同じ学部では、知らない人はいませんでしたが。
弘人さんについて……。うーん。
あんまり、人となりは知らないんですよね。院生と学部生では部屋も違いましたし、それ以上に無口な人でしたから。まぁでも、院生になって今は外国まで行っているんですから、マジメな人なんでしょう。
わざとだと思うか? あぁ、やっぱり結構ご存知なんですね。
そのことについてでしたら、わかりません。そう考えることも十分できますけど、そう考えてしまったらすごく面白いけど、それ以上に怖いです。自分からは、何も言えませんよ。
確かに、あれは衝撃ではありました。あんな驚きは、一生に何回もないでしょう。
亮太さんは人見知りの気がある、大きくて赤い、多分明るい人です。多分です。でも、この多分は多分、絶対に抜かしちゃいけない。そんな人ですかね。あといい加減な人です。四年生は二度目なのに、このままだと卒論は間に合わないかもしれない、そんな人ですよ。