[1章]Square One (4)
GANTZ見ながら小説執筆してますw
「着いたぜ。ここが一番いい店だ。」
「ここ?にしては小さくないか?」
「いい店にデカさなんて関係ないんだよ。」
ジェシーとライナスは武具店の前に立っていた。
古びれた小さな店で、看板には「Morceau」と書いてある。
店の名前もわからないしなぁ・・・。
「まぁ入ろうぜ。いい店かってのは自分の目で確認しな。」
そういって二人は店の中へと足を進めた。
なぁんだ。内装もやっぱり古臭いじゃないか。
武器の品ぞろえもそんなに多くは見えないぞ。
目立つものといえば、カウンターの後ろに飾られている煙草のポスターぐらいだ。
「ホントにこの店で大丈夫なのか?」
「大丈夫だって。」
若干の不安を残しつつ二人はカウンターに近寄る。
カウンターに人影は見当たらない。
「店の人いないのかな。」
「ちょっと待ってろ。」
そう言ってカウンターに身を乗り出すジェシー。
「お~い!いるんだろ!?」
そう叫ぶと、カウンターの下から物音がした。
盗賊か?
ライナスは思わず身構える。
そして、カウンターから人影が生えてきた。
女性だ。しかもかなり美人・・・。
「いらっしゃい!久しぶりねジェシー。」
緑一色のバンダナを巻いた店主らしき女性が明るい声で2人を出迎える。
「何してたんだ?カウンターの下で。」
「売り上げの整理。ほら、最近物騒でしょ?だから護身用のナイフとかを買う人が多いの。」
「儲かってんじゃねぇか。よかったな。」
「でも、それほど世の中が荒んじゃったってことだよね。」
女性の顔に悲しみの色があらわれる。
そうだ。武器を持たずに生きられる世界を作らないといけないんだ。
ライナスの決意が再び固まる。
「それはそうと、後ろにいる坊やは誰なの?」
下に向けられていた視線がライナスの目に注がれる。
「おっと、紹介がまだだったな。こいつは知り合いのせがれで、名前は・・・。」
そこでジェシーは言葉を止めた。
本名を言ってしまえば身元がばれることを今更ながら気づいたのだ。
なんて名前にしようか・・・。
「レイ・ブラッドベリーといいます。」
後ろから明瞭な声が聞こえる。
こいつ、偽名を用意してたのかよ・・・。
「闘技大会に出たいので、武具を買いに来たんです。ジェシーおじさんには付き添いとして来てもらいました。」
闘技大会!?おいおい、お前みたいなガキがなんでそんなのに出場するんだよ!?
「なんであなたみたいな子供が闘技大会に?」
ジェシーの気持ちを代弁するかのように女性が尋ねる。
「実は、最近うちの酒屋が盗賊に襲われまして、売上全部奪われちゃったんです。母は2年前に病気で死んじゃって、片親である父は盗賊の襲撃で重傷を負っちゃったし、うちには僕も含めて5人も子供がいる・・・。だから、僕が闘技大会に出て稼ぎをたてないと、生きていけないんですよ。」
完璧な口実だ・・・。こいつの話術はいつ見ても子供とは思えない。
「可哀想に・・・。あなたみたいな子供が、剣を握らなきゃいけないなんて。」
女性の顔に悲しみが戻る。
「私はナディーン・ギャラガー。私も父親を事故で亡くしてこの店を継いでるから、あなたの気持ちは良く分かるわ。」
ナディーンは、地面に向かってため息を吐くと、こちらに笑いかけた。
「よし!あんたにこの店の秘密、教えてあげる。」
そういうとナディーンは、後ろに掛けてあるでかいポスターをつかみ、腕を後ろに思いっきり振る。
すると、大きな操舵輪のようなハンドルの付いた扉が姿を現した。
「隠し・・・扉?」
唖然としながらライナスは言葉を絞り出す。
「そうよ。強い武器はみんな地下にしまってあるの。」
「どうしてこんなことを?」
「だって、強い武器を悪人に渡せば、大変なことになっちゃうじゃない?だから、常連とかあんたみたいな純粋な人だけがこの部屋にはいれるようにしておいたってこと。」
自分が純粋だと言われ、顔を赤らめるライナス。
「おいおい!俺が地下の存在を知るまで半年かかったってのに、なんでこいつにはそんなサラっと教えんだよ!?」
ジェシーはゴロツキのように喚く。
「だって、あんたはどう見ても悪人にしか見えなかったんだもん。」
「人を見かけで判断すんじゃねぇよ、この女ぁ!!」
「そういうとこが悪人っぽいって言ってんのよ!」
「まぁまぁそのへんにして。早く地下に行こうよ。」
慌ててライナスが止めに入る。
この二人が喧嘩をおっぱじめれば大変なことが起こる予感がしたからだ。
舌打ちをし、「わぁったよ。」と嘆くジェシー。
「ごめんなさい。じゃ、地下へ案内するわ。ついてきて。」
ずれたバンダナを上にあげながらナディーンは呼び掛ける。
そして、扉に近寄り、面舵を取るようにハンドルを回した。
ズズズ、と重量感のある音を立てながら扉が開く。
「じゃ、お先に。」
そういってナディーンは暗がりの階段を下りていく。
ジェシーとライナスはカウンターを飛び越え、ナディーンの後を追った。
シュボッ、という音とともに部屋に光が満ちた。
明りに照らされた剣や斧が、金属光沢をこちらに放ってくる。
部屋の広さは大体100メートル四方ほどだろうか。
地下室にしては意外な広さだ。
「さ、好きなものを選んでちょうだい。」
ナディーンに促され、部屋を回りだすライナス。
やはり隠し部屋なだけあって、見たことのない武器がたくさんあった。
とげのついた鉄球、硬い紐のようなもの、バカでかいとんかち、さらには変な形をした木の棒まである。
さて、僕が欲しいのは剣なんだけどなぁ・・・。
剣といっても種類は豊富だ。
片手剣、大剣、カタナ、短刀、最近じゃ伸縮する剣があるとも聞いたことがある。
僕に合うものは一体何なんだろう・・・。
「すみません。何かオススメはありませんか?」
「オススメ?う~ん・・・。」
ナディーンはしばらく考え込む。そしてはっきりとこう言う。
「まずは武器を手にとってごらんなさい。そして、これだと思うものを選ぶ。それが一番いい選び方よ。誰かに頼るんじゃなくて、自分の直感に身をゆだねるの。」
「なんか難しそうだなぁ・・・。」
「武器は持ち主を選ぶ。自分に合う持ち主を見つけた時、その武器は輝きを放つ。その輝きを感じればいいだけ。簡単よ。」
簡単どころか意味がわかんないよ・・・。
ライナスは首を傾げながらも、剣の売り場に向かった。
剣の売り場では、すでにジェシーが大剣を素振りしていた。
「おいライナス。この剣なんてどうだ?切れ味がよさそうだぞ。」
そう言ってジェシーは大剣を手渡す。
大剣からジェシーの手が放された瞬間、重力がライナスの全身を力強く引っ張った。
「うわっ!重いなぁ・・・。」
「はぁ?この程度で重いとか言ってんのかよ。さてはお前、箸より重たいもの持ったこと無いだろ?」
「どっかの箱入り娘か!そもそも、僕に大剣は使いこなせないよ。」
それに、この剣からは輝きを感じない。
もっとも、輝きとは何なのかがさっぱり分からないけど。
「情けねぇなぁ・・・。あ、お前あれじゃねぇか?魔術の方が向いてるんじゃね?」
「魔術?」
考えたことも無かったなぁ・・・
「そもそも魔術ってどうやって使うの?」
目を見開いて驚きを全身を表現するジェシー。
「お前、それでよく世界救うとかほざけたな!一から教えてやっからよぉく聞いとけ!」
そこまで言われるとムカつかざるを得ない。
ただ魔法の使い方は気になるので、ライナスは何も言わないことにした。
「いいか?この世界には、‘マクト’と呼ばれる目には見えない部室が漂ってる。今だってそうだ。」
そう言われライナスは思わず周りを見回す。
周りにはやはり武器が並んでいるだけだった。
「マクトは妖精の粉とも呼ばれててな、なんつうか、力の源みたいな物質さ。んでもって、マクトをうまい具合に魔力に変換できる奴らを魔術師と呼んでるってわけだ。」
魔術師。かっこいいなぁ・・・。
ライナスの頭に杖を持つ賢者の姿が浮かぶ。
「あ、魔術師って杖を使ったりしてるけど、あれってなんでなの?」
「良い質問だな。」
そう言うとジェシーは人差し指をまっすぐ突き出した。
「魔力を作り出すためには、大量のマクトを一点に集めなければいけねぇ。そのために、杖とかの集点具が必要になってくるんだ。集点具にマクトを集中させ、魔力を生み出す。そうやって魔術師は魔術を使えるってハナシ。まぁ、俺はあんなだっせぇもの使わねぇけどな。」
自分のイメージが「ダサい」の一言で片付けられたことに、ライナスは多少の怒りを覚えた。
「それで、魔力にはどんな力があるんだ?」
突き出されていた指が5本に増える。
「魔力は万物を創造する。たとえ実態のないものでもな。ただ、魔力をなにに変化させる事が出来るかは、魔術師の技量とか集点具の性能とかで大きく違う。その気になりゃあ魔力から金を作り出すこともできるらしいぜ。」
錬金術。聞いたことがあるけど、まさか本当にあるとは・・・。
「そんな芸当ができるのはこの世界に2~3人いるかいないかぐらいだけどな。たいていの魔術師は魔力を炎とか電撃とかに変えて攻撃する。頑張ればお前も火の玉ぐらいは打てるようになるんじゃねぇかな。」
「頑張ればって・・・。今の僕にそんな時間はないよ。」
一刻も早く進まなければダメなんだ。
今ここにいる時間も惜しいというのに・・・。
「そっか。ま、魔術の存在だけ覚えといてくれりゃそれでいいけどよ。だとしたらやっぱり剣だろうなぁ。」
結局、武器選びは振り出しに戻った。
やはり目の前に大量の剣があることに変わりはない。
ライナスは手当たり次第に剣を握ってみることにした。
片手剣を手に取る。
長さは50センチほどだろうか。
無駄な装飾は無く、素朴な柄と鍔と刃があるだけ。それだけだ。
それ故心も素朴なままである。
これは違うな。
短刀を手に取る。
掌より5センチほど長い。
とりあえずやたらめったらに振ってみる。
恐ろしいほど軽い。こいつは使いやすいな。
だけど、精神的に重量感がないのはいただけない。
死体みたいだ。
そう思いつつライナスは剣を壁に投げた。
壁に激突した剣は小銭のような音を立てて床に落ちる。
その姿はまるで小動物の遺骸のようだ。
そうしてるうちに時計の針が180度回転した。
「おいおい、まだ決まんねぇのかよ?」
大剣をフルスイングしながらジェシーがせかす。
「ちょっと待ってよ。・・・ていうか素振りの音うるさい!」
「おめぇこそうるせぇよ!久しぶりに運動がしたい気分なんだよこちとら!」
「知らないよ!真面目に選んでるんだから黙っててくれ!」
「お前程度はなまくらがお似合いなんだよ!贅沢言ってんじゃねぇぞショタ公!!」
ライナスの脳内で何かが切れる。
「言ったな飲んだくれめ。僕が本当の男だってことを太刀筋で分からせてやる!」
怒りに浸透した意識の中で、ライナスは一本の太刀を握った。
その途端、ライナスの動きが止まる。
剣から流れ込んだ何かによって、血液から何からまでライナスの動きは停止した。
怒りが、剣からの力に侵食される。
この感じ・・・。これが、輝きなのか?
流れ込んだ何かは、筋力という形で具現化した。
今までに感じたことのない力に、ライナスは興奮する。
この力をぶちまけたい。放出しないと破裂してしまいそうだ。
その感情と力は、ジェシーの持つ大剣にぶつけられた。
鋭い金属音が鼓膜を打ち鳴らす。
火花と衝撃が二人の顔に降り注いだ。
衝撃に耐えかね、互いの剣は宙に弧を描いた。
剣を地面に押さえつけながら、ジェシーはライナスを見据える。
鬼人のような気迫が滲み出ているのがわかる。
あの太刀にはただならぬ何かがあったに違いない。
参ったな・・・。大剣じゃ部が悪い。
そう思ってる合間にも、太刀はどんどん自分に近づいてくる。
腹に突き出された太刀を、ジェシーは素振りの感覚で上に払う。
互いの剣が大きな作用反作用を起こした。
ライナスは上に、ジェシーは下に引っ張られる。
太刀につられるように、ライナスは空中を一回転する。
大剣に押しつぶされるように、ジェシーは地面に背中をつく。
華麗な着地を見せたのもつかの間。ライナスは再び前進する。
倒れ込んだままのジェシーにも、ライナスは容赦なく突っ込んでいった。
二人の間合いが1メートルを切る。
相変わらずジェシーは倒れたままだ。
横に振りかざされた太刀。
切りたいという欲望だけを頼りにライナスは走る。
もはや彼の中に抑制という概念は無い。
間合いが40センチほどになったところでジェシーはようやく立ち上がった。
だが、太刀を止められる余裕はない。
二人から間合いが消える。
ライナスの目がジェシーの肩をとらえる。
そこに向かって太刀を全力で振り下ろす。
マジかよ?俺の最後がこんな虚しいなんてよ・・・。
ジェシーは間に合わないことを悟り、目を閉じた。
剣が空を切り裂く音、そして、鈍い金属音が響く。
目を開けると、ギザギザの刀身が煌きを放ちながら近づいてきた。
その煌きはすぐさま右へ飛んでいく。
「何ぼさっと突っ立ってんのよ!早く剣を構えて!!」
ナディーンの声だ。
ナディーンが鋸で太刀の進行方向を変えたのだ。
状況整理をしていると、再び金属音が鳴った。
「太刀を飛ばして!太刀が体から離れれば暴走は止まる!」
ぶつかってくる剣撃を受け流しながらナディーンは叫ぶ。
それを聞いてジェシーは大剣を構え、全力疾走する。
走る途中、前方から何かが飛んできた。
それを大剣で弾き飛ばし、何かを確認する。
鋸だ。競り合いでもはや鉄屑と化している。
やべぇ、死フラ立った!
ジェシーは足を速める。
2秒ほど経つと、ナディーンとライナスの姿が確認できた。
飛んでくる剣撃を必死に避けている。
両者ともだいぶ疲労しているようだ。
ジェシーはライナスの太刀に狙いをつける。
そして、ナディーンの頭上に煌く刀身に向かって、剣を振り上げる。
ぶつかり合う音はジェシーの咆哮で消えたが、衝撃がぶっ飛ぶのは全員にわかった。
共に太刀も空に舞った。
空気を切りながら太刀は回る。
そして、地面を刺し止まる。
これまでの騒動を包み込むような静寂が訪れた。
「これで借りは無しだぜ。」
息を荒げながらジェシーはそう語りかけた。
「ホントにごめんなさい。説明が足りなかったわ。」
「ごめんで済んだらこの世に神様なんていねぇよ!危うく死ぬとこだったんだぞ!」
叱責の声が部屋を埋める。
あの後ライナスは前のめりに倒れ、死んだように眠ってしまった。
一瞬本当に死んだのではないかと思われたが、寝息がそれを否定してくれた。
「じゃあその説明を今してもらおうじゃねぇか。なんであんなことになった?」
あの太刀が関係していることは明白だった。
あれは未熟な剣士の命を奪いかねない。
たとえばそう、ライナスのような。
「あの太刀は、“ルクシーレ”っていう名前で、大昔エドモンド・ルクシーレっていう殺人鬼が使っていたものなの。なんでも、一般市民を80人も切り殺したっていう伝説があるらしいわ。そのルクシーレの魂が憑依したから、使った者もその狂気に襲われるんだって。」
ジェシーがアホ面とも思える驚愕した表情を浮かべる。
「なんでそんな物騒なもんがここにあんだよ!」
「うちのおじいちゃんが骨董品コレクターでね、昔の有名な品を集めるのが好きだったの。でも、おじいちゃんが死んじゃって、骨董品だけが大量に残っちゃったわけ。だからね、そのまま一般の人に売ろうってことになったのよ。危ない剣だってのは重々承知してた。でも、仕分けるのが面倒で、あの棚に入れたままだったのよ。」
「結局てめぇらの不注意じゃねぇか!」
「ごめんなさい。なんてお詫びしたらいいか・・・。」
おろおろとするナディーンを見かね、ため息をひとつ吐き出すジェシー。
「じゃあ店の商品全部タダにしてくれ。結局、あいつの武器は決まって無いからな。」
すぐさま顔を上げるナディーン。
若干目が潤んでいる。
「そんなんじゃ足りない!あれより安全でいい武器をあげるわ!ちょっと待っててね。」
そう言うとナディーンは剣売り場まで駆けていった。
その後ろ姿を見ながら、ジェシーは考える。
あいつの中には、とんでもない力が潜んでいる。
太刀の力を借りていたものの、あの身のこなしにはついていけなかった。
全く、恐ろしいガキだぜ・・・。
そこで、何かが動き出す音がした。
ライナスが寝ている方向からだ。
すぐさま駆け寄る。
「お、起きたかライナ・・・」
そこで思いとどまる。
「レイ!心配してたんだぞ!」
油断大敵である。
「あ、ジェシー。あれ?僕なんでこんなとこに座ってるんだろ?」
目をこすりながら、ライナスはそうつぶやく。
太刀を握っているときはほぼ無意識だったらしい。
「お前はとんだハズレをひいちまったんだよ。収集つけんの大変だったんだかんな。」
とりあえず曖昧にしておく。
案の定、ライナスは首をかしげるのだった。
「お待たせ!これがお勧めの剣よ。」
後方から声がする。
振り向くと、細身の剣を持ったナディーンが立っていた。
細い柄には特殊な装飾が施されている。
それ以外に特徴を挙げられないほどシンプルな剣である。
「お勧めって、普通のレイピアじゃねぇか。」
チッチッチッと口を鳴らしながら指を振るナディーン。
「それが違うの。まぁとりあえず持ってみてよ。」
そう言って剣を差し出す。
近くから見てもやはり違いはそう感じられない。
疑問を抱きつつ、ライナスは剣を握ってみた。
ナディーンの手が剣から離れるのが見える。
しかし、重力に引っ張られる感覚が全くないのがわかった。
「軽い!こんなの初めてだ!」
初めて逆上がりができた子供のようにはしゃぐライナス。
さっきまでの光景が嘘みたいだ。
「でしょ?ゴムメタル合金っていうのを使ってるから、これだけの軽さが実現できたの。」
そう言うナディーンの顔は喜びに満ち溢れている。
商売人にとって、客に喜んでもらえるというほどうれしいことはないのである。
「気に入ってくれたかしら?」
「もちろんだよ!ところで、いくらするんだい?」
ルクシーレを一瞥し、ナディーンは答える。
「タダでいいわ。あなたならそれを使いこなせる。そう信じてるから。」
鳩が豆鉄砲を食らったような顔とはまさしく今のライナスの顔の事である。
剣が上物だっただけに、驚きも大きかったようだ。
だがすぐに理性を引き戻し声を上げる。
「そんなわけにいかないよ!お金ならいくらでもあるから!」
ナディーンは首を振る。
「その剣はあなたを選んだのよ。いいから持っていって。」
苦し紛れに説得力の無い根拠を口走る。
だが、ライナスの顔には笑顔があった。
「ありがとう。大事にするよ。」
『素直でよかった・・・。』ナディーンは思う。
『よかったぁ、バカで。』同時にジェシーは思った。
「さて、今度は俺の武器を選ばなきゃならないな・・・。」
もらったレイピアに見入っていたライナスがすぐさま振り向く。
「えっ、武器って、君には銃があるじゃないか。もしかしてこの際剣を使うつもり?」
ジェシーは真顔で正面を一目見ると、目を閉じため息をついた。
「あのなぁ、銃単体だけじゃ何もできないって知ってたか?」
「そうなの!?知らなかった・・・。」
どこまで無知なの、この子は・・・。
「銃弾がなくてどうやって銃ぶっ放すんだよ!弾を買っていこうって話だよ、弾!」
「あ、銃弾か。父さんから聞いたことある。」
機能は教えてないのかよ。
親も親なら子も子だな・・・。
「ナディーン。9mmパラべラム弾をあるだけくれ。」
二人のやり取りをほほ笑みながら見ていたナディーンは、突然の声にハッとする。
「あ、うん。ちょっと待っててね。」
そう返事をし、ナディーンは地下室の出口に小走りで向かった。
ドアの閉まる音。その音と同時にライナスが口を開いた。
「そういえばさ、銃ってどういう風に撃つの?」
「ずいぶんと唐突だな。ちょっと待て・・・。」
そう言ってホルスターから真っ黒い銃を取り出す。
「俺が持ってるこれは、世間では拳銃って呼ばれてる。他にもライフルとか、ショットガンなんてものある。」
「それで?どうやって撃つんだい?」
早く説明しろと言わんばかりだ。
「まぁそう焦んなって。まずは、弾をこのマガジンに込める。」
銃の下から細長い箱が飛び出す。
溝には、蜂の子のように弾丸が詰まっている。
「次に、撃鉄をスライドさせる。」
銃の上の部分をこする。すると、カチッという音が鳴った。
時計の長い針が動いた時に発する音に似ている。
「これで銃に弾が行きとどいたってわけだな。そして、この引き金を引く」
銃の下にある三日月状の空白を指さす。
これを押せば、人が死ぬのだ。
一人の人間の命を左右するボタン。
ライナスは少し寒気を覚えた。
「ざっとこんな感じだな。ま、戦闘で見た方が早いと思うんだけどよ。」
ドアの開く音。今回は金属音のような響きだ。
両手に多量の箱を抱えたナディーンが、ドアを蹴飛ばした右足を下ろす。
「これで全部よ。70箱ぐらいかなぁ。」
「十分だ。ありがとよ。」
箱で顔が埋もれそうになるナディーンを見、言う。
「お前、何のために世の中にバッグが生まれたか分かるか?」
地下室を出て、3人はカウンターの内側に立っていた。
「これで必要なものは全部買ったな。あとは家に戻って準備するだけだ。」
買ったというか貰っただけどね。
ナディーンは内心でつぶやく。
「ホント、いろいろありがとうございました。」
ライナスが感謝の意を込め頭を下げる。
「いやいや、当然の事をしたまでよ。」
無論、少年が太刀に呪われて暴れまわったり、店の商品を無料で渡すことになろうとは想定していなかったが。
「じゃあ俺たちはそろそろ行くからよ、またな。」
そう言ってカウンターを飛び越えるジェシーとライナス。
「うん。頑張ってね!」
二人の後ろ姿を見送るナディーン。
ホッとしたというかさびしいというか・・・。
何とも言えない気持ちに戸惑いながらも、見送りの手を振る。
・・・ん?
ジェシーの手のあたりで視線が止まる。
感情の前に行動が先手を取った。
カウンターに手をかけ、腕をえいやと伸ばす。
反動で体が浮く。
全身の力を両足に込め、ナディーンはジェシーに渾身のドロップキックをかました。
ジェシーは頭をがくんと後ろに倒したかと思うと、ドア付近まで海老反りでぶっ飛んだ。
倒れたジェシーをにらみつけるナディーン。唖然とするライナス。
そして、起き上がって怒りをぶつけようとするジェシー。
「てめぇ!何しやがんだいきな・・・」
そこで言葉が途切れる。
ナディーンがジェシーの耳を引っ張り、カウンターの前に引きずり込んだからだ。
言葉を失うライナスを背にして、ジェシーが持っていた太刀を奪う。
「なんであんたがこれを持ってんのよ!」
それは、先ほどライナスを狂わせたルクシーレそのものだった。
「いや、使うかなぁと思って・・・。」
「それってレイが使うって意味よね?あんた、あの光景を見たでしょ?私たちどころか、あの子まで死ぬところだったのよ!」
鬼気迫る口調。本気でライナスを心配しているらしい。
「分かってる。でもよ、」
「でも何よ?」
「あいつの力を甘く見ない方がいいぜ。」
ナディーンは意味が分かっていないのか、はぁ?と聞き返す。
「あいつは近いうちにその太刀を使いこなせるようになる。断言してもいい。」
疑問と眉間のしわが一層深まる。
「なんでそんなこと分かるのよ?」
「感じんだよ。あいつはどこかが違うってな。あの剣を使いこなせるほどの力もそのうち着くに決まってる。」
怒りの8割が疑心に変わる。
「あんたが言うことなんて信じられないけどね。」
「俺の言葉を信じないってことは、あいつの実力を認めてないってことだぜ。」
悪戯な笑みを浮かべるジェシー。
その顔が気にくわなかったが、同時にこんな思いが浮かぶ。
レイなら、あれを使いこなせるかもしれない・・・。
もちろん、その思いを抑制する感情も表れた。
ナディーンの中で期待感と危機感が唸りを上げる。
結局、最後まで残ったのは前者だった。
ため息をひとつ吐き出し、耳から手を離す。
「分かったわ。でも、くれぐれも無理はしないでね。」
釘をさしておかなければこの男は何をしでかすか分からない。
「分かってるっつーの。それより早く行かねぇと怪しまれちまう。」
後ろを振り返り、ナディーンはジェシーの背中を押した。
「てめー、さっきの蹴りの分覚えとけよ!」
ライナスの方に走りながら、ジェシーはそう叫んだ。
そのまま二人は出口へと向かっていく。
「帰ったら土産話でも聞かせてよね!」
返事はなかったが、ライナスが大きく手を振ってくれた。
出口がゆっくりと閉められた。
静寂の中で、再びため息をつく。
若干の嫌な予感と、大きな期待感を胸に抱きつつ、ナディーンはカウンターに戻った。
そして、再び金庫のハンドルを回し始るのだった。
やっと終了!