[1章]SquareOne(3)
リップスライム聞きながらこれ書いてましたw
「かけてくれ。こっちの質問に答えてもらおうじゃないか。」
怪物の中は快適だった。
天窓から日差しが入り込む広々としたリビングだ。
いまどきには珍しい切り株を模したイス。
向こう側には少し汚いがカウンター付きのキッチンが備わっている。
別にお宅訪問してるわけじゃないんだよなぁ、僕は。
家への執着心を捨てるように、勢いよくイスに座った。
「よし。1つずつ答えてもらおう。文句は言わせん。」
いつの間にか座っていたジェシーが少しだけ語気を強め言う。
ライナスは無言でうなずいた。
「まずは第1問。なんで、ここが俺の家だと分かった?」
脅したっていうべきだろうか。
ライナスは一瞬迷った。
「飲み屋のおっさんたちが教えてくれたんだ。」
とりあえず曖昧にしておく。
「ふぅん。ご苦労なこった。」
そう言ってジェシーは鼻を掻いた。
あ、追及はしてこないんだ。
「まぁそんなことはどうでもいいんだよ。」
じゃあなんで聞いた!?
「重要なのは第2問だ。なぜ俺に会いに来た?」
ツッコミで揺らいでいた心が静止する。
第2問。それはまさに僕が伝えたいことだ。
ライナスは深く深呼吸をする。
「長い話になるけど、ちゃんと聞いててくれよ。」
「あたりめぇだろ、質問してるのはこっちなんだからな。」
あ、そういえばそうだな。
「結論から言う。あんたと一緒に旅がしたいんだ。」
ライナスの言葉に目をぽっかリと開けるジェシー。
「おいおい、それならこんなおっさんじゃなくて若いねぇちゃんとか誘えよ。お前さんも趣味悪ぃなぁ。」
「あんたがガンスリンガーじゃなかったら誘ってねぇよ!」
誘った理由の説明とツッコミが同時にできて心なしか得した気分になる。
「君の腕を見込んでだ。僕一人でこの旅は乗り越えられない。」
それを聞いたジェシーは唇を引き上げる。
「ほぉ・・・。単なるガキの家出じゃねぇみてぇだな。」
こっからが本題だ・・・。
ライナスとジェシーの思考がダブる。
「そう、これは生半可な旅じゃない。僕らは世界を巡るんだからね。」
ほへぇ、と間抜けな声がジェシーから聞こえてきた。
「急にスケールがでかくなったな。世界1周旅行とは。」
「回るんじゃない、救うんだ。」
ジェシーの眉間に線が入った。
「するってぇとなにかい?お前は今から世界を救うっていうのかい?」
「そうさ。僕らは世界を救う・・・いや、立て直す、と言った方が正しいかな。」
自分に言い聞かせるようにライナスは言った。
「世界を救うっていうのはあれかい?魔王とかを倒そうってのか?」
あまりの話の飛躍に吹き出してしまう。
「そんな厨二的な事はないよ。もうすでに世界は壊れているんだ。それを修復する。」
「それも厨二っぽいと思うのは俺だけか?」
「君だけだよ」
即座に否定する。
この話全体が若干の厨二臭さをまとっているということはライナスも十分に分かっていた。
ただ、いまは話を脱線させたくはない。
「世界は壊れている、と言ったな。意味を教えてくれないか?」
ジェシーがいきなり真剣な顔つきになり少し驚く。
そしてライナスも同じ顔つきになった。
「この世界が、元はフィローンっていう大きな国だったってことは知っているよね?」
「知ってるも何も、一般常識だろ。」
「そして、国が内乱によってバラバラになったってことも分かる?」
「あぁ、正確な数は分からんが、いろんな奴らが勝手に国を作ってった。」
ジェシーは足を揺らしだす。
「それも常識だぜ。結局お前は何が言いたいんだよ?」
「そして、今となってはその国一つ一つが分裂しようとしてる。それは知ってるかい?」
ジェシーは足と瞼の動きを止めた。
「どういう意味だよ?」
ライナスはイスから静かに立ち上がった。
「僕は暇さえあればずっと文献を読んできた。そしてこの世界の現状を知ったんだ。」
「へぇ、勉強熱心だね王子様。」
「少し黙っててくれ。」
声は少年そのものだが、王者の風格を感じる。
わあったよ、と言って腕を広げるジェシー。
「内乱後、それぞれの国は一つの共通点を持ったんだ。『無法地帯』という共通点をね。」
両者の瞬きが重なる。
「暴力が横行する国。魔物に蝕まれた国、再び内乱を起こそうとしている国。どの国も問題がありすぎる。そこには正義なんて無い。愛が入り込む隙間もない。」
ライナスはジェシーの黒眼を見る。
「君の国がまさにそれだよ。互いの考えが理解できず、ガンスリンガーは虐殺された。そして、虐殺した側が正義になり、国を作った。」
ジェシーの脳裏にある情景が浮かぶ。
倒れこむ赤い女。それにすり寄る小さな子供。そしてその子どもを突き刺す騎士。
その情景をジェシーは即座にかき消した。
「それなのに、世界は何も学びとろうとしない。それどころか、再び過ちを繰り返そうとしているんだ。」
机と拳がぶつかる音がする。
「分かるかい?この世界は混迷の地と化してしまったんだよ。」
一瞬時が凍りつく。そしてすぐ動き出す。
「僕は壊れた世界を繋ぎとめる。その手伝いをしてほしいんだ、君に。」
ジェシーは自分が民衆に囲まれている錯覚に陥る。
こいつは本当に子供なのか?
世界の実状を理解し、それを流れるような口調で相手に的確に伝える。
それはまさしく指導者に必要なスキルそのものだった。
いや、待て。冷静に考えろ。あいつはまだガキなんだぞ。
「お前の言いたいことは分かった。だがよ、お前さんは一応王子なんだろ?だったらよほどの事がない限り王様になれる。王の権力を持てば、世界を動かすこともできるはずだ。その時になってからでもいいんじゃないか?」
「それじゃダメなんだよ!」
いきなりの大声にビビる。
「世界の分裂は、僕らがこうやって話してる間にも起こっている。例えるとだ」
そういって机に丸をかたどった両手を載せるライナス。
「世界が一つの絵だとする。元は一つの絵だった世界が、内乱によってジグソーパズルのように分解された。」
机の上の丸が分解され、掌二つになる。
「この状態でパズルを組み立てるのは容易だよね。だけど、そのピース一つ一つ、つまり分裂した国一つ一つが再び分裂を始めると・・・」
机から手が離れ、掌が宙に舞うような形になる。
「どんどん組み立てるピースが増えていって、元通りにするのが難しくなってくる。しかも、分裂はとどまる事を知らない。」
国を模した手が堕ちた。
「このままでは取り返しがつかなくなる。それはつまり、大戦の再来、世界の崩壊だ。」
堕ちた手をがっちりと組むライナス。
「だから、ピースをかき集めてフィローンを元通りにするんだ、今すぐに。僕が王になってからでは遅いんだよ。」
魂が出たんじゃないかと思うぐらいのため息をついた後、ライナスは再びイスに戻った。
そして、普通の子供のように無邪気な笑顔をジェシーに向けた。
「そのためには君が必要なんだ。ついてきて、くれるよね?」
ジェシーは自分の頭を整理する。
確かにこいつの言うとおりだ。世界は壊れている、今も。
そして、こいつなら世界を救ってくれるかもしれない。
にしても、気味わるいガキだこと・・・。
まぁ、俺も人の事は言えんがな。
「いいぜ!俺も酒飲むぐらいしかやることがなかったとこだ。ついていってやるよ。ただ、俺の足手まといだけにはなるんじゃねぇぞ。」
「こっちも同じことが言いたかったところだよ。」
「んだとクソガキ!」
部屋に笑いがあふれた。
「じゃあ早速出発しよう。」
ライナスはローブをハンガーに掛けながらそういった。
「ハァ!?今からかよ!明日からでいいじゃんか!」
「だーめ!もはや一刻の猶予も許されないんだから。」
冗談じゃねぇ!疲れてんだから今日は寝させろや!
「とりあえず待て!準備もしねぇでどうやって旅に出ようってんだよ?」
え、と言って振り向くライナス。
「剣の手入れはできてっか?防具は?食料は?準備もしねぇで戦いに挑もうなんざ能無しのやることだぜ。」
ライナスは自分の身元を見る。
僕の現時点での持ち物は、あのローブと有り金全部詰め込んだ財布だけか・・・。
「確かにそうだね。よし、この街でいろいろと買っていこう。」
よっしゃ成功!これで今日はぐっすり眠れるぜ!
ジェシーは心の中でガッツポーズをとる。
「じゃあ、君もついてきてくれないか?」
「は?」
何言ってんのこの子!?
「だって、僕はこの街に来るの初めてなんだよ。道案内がいなきゃどこに行ったらいいかわからないじゃないか。それに、戦闘経験が深い君なら、何を買うべきかも分かるはずだ。」
クソッ!好き勝手言いやがって!
しかもこいつの意見はバカみたいに的を得てる・・・。
「わぁったよ!一緒に行ってやるぜバカ王子!」
「ありがとう。あ、街に出たら僕の身分は隠しておいてね。」
「へぇへぇ・・・。」
はぁ、引き受けなきゃよかったかもな・・・。
1章パート3終了!