【2章】Black Horn〈5〉
久々に書くよ!
廃墟と呼ぶにふさわしい街中に、二人の姿はあった。
その後、ヤスパースの厳重に厳重を重ねた厳重注意を掻い潜り、この国の王になるべきなクソ野郎に灸を据えるため、二人は歩み始めたのだった。
「にしてもさ、剣から炎を出すなんてあり得るの?とてもじゃないけど信じられないな。」
ヤスパースからもらったアーモンドをポリポリしながらライナスが尋ねた。
「あぁ、そのことか。俺が魔術の説明の時に言った事を覚えてるか?」
ジェシーもまたアーモンドポリポリをしながら尋ね返した。
「覚えてるとも。確かマク↑ド↓を変換して…」
「マクトな。あとなんだその地域特有のイントネーションは。」
大きくため息をついた後、ジェシーの長いは説明が始まった。
「マクトを変換するには、マクトを一点に集中させるための集点具がいる。ここまでは聞いたな?実はその集点具は剣でもいいんだ。」
「そんな事が出来るの!?」
ライナスは腰に携えたレイピアを驚きの表情で凝視した。
「バーカ、お前には無理だ。」
今度は恨みのこもった目でジェシーを凝視する。
「その技能を身につけた剣士は、魔剣士と呼ばれる。だが、身につけるまでが一苦労なんだなぁこれが。聞いた話によれば、修行には五年は最低でもかかるらしい。」
五年。道のりの遠さにライナスは落胆の目を地面に向けた。
「つまりこの国の王子様って奴は、五年以上に渡る修行の成果の末にその能力を手に入れた。クズはクズでも熟練のクズと言ったところだろうな。」
熟練のクズ。いかにも諸悪の根元という感じだ。本当の根源は別にあるのだけれど…。
「安請け合いしちまったが、こりゃあ俺たちはとんでもない奴を敵に回しちまったらしいな。」
「…勝てる見込みは、あるの?」
ライナスは不安だった。実戦経験が皆無の彼には当然湧き上がる感情である。
そんな彼のわずかに震える頭を、ジェシーは小突いた。
「こんなとこで弱気になってどうすんだよ!俺を誰だと思ってんだ?天下のガンスリンガーであるジェシー・ドラクロワ様だぜ?お前に戦闘の基本ってやつを見せてやるよ。見せびらかしてやるよ。」
大きく見えた彼の背中に、ライナスは腹立たしさと頼もしさを半々に感じた。
「よっしゃ、捜索開始だ!とりあえず片っ端から家を回ろうぜ!」
「いや、その必要はないんじゃないかな?」
「あん?」
「だって、相手は盗賊だろ?なら僕たちがすべき事はただ一つ、商人のフリをすることさ。その方がよほど効率的だろ?」
得意顔に苛立ちを募らせながらも、ジェシーは同意した。間違ったことは一つも言っていないのだ、こいつは。
「しかしよ、商人っつったって何を売ればいいんだよ。このアーモンドでも売るっての?」
ジェシーは、もう内容量わずかのアーモンドが入った袋を掲げながら疑問を呈した。
「いやいや、別にモノじゃなくたっていいじゃないか。今の時代はサービスだよ、サービス。」
不適な笑み。嫌な予感をジェシーは覚えた。
「…ホントにこんなんで客なんか来るのかよ。」
「まぁまぁ、気軽に待ってみようじゃないか。」
廃材でこしらえた看板。そこには『HOTEL GOLDPLATINUM』の文字が書いてある紙が貼り付けられていた。
そして二人は、もう人が出払った廃ビル寸前のアパートの受付に位置していた。
「なんだよ黄金白金って!そんな雰囲気ゼロだろこんなボロアパート!」
「ジェシー、名前は実体を反映しないんだよ。むしろ、実体を誇張することにこそ意義がある。それが名前という広告の本質だよ。」
「今お前ここが名前負けしてるってこと認めたな!?絶対客なんか来ねーよこんなとこ!少なくとも俺が客なら来ないね!」
「なら君のアイデアを聞かせてくれよ!まさか、何もないなんてことはないよね?」
「ぐっ…、それは…。」
「ほーらね!やっぱりこの方法しかない!」
「すいませーん!」
「うるせぇ!そもそも、ホテルで客を寄せようって考えがおかしいんだよ!これならまだ豆を売ってた方がマシじゃねーか!」
「いるんだろー?!」
「そんな訳はないさ!豆なんて誰が買うんだよ?そんなものより、ホテルでのおもてなしの方が断然人々の心を惹きつけるはずだ!」
「おいコラ無視してんじゃねーぞ!!」
「おもてなしだぁ?!そんなもんを期待する奴がいるなら連れてきてみやがれってんだぁ!!!」
バターーーーン!!!
「客が来てやってんだろうがーーーー!!!!!」
蹴破られたドア付近に、狂犬の様な顔をした男が仁王立ちしていた。
二人は顔を見合わせ、そして男に向かって叫んだ。
「いらっしゃいませーーーーー!!!!!」
「おいテメェら、ここは本当にホテルなのか?」
狂犬顏の男が尋ねる。なかなか体格が良かった。
「何をおっしゃいますかお客様、どこをどう見てもホテルでしょう。看板にも書いてある通り、我々は『HOTEL GOLDPLATINUM ホールディングス』でございます!」
ホールディングスぅ?なんでこんなボロいホテルもどきが株式保有してんだよ!
「…まぁ、そういうことにしといてやるよ。んで、ここは飯は出るのか?」
「はい!最高級のモーニングセット、そしてさらにその上をいく高級感のディナーを用意してお待ちしております!」
なんでだよ!どっから調達するんだそんな食材よぉ!どうなっても知らねーかんな!
「おぉ、そいつぁ楽しみだ。それと、団体客なんだが部屋は予約できそうか?」
「はい!当ホテルでは、スウィートルームを含めた全60部屋をご用意いたしております!」
スウィートルームどころかラブホにも劣るわ!
「そいつは助かるぜ!だがそんな大サービスなら、さぞかし宿賃は高いんじゃないか?」
「ご安心ください!なんと当ホテル、朝晩食事付きスウィートルーム、ルームサービスもついて、たったの100ドルでございます!」
安すぎるわ!!もうそこまでくると完全にラブホだよ!!
「すげぇ!こりゃボスも大喜びだぜ!」
ライナスは深々と笑みを浮かべた。
「ご予約ということでよろしいでしょうか?」
「あぁ、こんな最高のサービスを格安で提供してくれるホテルは他にねぇ!団体15名で予約するぜ!」
敵は15人か…。
「では、ご予約の方のお名前をお教えください。」
「あぁ、デレク・シュンペーター名義で頼むぜ。」