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【2章】black horn(4)

「ところで、ここの指導者ってどうなったんです?」

 ヤスパースと名乗った老人にライナスはそう尋ねた。

 苦虫どころか毒虫を噛み殺したような表情がヤスパースに浮かんでいる。

「あのハナッタレ王子か?知らん。生きててもそこらへんでくたばっててもわしらにはどうでもいい話だ。」

 ヤスパースの顔が一瞬父親に見え、ライナスは身震いをする。

「親父は最高の男だったんだがなぁ。この国はそいつの親父が建てたんだよ。ちょうど今みたいな状態だった荒れ地を、やつは近代的な街に変えた。一年間の出来事だったよ。だけど俺たちは知る余地もなかったんだ、この地がどうしてこんなに荒れ果てていたのかをな。」

「んで、街を興した途端にその原因が来たと。」

 かろうじて立っている椅子に腰を預けたジェシーが口を開く。

「そうだ。儚いもんだと思わんか?どれだけ年月をかけて作ったものでも、ちょっとした自然の気まぐれで全部おじゃんだ。」

 広げられた腕がその儚さを強調する。

「そして、国王も街と一緒に消えた。よりによって残されたのはあのゴミみたいな息子だけじゃよ。」

 そんなにひどいことを言わなくても、と言うべきだったのかもしれないが、国の現状を見ると何も言えなくなる。

「デレク・シュンペーター。やつの名前だ。噂では、盗賊まがいのことをしているらしい。『蛙の子は蛙』とは馬鹿なことを言ったものだな。」

「盗賊だぁ?どうしようもねぇなそりゃぁああああああああああ!!」

 破裂音を出しながら背もたれつきの椅子はただの台へと変わった。

 振り返るとそこにはV字があった。どこか懐かしいずっこけ方である。

「じじい!俺は客だぞ!もっとまともな椅子よこせ!」

「この宿にそれより上物の椅子は無いわ馬鹿が。」

「クソッ、恨む対象がありすぎて訳がわかんねぇ!」

「なら最初は国王を恨みなよ。」

 ジェシーを見下す形でライナスが言った。

「国がこんな状態なのに、ただ自分の利益だけのために暴れまわってるなんてどうかしてる。まずは国王をどうにかしないと化け物を退治したところでどうにもならないじゃないか。」

相変わらず上から目線で正論ばっか言いやがって…。

尊敬と軽蔑とじわじわと来る気恥ずかしさが入り混じり、ジェシーは笑みをこぼした。

そして立ち上がり言う。

「そうだな、まずはそのクソガキの性根を叩き直さなきゃなんねぇってわけだ。ったく、またガキの相手かよ…。」

「誰の事だい?」

満面の笑みを浮かべながら怒りを露わにするライナス。

「悪いことは言わん、やめておけ。」

仲裁に入るようにヤスパースが呟いた。

「奴はどうしようもない男だが、腕は確かだ。あいつらの一味が盗みに失敗したという話は聞いたことがない。」

「ただのコソ泥に負ける俺たちじゃねぇぞ。」

そういってジェシーは力こぶを作ってみせた。それほど大きくはなかった。

「いや、実力も当然ある。あいつらに立ち向かった屈強な男たちが言うにはな、剣が炎を纏っていたらしい。そんな芸当ができるのは相当の経験を積んだ剣士なんだろう?」

ジェシーたちは眉を中央に寄せた。しかし、思っていたことは違う。

炎を纏う剣?あり得るのかそんなの?


なるほど、魔剣士か…。厄介だな…。

「お前さんたちも相当の手練れだとは思うがな、相手にするには危険すぎる奴らだ。大人しく他の方法を考えた方が得策ではないかの?」

無論、そう言われて引き下がるジェシーたちではなかった。むしろ、その言葉は彼らの闘争心の起爆スイッチを押してしまっていた。

「上等よ!腕ならしには十分すぎるじゃねぇか!なぁガキ!?」

「そうだね!…ってその呼び方やめろよ!」

こいつらは馬鹿だ。さっき思い知ったことを改めて反芻するヤスパース。

この愚かさは救いなのか、破滅なのか。もっとも、後者の心配はあまりしていなかった。

これはいい愚かさだろうと、鈍いながらも直感がそう言っている。

「そうか…。わしはお前らを信じている。だから止めはせんよ。だが、危なくなったら逃げろ。約束だぞ。」

ヤスパースは、もう二人のことが孫に見えていた。もう失いたくないと、そう思っていた。

「分かってるよ。退き際はわきまえてるつもりだぜ。なぁライナスちゃんよ!」

「そうね!…だから女じゃないって言ってるだろ!」

ボロ屋に笑いが飽和する。かつての賑わいを思い出し、再び涙がこぼれそうになる老人の姿があった。

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