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あるローン債務者の告白

 このくだらない物語を、私が「なろう」で出会った諸氏のなかで最も公平無私な人物、「タコヤキ/六百文字」近藤氏に捧げます。

 勝手に捧げられ、迷惑そうな顔が浮かぶのだけれど……


『な・ん・で・もー~か・ん・で・もー~おっかぁいもーのなーら、セッセン♪』

 五分に一回は聞かされるこの曲。『株式会社 世界通信専売コーポレーション』のコマーシャルソング(ジャパンヴァージョン)だ。

 俺はこの曲が死ぬほどキライだ。鳥肌なんてもんじゃない。ジンマシンが出そうになる。だから情報端末は常にオフ。電脳は基本スタンドアローンモードにしている。


 世の中の奴ら、みんなセッセンの話題ばかりしている。

 まあ、お年寄りはいい。セッセン始めツーハン(国際語)のサービスは、どこぞやのツーハン会社のキャッチコピーじゃないが「念じるだけで世界がお手元に」だからだ。

 しかし体が動く若い人間は面倒だからってツーハンばかりじゃイカンと思うのだ。自分の目を信じて購入する賢い消費者になろう。不良品販売防止キャンペーンで政府広報もそう言っているじゃないか?それに……

(その先にあるのがローン地獄だって知ってんのかよ?)

 

 そう、俺はセッセンに身も心も捧げる結果になっている。三年前からセッセンの『スーパーサポート会員』だからだ。

 元はと言えば、元カノが歯ブラシをセッセンで購入したことから始まった。

 ツーハン購入は世の常識だったが、現実派の俺は3Dホログラフィーなんかじゃなく実際の品物を手にとって確かめて買いたい人なのだ。しかし、彼女は完全にツーハンライクな人物だった。同居初日に買った細々とした日用品から、翌週買い揃えた家具に至るまで、全てセッセンで揃えた。

 翌月の請求書は百万円。それがメールで届いた時、俺は思わず立ち止り前から歩いて来た人物とぶつかった。電脳メールは着信しても直ぐに開封せず立ち止って開けましょう。公共マナーを訴えるキャッチCMは正しい。それでも俺はグッと耐えた。しがない運送ドライバーの俺にとって、彼女は二度と出会うはずのない信じられぬほどの美人だった。

 それから転落するまでは早かった。彼女の作る飯は全てセッセンの生鮮食料直配、しかも『たったの五分でチャッチャッチャー♪』で有名なファイブ・ミニッツ・スターグルメ。材料を専用容器に入れレンジで五分、あっという間の出来上がり~♪と言う代物。値段も五分に見合ったものならよかったのに。

 日用雑貨、掃除洗濯サービスから送迎サービス、果ては『たったの七日でみっるみーるス・リ・ム~♪』のクイックセブンダイエットまで……一体何日やったのかは不明だが何故か七日で一キロ増えたらしい。

 そして最初こそ半分支払ったものの、翌月からは貸しといて、と支払いは全て俺に。更に喧嘩~すれ違い~浮気と恋愛フルコースを満喫、半年で破局。いや、破局と言うのはお互い納得の場合を言うのだろう。

 だが、こいつは違う。ある日、帰ってみると部屋はもぬけの殻。彼女は何から何まで持って行きやがった。残されたのは俺とローン五百万。

 今思えばこれだけならまだ火傷程度だったのに。翌月俺の会社が倒産、彼女に気を取られ、業績の急激な悪化にも見て見ぬ振りをしていた俺は自社株を三百万円も買っていた。


 セッセンの債務ご相談係がやって来たのはその二ヶ月後。にこやかな、実に爽やかな男性二人。無骨なアンドロイドを連れていたがこれは運転手で、世に噂されるような取立ての鬼の雰囲気を全く感じさせなかった。

 俺は引き落とし不能となった理由を淡々と語った。ご相談係の男性は実に親身になって聞き入り、同情の相槌を何度も打った。

「それではお客様。お客様の生活を現状で留め、債務を完済する我々のシステムに参加しませんか」

 男はにこやかに一枚の電子ペーパーを宙に浮かべる。俺の目の前に漂うそれには「セッセン・スーパーサポート会員申込書」とあった。


 本当の地獄はそこから始まった。サインした十日後、電脳に一通の不気味なメールが。今度は立ち止っていてよかった。たとえ人と正面衝突しても気付かなかったろう。そこにはこうあった。


「 スーパーサポート会員#1099282様

 日頃セッセンをご利用頂き誠にありがとうございます。さてあなた様の債務は現在、5,678,323円です。会員規約により、以下の責務を行なって頂きたくご案内申し上げます。この責務完遂により、あなた様の債務は7,234円減額となります。(正確な残高は月末にお知らせいたします)――」


 最初の『責務』とやらはとある公園に行き担当係と待ち合わせすることから始まる。指定された公園に行くとそこには疲れ果てた人たちが群を成していた。やがて到着した担当係は、とても運転手とは思えないアンドロイドを両脇に従えた強面の男性。追い立てられるようにバスに押し込まれ向かった先はゴミ処理場だった。

 一日十時間。アンドロイドでは不可能な細かい分別の仕事を宛がわれた俺は処理場でみっちり働き、へとへとになって公園に戻される。手渡されたのは三千円。例の七千なんぼかはセッセンが債務として持って行く。これが彼ら言うところの「生活を現状で留め、債務を完済する我々のシステム」だった。


 翌日も翌日もメールは来た。休みは七日で一日。法律違反だと騒ぐ連中もいたが、その都度係が「よく話し合って」解決した。

 そんな生活が一年過ぎ、二年過ぎたが、延滞料と利子で膨れ上った債務はやっと半分返済。このままではもう持たない、逃げよう。そう思った矢先。あの男がやって来た。


 メールで指示された公園。指定の時間にやって来たのはセッセンの係ではなく一人の男。

「皆さん。私は紺拓斗こんたくと、と言う者です」

 男は穏やかに話し続ける。

「お集まりの皆さんがセッセンのスーパーサポート会員と言う名の奴隷なのはよーく存知上げております」

 ストレートな物言いに誰もが息を呑んだ。

「よろしいですか?私は皆さんを助けに来ました。セッセンの手から逃れ、いつかセッセンに復讐したいとは思いませんか?」




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