第九話 新章開幕! 謎の転校生と新たな試練!
属性対抗戦から二週間が経った。
学園は平穏な日常に戻り、俺たちは通常の授業と訓練に励んでいた。
「おはよう、烈!」
「よう、陽太」
朝の教室で、いつものように陽太が元気よく挨拶してくる。
「最近、烈って有名人だよな。廊下歩くだけで注目されてるし」
「やめてくれよ。恥ずかしいだろ」
確かに、優勝してから学園中の視線を感じる。『紅蓮の英雄』なんて呼ばれるようになって、正直居心地が悪い。
「まあ、それだけお前が活躍したってことだ。誇っていいぜ」
「そうかな...」
その時、教室の扉が開いた。
紗羅先生が入ってくる。だが、今日はいつもと様子が違う。
「全員、席に着け。重要な話がある」
紗羅先生の真剣な表情に、教室がざわついた。
「今日から、この炎属性クラスに転校生が加わる」
「転校生?」
「この時期に?」
生徒たちが驚きの声を上げる。
「彼は特別な事情があって、この学園に編入することになった。紹介するぞ」
紗羅先生が扉の方を見る。
「入ってきなさい」
扉が開き、一人の少年が入ってきた。
黒い髪、鋭い金色の瞳。全身から、ただならぬ雰囲気が漂っている。
そして何より――その魔力の量が尋常じゃない。
「紹介する。彼は黒炎レオン。今日からお前たちの仲間だ」
「黒炎...?」
俺はその名前に聞き覚えがあった。
黒炎家――それは、炎属性の中でも伝説的な一族。数百年前、魔物の大軍を一人で撃退したと言われる『黒炎の魔王』の末裔だ。
「よろしく」
レオンは無表情に一言だけ告げた。その声は冷たく、感情が感じられない。
「黒炎レオン、お前の席は...火乃丸の隣だ」
「...了解」
レオンは俺の隣の空席に座った。
「おい、よろしくな。俺は火乃丸烈だ」
俺が手を差し伸べるが、レオンはそれを無視した。
「......」
何も言わず、窓の外を見ている。
「あ、ああ...」
なんだこいつ。感じ悪いな。
「烈、大丈夫か?」
陽太が心配そうに声をかけてくる。
「ああ...でも、なんか変な奴だな」
「まあ、転校生だし、緊張してるのかもな」
だといいんだけど...
---
昼休み。
俺は涼音と一緒に学食で昼食を取っていた。
「ねえ烈、転校生のこと聞いたわよ」
「ああ。黒炎レオンっていう、変な奴だ」
「変な奴って...」
「だって、話しかけても無視するし、ずっと無表情なんだぞ」
涼音は少し考えてから口を開いた。
「もしかしたら、何か事情があるのかもしれないわよ」
「事情?」
「黒炎家は名門だけど、最近は没落していると聞いたわ。何か問題を抱えているのかも」
「そうなのか...」
俺が考え込んでいると、食堂の入口が騒がしくなった。
「おい、見ろよ!」
「転校生だ!」
レオンが、一人で食堂に入ってきた。
周囲の視線が集中する。だが、レオンは気にする様子もなく、席に座って食事を始めた。
「一人か...」
俺は席を立った。
「烈、どこ行くの?」
「ちょっと、話してくる」
俺はレオンのテーブルに近づいた。
「よう、レオン。一人で食ってるのか?」
「......」
レオンは俺を一瞥しただけで、何も言わなかった。
「なあ、良かったら俺たちと一緒に食わないか? 友達も紹介するし――」
「必要ない」
レオンが初めて口を開いた。
「え?」
「友達は必要ない。俺は一人でいい」
その言葉は冷たく、拒絶的だった。
「でも...」
「お前は『紅蓮の英雄』とか呼ばれてるらしいな」
レオンが俺を見た。その目は、何かを値踏みするような目だった。
「属性対抗戦で活躍したとか。だが、所詮は学園内の小さな戦いだ」
「何だと...?」
「お前の炎は、まだ甘い。本当の戦いを知らない」
レオンの言葉に、俺はカチンときた。
「お前、何様のつもりだ」
「事実を言っただけだ」
レオンは立ち上がった。
「俺に構うな。お前たちと馴れ合う気はない」
そう言い残して、レオンは食堂を出て行った。
「...何なんだよ、あいつ」
俺は拳を握りしめた。
腹が立つ。確かに、俺はまだ未熟かもしれない。
だが、仲間を否定されるのは我慢ならない。
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午後の実技訓練。
今日の課題は、魔法の精度訓練だった。
「では、一人ずつ的を狙って魔法を放て。中心に近いほど高得点だ」
紗羅先生の指示で、俺たちは順番に魔法を放った。
陽太は8点。
紅は10点満点。
咲は7点。
燼は10点満点。
そして、俺の番が来た。
「火乃丸、やれ」
「はい! 紅蓮弾!」
俺の火球は的に命中した。9点。
「よし、合格だ」
まあまあだな。以前に比べれば、かなり制御できるようになった。
「次、黒炎」
「......」
レオンが前に出た。
彼は杖も持たず、手をかざしただけだった。
「黒炎弾」
レオンの手のひらから、黒い炎の球が放たれた。
それは、的の中心を正確に貫いた。
10点満点。
だが、問題はそれだけではなかった。
的が、完全に消滅していた。
「な...!?」
「的が消えた...?」
生徒たちがざわつく。
「黒炎...」
紗羅先生も驚きの表情を浮かべている。
「これは...黒炎の魔法か」
「黒炎って?」
俺が尋ねると、紅が説明してくれた。
「通常の炎よりも遥かに高温で、対象を完全に消滅させる。黒炎家だけが使える、特殊な炎魔法だ」
「そんなものが...」
レオンは何も言わず、元の位置に戻った。
その背中を見て、俺は改めて思った。
こいつは、強い。
俺とは次元が違う強さを持っている。
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放課後。
俺は一人、訓練場で特訓をしていた。
レオンの黒炎が頭から離れない。
あの圧倒的な力。
俺の炎とは、何が違うんだ?
「まだ訓練してるのか」
背後から声がした。振り返ると、レオンが立っていた。
「レオン...」
「お前、悔しいのか」
「...ああ。お前の炎を見て、俺はまだまだだって思い知らされた」
俺は正直に答えた。
「だから、強くなりたい」
レオンは少しだけ、表情を変えた。
「...お前は、何のために強くなりたい?」
「何のため?」
「力を求める理由だ。名声か? 地位か? それとも――」
「仲間を守るためだ」
俺は即答した。
「俺には、大切な仲間がいる。そいつらを守れる強さが欲しい。それだけだ」
レオンは黙って、俺を見つめた。
「...そうか」
それだけ言って、レオンは去ろうとした。
「待ってくれ、レオン!」
「何だ」
「お前は、何のために強いんだ? 何のために、そんな力を持ってるんだ?」
レオンは足を止めた。
しばらく沈黙が続いた後、彼は小さく呟いた。
「...俺には、もう守るものがない」
「え?」
「だから、強さに意味はない。ただ、持っているだけだ」
その言葉には、深い悲しみが込められていた。
「レオン...」
「お前の炎は、仲間への想いで燃えている。だから、熱い」
レオンは振り返らずに言った。
「俺の炎は、冷たい。何も燃やすものがないから」
そう言って、レオンは訓練場を去っていった。
俺は、彼の背中を見送ることしかできなかった。
守るものがない――
それは、どれほど辛いことなんだろう。
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その夜、寮の部屋で、俺は考えていた。
レオンのこと。
彼の強さと、彼の孤独。
「烈、寝ないのか?」
同室の陽太が声をかけてきた。
「ああ...ちょっと考え事してて」
「転校生のことか?」
「...分かるか」
「まあな。お前、分かりやすいし」
陽太は笑って、俺の隣に座った。
「あいつ、何か抱えてるんだろうな」
「ああ...」
「なら、お前がどうにかするんだろ?」
「え?」
「お前って、そういう奴じゃん。困ってる奴を放っておけない」
陽太の言葉に、俺は苦笑いした。
「そうかもな」
「だったら、いつも通りにすればいいさ。お前の熱血で、あいつの心も溶かしてやれよ」
「...ありがとな、陽太」
「礼はいらねえよ。俺たち、友達だろ?」
俺は頷いた。
そうだ。俺には仲間がいる。
だから、レオンにも仲間の大切さを教えてやりたい。
彼の冷たい炎を、温かい炎に変えてやりたい。
それが、俺のやるべきことだ。
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翌日。
俺は決意を胸に、レオンに近づいた。
「レオン!」
「...何だ」
「俺と、勝負しろ!」
レオンの目が、わずかに見開いた。
「勝負?」
「ああ。俺の炎と、お前の炎、どっちが強いか決めよう」
「...無駄だ。お前では俺に勝てない」
「それは、やってみなきゃ分からない!」
俺の言葉に、レオンは少し考えた後、頷いた。
「...いいだろう。受けて立つ」
こうして、俺とレオンの勝負が決まった。
彼の心を開くために。
彼に仲間の大切さを教えるために。
俺は、全力でぶつかる!




