第四話 試練! 炎の塔・最初の実技試験!
入学から二週間が経った。
毎日の授業と特訓で、俺の魔力制御は少しずつ改善されていた。完璧とは言えないが、以前のように常に暴発することはなくなった。
「おはよう、烈!」
「よう、陽太」
朝から陽太が元気よく話しかけてくる。彼とはすっかり仲良くなった。
「今日、ついにあれだよな」
「ああ...」
俺は緊張した面持ちで頷いた。
今日は、炎属性専門の最初の実技試験がある。
「実技試験の内容、聞いたか?」
「いや、まだだ。紗羅先生、何も教えてくれなくて」
「だよな。俺も知らねえんだ」
二人で話していると、教室に紅が入ってきた。
「おはよう、紅ちゃん!」
「...おはよう」
紅は相変わらず、そっけない態度だ。だが、以前よりは少し柔らかくなった気がする。
「紅、実技試験のこと、何か知ってるか?」
俺が尋ねると、紅は少し考えてから口を開いた。
「焔院家に伝わる情報によれば、毎年内容は変わるらしい。だが、共通しているのは『炎の制御力』と『戦闘能力』を試されるということだ」
「なるほど...」
「貴様は制御力に難があるからな。不安か?」
紅の言葉に、俺は首を横に振った。
「不安じゃないと言えば嘘になる。でも、俺は全力でやるだけだ」
「ふん。その意気や良し」
紅は小さく微笑んだ。彼女が笑うのは珍しい。
「あ、あの! 火乃丸くん!」
咲が慌てた様子で駆け寄ってきた。
「どうした、咲?」
「わ、私、すっごく緊張してて...もし試験に落ちたらどうしようって...」
咲の目には涙が浮かんでいる。
「大丈夫だって。咲は頑張ってるじゃないか」
「で、でも...」
「それに、俺たちがいるだろ? 一緒に頑張ろうぜ」
俺がそう言うと、咲の顔がぱあっと明るくなった。
「うん! 頑張る!」
「......」
教室の隅では、燼が相変わらず本を読んでいる。彼は試験のことなど気にしていない様子だ。
そんな彼を見て、俺は少し羨ましく思った。あんな風に、余裕を持てたらいいのに。
「全員、揃ったな」
教室の扉が開き、紗羅先生が入ってきた。
「今日は実技試験だ。全員、準備はいいか?」
「はい!」
俺たちは一斉に答えた。
「よし。では、これから試験内容を説明する」
紗羅先生は、教卓の上に一枚の地図を広げた。
「今回の試験は『迷宮探索』だ」
「迷宮!?」
陽太が驚きの声を上げる。
「そうだ。学園の地下には、訓練用の魔法迷宮がある。お前たちには、その迷宮を探索し、最深部にある『炎の宝珠』を持ち帰ってもらう」
紗羅先生は、地図の最深部を指さした。
「ただし、迷宮内には魔法で作られた魔物が徘徊している。それらを倒しながら進まなければならない」
「魔物...」
咲が不安そうに呟く。
「安心しろ。訓練用だから、致命傷を負うことはない。ただし、倒されたら即失格だ」
「先生、質問!」
陽太が手を上げた。
「何だ?」
「これって、個人戦ですか? それともチーム戦ですか?」
「個人戦だ。各自、単独で迷宮を探索する」
「マジか...」
陽太の表情が引き締まる。
「制限時間は二時間。それまでに宝珠を持ち帰れなかった者は不合格だ。では、準備して迷宮入口に集合しろ」
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迷宮入口。
巨大な石の扉の前に、俺たち五人が並んでいた。
「では、一人ずつ入っていけ。最初は...火乃丸、お前からだ」
「え、俺からですか」
「問題あるか?」
「いえ、ありません」
俺は深呼吸をして、石の扉に手をかけた。
「火乃丸!」
背後から陽太の声がした。
「頑張れよ!」
「ああ、お前もな」
俺は扉を開け、迷宮の中へと足を踏み入れた。
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迷宮内部は、松明の明かりだけが頼りの薄暗い空間だった。
石造りの廊下が複雑に入り組んでおり、まさに迷宮という名にふさわしい。
「さて、どっちに進めばいいんだ?」
俺は地図を確認した。だが、地図には大まかな構造しか描かれていない。詳細なルートは自分で見つけなければならないようだ。
「とりあえず、直感で行くか」
俺は右の通路を選び、歩き始めた。
しばらく歩くと、前方から低い唸り声が聞こえてきた。
「...来たか」
俺は構えを取る。
暗闇の中から現れたのは、炎を纏った狼の魔物だった。体長は二メートルほど。鋭い牙と爪を持っている。
「フレイムウルフか。訓練用とはいえ、油断はできねえな」
フレイムウルフは俺を見つけると、すぐさま飛びかかってきた。
速い!
俺は横に飛んで回避する。フレイムウルフの爪が、俺がいた場所の壁を引き裂いた。
「俺の番だ! 紅蓮弾!」
手のひらから火球を放つ。だが、フレイムウルフは俊敏に避けた。
「ちっ、当たらねえ」
フレイムウルフは再び飛びかかってくる。
このままじゃ、一方的にやられる――
その時、紗羅先生の言葉を思い出した。
『炎魔法は感情に左右される。だからこそ、心を落ち着けることが重要だ』
そうだ。焦るな。落ち着け。
俺は深呼吸をして、フレイムウルフの動きをよく観察した。
跳躍の瞬間、一瞬だけ動きが止まる。そのタイミングを狙えば――
「今だ! 紅蓮弾!」
小さく制御された火球が、フレイムウルフの頭部を直撃した。
「グオオオン!」
フレイムウルフは倒れ、光となって消えた。
「やった...!」
初めて、実戦で制御された魔法が成功した。
紗羅先生の特訓の成果だ。
「よし、このまま進むぞ!」
俺は奥へと進んでいった。
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その後、いくつかの魔物と遭遇したが、なんとか撃退しながら進んだ。
そして、ついに最深部の扉が見えてきた。
「あれが...」
扉には炎の紋章が刻まれている。間違いない、あの奥に宝珠があるはずだ。
俺は扉を開けた。
その先には、広い円形の部屋があった。
中央には、赤く輝く宝珠が台座の上に置かれている。
「よし、あれを取れば――」
その瞬間、部屋の奥から巨大な影が現れた。
「グルルルルル...」
それは、先ほどのフレイムウルフの倍以上の大きさを持つ、炎の魔物だった。
全身が炎に包まれ、その目は真紅に輝いている。
「ボス...ってやつか」
俺は構えを取る。
こいつを倒さなければ、宝珠は手に入らない。
「上等だ。やってやる!」
炎の魔物が咆哮を上げた。その咆哮だけで、部屋中の温度が急上昇する。
「うおおおッ! 紅蓮弾連射!」
俺は連続で火球を放つ。だが、魔物は炎を纏っているため、火球をすべて吸収してしまった。
「炎属性には炎攻撃が効かないのか!」
これは厄介だ。
魔物は巨大な炎の球を生成し、俺に向かって放った。
「やべえ!」
俺は横に転がって回避する。炎の球は壁に激突し、大爆発を起こした。
まともに食らったら、即失格だ。
「どうする...炎が効かないなら...」
その時、俺は気づいた。
炎が効かないなら、物理攻撃だ!
「そうだ...あの時みたいに!」
俺はヴィクターとの決闘を思い出した。最後に決めたのは、魔法じゃない。拳だ。
「よし、行くぞ!」
俺は魔物に向かって走った。
魔物は再び炎の球を放つ。俺はギリギリで避けながら、距離を詰める。
「もらったああああッ!」
俺は跳躍し、拳に魔力を集中させた。
魔法として放出するんじゃない。拳に纏わせるんだ!
「炎拳!」
炎を纏った拳が、魔物の顔面に叩き込まれた。
「グオオオオオン!」
魔物は後方に吹き飛び、壁に激突した。
そして、光となって消えた。
「はあ...はあ...やった...」
俺は膝をつきながらも、笑顔を浮かべた。
勝った。
俺は台座に近づき、炎の宝珠を手に取った。
その瞬間、宝珠が光り輝き、俺の体が温かくなった。
これが、試験の証明か。
「よし、戻るぞ!」
俺は来た道を引き返し、迷宮の出口へと向かった。
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迷宮の外に出ると、紗羅先生が待っていた。
「お疲れ様。時間は...一時間十五分。合格だ」
「やった!」
俺はガッツポーズをする。
「よくやったな、火乃丸。最後のボス、どうやって倒した?」
「拳です。炎を拳に纏わせて、殴りました」
「炎拳か。なかなか良い判断だ」
紗羅先生は満足そうに頷いた。
その後、陽太、紅、燼、咲も次々と出てきた。
全員、無事に合格したようだ。
「お疲れ、烈!」
「陽太も無事だったか」
「当然だろ! 俺を誰だと思ってんだ!」
陽太は元気いっぱいだ。
「貴様、意外とやるな」
紅も、珍しく俺を褒めてくれた。
「ありがとな」
「わああ! 私も合格したよお!」
咲は涙を流しながら喜んでいる。
「......」
燼は相変わらず無表情だが、小さく頷いた。
「全員合格、おめでとう」
紗羅先生が、俺たちを見て微笑んだ。
「これから、もっと厳しい訓練が待っている。だが、お前たちなら乗り越えられるだろう」
「はい!」
俺たちは声を揃えて答えた。
最初の試練を乗り越えた。
これから、もっともっと強くなっていく。
仲間たちと共に!




