第二話 決闘! 炎vs風! 平民の誇りをかけた戦い!
入学式は粛々と進行した。
学園長の長い挨拶、新入生代表の宣誓、そして各属性の棟への振り分け。俺は当然、炎属性の「紅の塔」に配属された。
だが、俺の頭の中は入学式のことなど上の空だった。
脳裏にあるのは、これから始まる決闘のことばかり。
「ねえ、烈。本当にやるつもり?」
式が終わり、訓練場へ向かう途中、涼音が心配そうに尋ねてきた。
「当たり前だろ。男の約束だ」
「でも、相手は名門貴族のヴィクター・フォン・ブルーメンタール。風属性の魔法使いで、入学前から既に中級魔法を使えるって噂よ。それに比べてあなたは...」
「魔力制御が苦手で、暴発ばかりの落ちこぼれ、だろ?」
俺は自嘲気味に笑った。涼音の言うことはすべて事実だ。
俺の魔法は強力だが、制御が効かない。感情が高ぶると勝手に発動するし、威力の調整もできない。まさに諸刃の剣。
だが――
「それでも、やるんだ。お前を馬鹿にされて黙ってられるか」
「烈...」
涼音が何か言いかけたとき、訓練場が見えてきた。
広大な円形闘技場で、既に大勢の新入生が集まっている。噂は早いものだ。
「おお、来たぞ!」
「平民vs貴族の決闘だって!」
「あの赤毛、度胸あるな」
ざわめきの中、俺たちは訓練場の中央へと進んだ。
そこには既に、ヴィクターが待っていた。
「来たか、平民。逃げなかったことは褒めてやろう」
「逃げるわけねえだろ。さあ、始めようぜ」
俺が拳を構えると、周囲からどよめきが起こった。
「決闘なのに杖を持ってない?」
「まさか、直接魔法を?」
そう、俺は杖を使わない。いや、使えないのだ。杖を媒介にすると魔力の流れがさらに不安定になる。だから俺は、常に素手で魔法を放つ。
「杖も持たずに決闘とは...愚か者め」
ヴィクターが杖を構えた。黒檀の杖に風の紋章が刻まれている。明らかに高級品だ。
「では、審判を務めさせてもらうぞ」
声がして、一人の男性教師が現れた。三十代くらいだろうか。鋭い眼光を持つ、厳格そうな人物だ。
「私は戦闘魔法の教師、ガルドス・ストーンハート。ルールを説明する。相手を戦闘不能にするか、降参させるか、場外に出すかで勝負は決する。ただし、致命傷を与える攻撃は禁止だ。よいな?」
「はい」
「承知した」
俺とヴィクターが頷く。
「では――始め!」
ガルドス教師の合図と同時に、ヴィクターが杖を振るった。
「風刃乱舞!」
複数の風の刃が、鋭い音を立てて俺に迫る。速い!
俺は咄嗟に横に飛び、回避する。風刃は俺がいた場所の地面を切り裂いた。
「避けるだけか? それとも、攻撃魔法も使えないのか?」
ヴィクターの嘲笑が響く。
くそ、挑発に乗るな。落ち着け、落ち着くんだ――
「紅蓮弾!」
俺は手のひらから火球を放った。だが、魔力制御が甘い。火球は巨大化し、軌道も定まらない。
「その程度か」
ヴィクターは風の壁で簡単に防いでしまった。
「次は――疾風障壁解除。風神の槍!」
杖の先端から、圧縮された風の槍が放たれる。その速度は先ほどの比ではない。
避けられない――!
咄嗟に、俺は両手を前に突き出した。
「燃えろおおおッ!」
感情任せに魔力を解放する。俺の全身から炎が吹き出し、風の槍を相殺した。だが、制御できていない魔力は暴走し、訓練場の地面を焦がしていく。
「はあ...はあ...」
魔力を使いすぎた。もう息が上がっている。
「やはり、制御できていないな。そんな魔法では、私には勝てん」
ヴィクターは余裕の表情で、次の魔法を詠唱し始めた。
「来たれ、天空の支配者よ。風よ、嵐よ、我が敵を打ち砕け――疾風神の雷鳴!」
上級魔法だと!?
巨大な風の渦が発生し、その中に雷が走る。これを受けたら、確実に戦闘不能だ。
「烈! 危ない!」
涼音の叫びが聞こえる。
だが、俺にはもう回避する体力も、防御する魔力も残っていない。
終わりか――?
いや、まだだ。
まだ、俺には諦めない心がある!
「涼音! みんな! 見ててくれ!」
俺は最後の力を振り絞って、叫んだ。
「俺は...俺は、炎属性の魔法使いだ! 魔力制御なんてできなくても、俺には情熱がある! この燃える心があるんだ!」
その瞬間、俺の体が熱くなった。
いや、熱いなんてものじゃない。まるで体の内側から炎が噴き出すような感覚。
これは――覚醒?
「燃え尽きろおおおおおッ! 紅蓮爆炎!」
俺の体から、巨大な炎の柱が立ち上った。
それはヴィクターの疾風神の雷鳴と正面からぶつかり合う。
風と炎。
雷と熱。
二つの魔法がせめぎ合い、訓練場全体が眩い光に包まれた。
そして――
爆発。
「うわああああッ!」
衝撃で、俺とヴィクターは同時に吹き飛ばされた。
俺は背中から地面に叩きつけられ、意識が遠のきかけた。
だが、ギリギリのところで踏みとどまる。
周囲を見回すと、ヴィクターも倒れていた。彼も立ち上がろうとしているが、膝が震えている。
互角――いや、もしかしたら。
「立て、立つんだ...!」
俺は歯を食いしばって立ち上がった。全身が痛い。魔力も底を尽きかけている。
だが、諦めない。
「まだ...終わってねえ...!」
一歩、また一歩と、ヴィクターに向かって歩く。
「ば、馬鹿な...平民のくせに...」
ヴィクターが驚愕の表情で俺を見ている。
「貴族も平民も関係ねえ。俺は...俺の仲間を守るために...戦ってるんだ!」
最後の力を振り絞って、俺は拳を振り上げた。
もう魔法は使えない。だから、この拳で――
「うおおおおおッ!」
俺の拳が、ヴィクターの顎を捉えた。
魔法なしの、ただのパンチ。
だが、それで十分だった。
ヴィクターは目を白黒させて、その場に倒れた。
「勝負あり! 勝者、火乃丸烈!」
ガルドス教師の宣言が響いた瞬間、訓練場全体が静まり返った。
そして次の瞬間――
「うおおおおおッ!」
「平民が貴族に勝った!」
「すげえ! あの炎、見たか!?」
大歓声が巻き起こった。
俺は力尽き、その場に膝をついた。
「烈!」
涼音が駆け寄ってきて、俺を支えてくれた。
「見たか、涼音...俺、勝ったぜ...」
「うん...見てたわよ、馬鹿」
涼音の目が潤んでいる。
「ありがとな...」
そう呟いて、俺の意識は暗転した。
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目が覚めたとき、俺は保健室のベッドに寝かされていた。
「気がついたか」
横を見ると、ガルドス教師が立っていた。
「あ、はい...決闘は?」
「お前の勝ちだ。よくやった」
「そうですか...」
安堵のため息をつく。
「だが、火乃丸烈」
ガルドス教師の表情が真剣になった。
「お前の魔法は、確かに強力だ。だが、制御できなければ、いずれ自分を滅ぼすことになる」
「...はい」
「この学園で、しっかりと学べ。お前には、才能がある」
才能――そんなものが、俺にあるのだろうか。
「それと、もう一つ」
ガルドス教師が扉の方を指さした。
「お前を待っている者たちがいる」
扉が開くと、涼音をはじめ、何人もの新入生が顔を覗かせていた。
「烈! 大丈夫!?」
「すげえ戦いだったぜ!」
「友達になってくれよ!」
みんなの笑顔を見て、俺も笑顔になった。
そうだ。俺は一人じゃない。
仲間がいる。
だから、俺は強くなれる。
こうして、俺の魔法学園生活は、熱い一歩を踏み出したのだった。




