第一話 炎上する入学式
「おおおおおッ! 燃えてきたああああッ!」
俺――火乃丸烈は、魔法学園アカデミア・アルカナムの正門を前に、拳を天に突き上げた。
十六歳の春。ついに俺も、この国最高峰の魔法学園に入学する日がやってきたのだ!
「静かにしなさいよ、火乃丸くん。みんな見てるわよ」
隣で呆れた声を出したのは、幼馴染の水瀬涼音だ。彼女は水属性の魔法使いで、いつもクールで落ち着いている。その青い髪を風になびかせながら、俺を冷たい目で見ている。
「何言ってんだ、涼音! 入学式ってのは気合を入れていくもんだろ! 俺はこの学園で、誰よりも強くなってみせる!」
「はいはい。いつもの『熱血バカ』ね」
涼音は小さくため息をついた。だが、その表情はどこか優しい。俺たちは物心ついたときからの付き合いで、彼女は俺の性格をよく知っているのだ。
正門をくぐると、眼前に広がったのは、まるで宮殿のような壮麗な校舎だった。高い塔が四本そびえ立ち、それぞれが火・水・風・地の四大属性を象徴している。中央の大講堂は、おそらく数千人は収容できるだろう。
「すげえ...」
思わず呟く俺の横で、涼音が淡々と言った。
「この学園には、全国から選ばれた魔法使いの卵が集まるのよ。貴族の子弟も多いし、あなたみたいな平民出身者は少数派。あまり目立たない方がいいわよ」
「目立たないだと? 冗談じゃねえ! 俺は目立ってナンボだ!」
そう叫んだ瞬間、俺の手のひらから炎が噴き出した。情熱が高まると、つい魔力が暴発してしまうのだ。これが俺の悪い癖である。
「きゃあっ!」
近くを歩いていた女子生徒が悲鳴を上げた。
「すみません! 大丈夫ですか?」
慌てて炎を消そうとするが、興奮しているとうまく制御できない。炎はむしろ大きくなっていく。
「もう、しょうがないわね」
涼音が手をかざすと、水の球体が現れ、俺の炎を一瞬で消し去った。
「ありがとう、涼音。助かった」
「全く...入学初日からこれじゃ、先が思いやられるわ」
だが、トラブルはこれで終わらなかった。
「おい、そこの赤毛! 今、誰に炎を向けたと思っている?」
振り返ると、そこには金髪に青い瞳を持つ、典型的な貴族風の少年が立っていた。その横には、先ほど悲鳴を上げた女子生徒がいる。
「えっと...偶然暴発しちゃっただけで...」
「偶然だと? 我が婚約者であるアリシア嬢に炎を向けておいて、偶然で済むと思っているのか?」
少年――彼の名札には「ヴィクター・フォン・ブルーメンタール」と書かれていた――は、高圧的な態度で俺を睨みつけた。
「悪かったって。謝るから」
「謝罪では済まない。我が名誉を傷つけた罪、決闘で償ってもらおう」
決闘? 入学初日に?
「ちょっと待って。火乃丸くんに悪気はなかったの。それに、まだ入学式も終わってないのに決闘なんて」
涼音が割って入るが、ヴィクターは聞く耳を持たなかった。
「黙れ、平民。貴族の矜持を理解できぬ者に口を挟む資格はない」
その言葉に、俺の中で何かが弾けた。
魔力制御が苦手だとか、すぐに暴発するとか、そういう欠点があるのは事実だ。だが、仲間を馬鹿にされるのは我慢ならない。
「おい、ヴィクターとかいう貴族様よ」
俺は一歩前に出た。
「涼音を侮辱するのはやめろ。それと、決闘の申し込み、受けてやるよ」
「烈! あなた、正気?」
涼音が驚いた声を上げる。だが、俺の決意は固かった。
「いいぜ、やってやる。ただし条件がある。俺が勝ったら、二度と平民を見下すような発言はするな」
ヴィクターの口角が冷笑的に上がった。
「面白い。では、入学式後、訓練場で決着をつけよう。逃げるなよ、平民」
そう言い残して、ヴィクターは去っていった。
「烈...あなた、本当にバカね」
涼音が頭を抱えている。
「でも、仕方ないだろ。お前を侮辱されて黙ってられるか」
「...もう。あなたって、本当に」
涼音は何か言いかけて、やめた。その頬が少し赤くなっているのは、気のせいだろうか。
こうして俺の魔法学園生活は、入学初日から波乱の幕開けとなった。
だが、後悔はしていない。
なぜなら、俺は熱血漢だからだ!
情熱と炎魔法で、この学園を駆け上がってやる!
「さあ、行くぜ涼音! 入学式だ!」
「もう、せめて入学式くらいは大人しくしてよね...」
俺たちは大講堂へと向かった。
これが、のちに「紅蓮の英雄」と呼ばれる俺の物語の、始まりである――。




