第9話 エスコート
――あと30分で九条くんが来る。
現実逃避をしていた私は、時計を見てそのことに気がついた。
昨日、私の前でひざまずいた九条くんが脳裏にちらつく。
私はその反省を生かして、今日はロングブーツを履くことにした。
それに合わせたコーデ。大好きなクリスマスにおしゃれをしないわけにはいかない。
クローゼットから白いニットとグレーのプリーツのミニスカが引っ張り出す。緑のコートにいつも使っているお気に入りの黒いバック。赤いリボンのピアスをつけた私はすっかりクリスマス気分。
14時半まであと5分。
パックまでした顔にメイクをして、準備はばっちり。そこでようやく冷静になった私は、昨日のことを思い出した。
思わず携帯の前で正座をして待つ。
「着いたよ!」
急いで家の下まで降りると、手をひらひらと振る九条くんはさわやかスマイルである。
「お姫様、パーティーへ行きましょう」
眩しすぎるその笑顔に、私は頷くしかなかった。
彼は私をお姫様と呼ぶだけではなく、本当にお姫様扱いをしてくれた。
エスカレーターに乗る時、電車に乗る時、降りる時。必ず手を差し出してくれる。
私が一瞬でも躊躇ためらえば、そっと握られる手。あまりにも自然にエスコートしてくれる九条くんに、私の反応が自意識過剰なんじゃないかと錯覚するほどだった。
最寄り駅に着くまでの私はというと「そうだね」「そうなんだ」の2つでなんとか乗り切った。
昨日は本当にお酒の力を借りただけだったんだと思い知る。
御成門駅に着いて改札を出る。
「藤原さん、こっち」
なぜか私のコートの袖をツンツン引っ張る九条くん。
「リサーチしてきたから任せてよ」
そう言ってさりげなくつながられた手。
今の今までエスコートしてくれることはあっても、つながれることはなかった手。突然の展開につい足が止まってしまった。
「どうしたの?」
「い、いや、その、手……」
「手?」
「なんで……」
「だって藤原さんおひとりさまなんでしょ?俺にもチャンスあるよね」
「え、や、急に?」
「急じゃないよ。ずっと狙ってた」
狙ってたって言った?何を?手を繋ぐことを?それとも……私!?まさか。
「ほら、クリスマスに遅れちゃうよ」
そう言って私を引っ張る九条くんの手を、振り払うことなんてできなかった。
――この時既に、九条くんの作戦は始まっていた。




