第7話 眠れない夜
――どうやって帰ってきたんだっけ?
私は玄関の壁に座り寄りかかって、眠ってしまっていたようだ。
今何時だろうか。そう思い携帯を見るともう深夜1時半。
そして新着メッセージが1件。
「無事帰れた?藤原さんの家に14時に迎えに行くからね。おやすみなさい」
1時間前に来ていたメッセージが私を現実へと引き戻した。
「連絡先、変わってないよね?」
少し酔いが覚めて冷静になると、思い出してまた恥ずかしくなってきた。
「ありがとう。おやすみなさい」
それだけ返事を打って、携帯をベッドに投げる。
ピアスを外してメイクを落とし、服を脱ぎ散らかしてお風呂に入る。
シャワーが冷えた体を温め、その水の音しか聞こえないお風呂場で頭の中にこだまする言葉。
「俺は姫奈乃様の王子様だよ」
顔がカーッと熱くなる。
中高大と一緒だったけど、そういう雰囲気になったことはない。
なぜなら彼がずーっとモテていたからだ。優しいイケメンに惚れなかったのは、彼が高嶺の花でそんな妄想もできないくらい隙がないから。
むしろ普通に会話できていたことの方が不思議だ。
あまりにも雲の上すぎる存在に、恋愛対象として見たことがなかった。
それなのに、私をときめかせる言葉で刺してきた。明日、2人でマーケットへ一緒に行く?これは現実だろうか?
髪と体を拭いてお風呂を出る。洗面所がないのでダイニングでパジャマを着た。
パックしてベッドに座り携帯を見つめる。
―― Haru
アイコンは、夜のタイムズスクエアと思われる場所に、モデルのように立つ九条くん。
背景は私の好きなフランス映画に出てくる、カフェの画像。
最後に連絡したのは大学の卒業式の日。
せっかくだからと撮ってもらった2ショット写真が、送られてきた。そして「またね」の文字。
当時のアイコンや背景まで覚えていないけど、これではなかった気がする。
――ピコンっ。
「おやすみ」という猫のスタンプが届く。画面を開いていたので既読になってしまった。
私も慌ててスタンプを返す。
携帯に充電器をさして、パックを取り乳液をつける。さっさと寝ようとパパパッと準備を終わらせ、布団に潜り込んだ。
それなのに、頭の中で繰り返される九条くんの声にドキドキして、眠気のねの字も飛んでいった。
――「口説いてもいい?」
突然思い出したその一言に私はキュン死した。




