第6話 シンデレラ
私たちはラストオーダーを聞かれて、もうそんな時間かとお会計へ。
あっという間だったお酒の席。
「ここは払わせてよ」
そう言って私のかばんに手を当て、お財布を出させない紳士。さらっとお会計を済まる九条くんに申し訳ないなと思い、お店の外でお札を出す私。
「これで足りる?」
「いいっていいって。それより藤原さん、終電は?」
「あっ、ちょっと待って、調べるね」
お酒が回ってふわふわしている私は、終電のことなんてすっかり頭から抜けていた。うまいことかわされた私は、慌てて携帯で終電を調べる。
「えっと、0時13分かな」
「あと20分か、走る?」
やばいやばいと笑いながら、私たちは暗い道を走る。
しかし、酔っ払いの私の足元はおぼつかない。足音が響くこの暗く静かな空間に2人きり。
私は異常にドキドキしている。走っているからなのか、はたまたお酒のせいか。
コンビニを通り過ぎて駅まであと少し。そこで私は、ちっちゃな段差につまずいてしまった。
転びはしなかったものの、左足のショートブーツが脱げてしまった。8cmのヒールで走ればこうなるのも仕方ない。
「ちょっと待ってね」
九条くんはそう言って私のブーツを拾う。
――そしてひざまずいた。
「シンデレラ、もう魔法がとける時間?」
「九条くんって王子様だったの?」
面白い冗談におもわず笑ってしまった。
小さな頃はお姫様に憧れたこともある。王子様が迎えに来てくれるのか、どこかで運命的に出会うのか。そんな風に期待したこともあった。でもなかなか現れない王子様に、私はそんな夢をすっかり忘れてしまった。
「知らなかった?俺は姫奈乃の王子様だよ」
そう言って靴を履かせてくれる九条くん。私は状況を飲み込むことができず、口をパクパクさせることしかできなかった。
一瞬の沈黙が、急な下の名前呼びを実感させる。恥ずかしさが込み上げた私の顔が熱いのは、お酒のせいだけじゃない。
「あのさ、明日のクリスマスマーケット、一緒に行ってもいい?」
上目遣いで子犬のような顔の九条くんに、こくこくと頷くのが精一杯の私。
「連絡先、変わってないよね?」
――そこから私はどうやって帰ったのか覚えてない。




