第55話 ブランチ
朝目が覚めた時、時計はもう10時を回っていた。
起き上がれば、大きな大きなベッドの上に1人ぼっち。
眠い目を擦りながらリビングを覗けば、その奥のキッチンに晴くんが見えた。
「おはよう。いっぱい寝ちゃってごめんね?」
「おはよう。なんで謝るの?すやすや寝てたよ?」
「でもその……お、お付き合いしたのに寝てばっかりで……」
「いいじゃん。可愛い寝顔見放題でラッキーだったよ?」
「な!あ、いや、うん。その、そういえば何してるの?」
「朝ごはん、というよりはブランチかな」
「ブランチ?」
「朝ごはんとお昼ご飯の間のご飯。サンドウィッチ、食べるでしょ?」
「ありがとう」
「朝はコーヒーでよかった?」
「えっと、甘くしてもらえたら……」
「カフェオレもできるよ?」
「それでお願いします」
そう言うとすぐに綺麗なサンドウィッチと、おしゃれなマグカップに入ったカフェラテが運ばれてくる。
「私も何か手伝うよ」
「いいのいいの。姫奈乃は座ってて、ね?」
すごく優しい口調なのに、目から感じる圧力がハンパない。ので、大人しく座るしかなかった。
「姫奈乃ってさ、年末年始いつまで休み?」
サンドウィッチをもぐもぐ食べていると、今後の話になった。
「もう年末は休みに入ってて、年始は3が日まで」
「実は俺、結構仕事溜まっててさ。30日まで仕事になりそうなんだよね」
確か大手のエンジニアをしている晴くん。クリスマスも予定空けてもらちゃったし、私のために調整してくれたのかもしれない。
「姫奈乃は実家帰ったりしないの?」
「31に泊まって、1日には帰るよ。まあ隣駅だし」
特別実家に帰る理由はないけど、お兄ちゃん夫婦が来るし一応。
「俺も年明けは3日までお休みなんだよね。だからさ、デートに誘ってもいい?」
「え、うん」
「2日デートしてさ、1泊泊まってきなよ」
「あ……うん」
「ダメ?」
「い、いや、全然。予定は空いてるけど」
私がたじろいでるのはデートが理由じゃない。
彼氏として普通のことを言っているのに、甘くて低い声。そしてねちっこい視線が落ち着かないからだ。
そこからは晴くんのことをいろいろ教えてもらった。
どんな仕事をしていて、休みの日は何をしているのか。
好きな食べ物とか好きな音楽は何かとか。小学生の自己紹介のような、たわいもない話をたくさんした。
ブランチを食べ終わって12時を回ろうとした時、まだ仕事があるからといって解散することになった。
「家まで送ってくよ」
「まだ仕事あるんでしょ?自分で帰れるよ」
「え?俺が送った方が嬉しいでしょ?」
「あ、うん……」
「姫奈乃の横顔見ながら運転したいな~」
なんてわざとらしく言うから、うなずくしかなかった。
車を運転する晴くんはとてもかっこいい。私こそこの横顔を見ると、見惚れそうになる。
「姫奈乃ってさ、可愛いよね」
「はい?」
「だからさ、やっぱりこのまま持ち帰ろうかな」
「あ、いや、その……」
「冗談だよ」
余裕の笑みで私をからかい続ける晴くん。彼はこんなにイタズラな人だったっけ。
「2日なんだけどさ、俺ショッピングモールに行きたいんだよね」
「そうなの?全然いいよ」
「ありがとう。じゃあ10時に迎えに来るね」
「わかった。今日も送ってくれてありがとう。よいお年を」
「よいお年を」
私の王子様はさわやかに去って行った。




