第54話 仕返し
私は今、晴くんに抱き着かれたままベッドに転がっている。
「かわいすぎて食べちゃいたいって、こういうことだってわかったわ」
突然の言葉に頭が追いつかない。ただ、晴くんが怒っていないということはわかった。
でもすっかり目が覚めてしまった私の頭は、どうしても申し訳を消すことができない。
「晴くんはさ……そ、そういうことしたいって、思わないの?」
遅れて聞こえてきた言葉。女の子を食べたいという言葉の意味を、私は知っている。
「したいと思うよ」
「じゃ、じゃあ……いいよ」
嫌なわけじゃない。でも男の人と付き合うのが初めてで、キスだって今日初めて知ったばっかりで。
覚悟してきたつもりだったけど、やっぱり少し怖いと思ってしまう。
「姫奈乃が本当にしたいならしたいけどさ、そうじゃないってわかるよ」
「で、でも……」
「初めてのチューもらちゃった喜びだけで、俺頭くらくらしてんだよね」
「え……もしかして、独り言聞こえちゃった?」
「うん。洗面所で頭抱えたわ。そんで姫奈乃の寝顔見ながらさ、その喜びをかみしめてたわけ」
「そ、そっか」
そんなストレートに言われたら、こっちが恥ずかしい。
「お礼に1つ教えてもいい?」
「ん?何?」
「俺の初めてのキス、姫奈乃だから」
……ほんとに?あんな余裕の笑みでさらっとキスしてきたのに、あれが初めてなの?
「その顔、信じてないでしょ。でも普通に考えてみて?中学で一目惚れしお姫様がいるのに、他の人とそんなことすると思う?」
「な……」
「忘れてた?だからさ、ゆっくり行こうよ。俺たちには俺たちのペースがあるんだからさ」
「……うん、ありがとう」
「ほら、まだ暗いし寒いから寝よう。ね?」
そうやって再び布団をかけてくれる。
「お水もそこに置いておくし、何かあったら起こして?」
「うん、おやすみなさい」
「おやすみ姫奈乃」
そう言って向かい合って横になっていると、晴くんはすぐに目を閉じて動かなくなった。
本当に綺麗な顔をしている。パーツが整っているのはもちろん、肌も綺麗。
私は全然眠くなくて、ただひたすら晴くんの寝顔を見つめていた。起きてたらこんなにまじまじと見るなんてできない。
私はあることを思いつく。
――そうだ、仕返ししちゃおう。
起きてる晴くんには敵わないからと、寝ている彼のおでこにそっとキスをした。
「恥ずかしい」
自分でやっておいて、すぐに顔が燃えそうになった。
ちょびっとだけ眠くなってきたことを言い訳に、晴くんに背を向ける。
ありがたいことに目を瞑れば、すぐに睡魔がやってきた。
遠くの方で「マジかよ」と聞こえた気がした。




