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第52話 ベッド


 



 しぶしぶ歯を磨いて戻ると、ソファーの毛布が片付けられていた。



 

「俺も歯磨きしてくるね」



 

 そう言い残されても、私は特にすることがない。


 

 仕方ないので、サイドテーブルに置かれていた自分の携帯を開く。


 検索結果のページを閉じて、SNSをダラダラと眺めた。


 


 少しすると晴くんが戻ってきて、もう寝ようかと声をかけられた。


 


 その瞬間、顔が熱くなり頬を抑える。



 

「姫奈乃が望んでないことは何もしないよ」



 

 ほらと言われながら手を引かれ、寝室に入る。

 


 大きすぎるベッドを見ると、つい目を逸らしたくなった。



 

「は、晴くんはこんなに大きなベッドで寝てるの?その、1人で……」




 時間稼ぎの質問を、無意識にしてしまうぐらいには動揺していた。



 

「そうだよ。姫奈乃以外の人とベッドに入るわけないじゃん」


 

「な!そ、そういう意味じゃ……。落ち着かなさそうだなって」


 

「うん、結構寂しい」


 

「そ、そうだよね。なんでこんな大きなベッドにしたの?」


 

「姫奈乃がいつ来てもいいようにだよ」



 

 冗談なのか本気なのかわからないけど、目を見たら本気っぽいなと思ってしまった。



 

「ほら、おいで」



 

 ベッドの上で隣をポンポンと叩く晴くんだが、体が動かない。



 

「んー、ごめんね」



 

 突然の謝罪と共に手を引っ張られて、ベッドに無理やりのぼらされた。



 

「こうしないと姫奈乃、寝ないでしょ?」



 

 ほら寝るよと横になって、笑う余裕まである晴くん。


 

 しぶしぶ携帯を置いて横になれば、毛布と布団をかけられて、電気が消える。



 

「豆電球つけといてもいい?」


 

「うん……大丈夫」



 

 電気なんて気にする余裕はない。あ、でも恥ずかしいから真っ暗にしてもらった方が良かったかな。


 

 とりあえず晴くんの方を見ることはできないので、反対側を向いて横になる。



 

「ほんとに、姫奈乃はすぐにそっぽむくんだから」


 


 そんなことないと答えるよりも先に、後ろから温もりに包まれた。


 


「ほんと、仕方ない。こうするしかないね」


 


 肩が跳ねて、体が固まる。



 

「何もしないってば、緊張しすぎ」


 

「だ、だって……」



 

 私が言葉に詰まったけど、なぜか晴くんは何も言わなかった。このまま寝るのかな?

 

 そう思った私は甘かった。


 

 

 私から「ヒャ〜ッ」という変な声が漏れた。



 

「な、何を……?」


 

「んー、かわいいなって」


 

 

 突然首筋を指でなぞられたせいで、我慢できずうわずった声が出てしまった。



 

「姫奈乃はほんと、首弱いね」


 

「や、やだ」


 

「何がやだ?」


 

「は、恥ずかしいよ」



 

 んー、と唸りながらも、私に回された手が離れることはない。



 

「じゃあさ、もう何もしないからこっち向いてよ」


 

「……えっと」



 

 晴くんの方を向くなんて、どういう顔をしたらいいのかわからない。


 

 私はうだうだしている間に、肩を引かれて晴くんと目が合ってしまった。


 


「こっち向いてって言ってるんだけど……まだ抵抗するの?」



 

 忘れていた低い声が、私の頭でこだまする。


 

 しぶしぶ私は晴くんの方を向いて小さく丸まった。


 それが最大限の抵抗だった。





 

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