第49話 紅茶
「あーあ。なんか安心したら、あったかいの飲みたくなったわ」
私を抱きしめる力が少し弱くなった。
その隙に、今度はしっかりと気をつけて立ち上がった。
「あったかい紅茶とかどう?あ、カフェインで眠れなくなるタイプ?」
「ううん、大丈夫。私も紅茶いただきます」
晴くんも立ち上がり、そのまま私を置いてキッチンへ行ってしまった。
残ったかすかな温もりに何だか寂しくなって、私も後を追いかけた。
「座ってていいのに」
ポットに茶葉を入れて紅茶の準備をしている。
そういえば前回家にお邪魔した時、すごくおいしい紅茶だと思ったけどティーパックじゃないんだ。
「いつも茶葉から入れてるの?」
寂しかったなんて言えるはずもなく、当たり障りない質問をした。
「姫奈乃は紅茶もコーヒーも好きだよね?」
「え、うん」
確かに朝はカフェラテを、夜は紅茶を飲むのが日課だ。
「いつ姫奈乃が家に来てもいいようにって、張り切っちゃった」
「ん?どういう意味?」
「紅茶は茶葉を買いに行ったし、コーヒー豆も買いに行った。姫奈乃にはおいしいのを飲んで欲しいからね」
私のためにそんなことまでしてくれるの?しかもそんなこと言った記憶はないし、本当にたわいもない話だったはずなのに。
「あと俺が知ってるのは、姫奈乃が飲み物は甘い方が好きってこと。どう?正解?」
「うん、正解。何でわかるの?」
「姫奈乃が言ったんじゃん」
「そんなのいつの話よ」
本当に軽い気持ちで言った言葉ひとつひとつを、晴くんはきっと覚えてくれている。
「お砂糖とミルクは?」
「どっちもお願いします」
「うん、敬語?」
「あ、えっと……お願い?」
なんだか緊張して、無意識に敬語を使ってしまう。
そして言う通り直したのに、なぜか晴くんは頭を抱えて勢いよくしゃがみ込んだ。
「ど、どうしたの?」
びっくりと掃除に心配になって、反射的に私も目の前にしゃがみ込む。
「マジで、そんなに可愛く言わないで……俺の理性が飛んでくわ」
「え?」
今度は急に立ち上がった。そのまま私の手を掴んでテーブルまで引っ張っていく。
「な、ど、どうしたの?」
「はい、もう座って」
「え?なんで?」
わけのわからないまま問答無用で椅子に座らされた。
私は何度置いてけぼりにされるんだろうか。
なぜ置いていかれたのかわからないけど、無言の圧力を感じるので立ち上がる勇気なんてない。
「はい、これ。適当に砂糖とミルク入れちゃったよ?」
「あ、ありがとう」
今度は私の隣の椅子に座って、ため息をつきながらこちらを見つめている。
「どう?美味しい?」
「うん、美味しいよ?」
多分セイロンティー。甘さもちょうどよくて温かい。
頬杖を突きながら見つめられるのも、やっぱり慣れなった。




