第48話 ダイブ
――晴くんが好き。
私は長い長い自分への問いかけに、やっと答えを出せた。
クリスマスマーケットに現れた王子様。
再会したあの日から始まったカウントダウンも、私と晴くんの距離も、ゼロになった。
それがわかったから途端に恥ずかしくなって、もう顔を見るなんてできなくなった。
「姫奈乃のそのすぐそっぽ向く癖、直さなきゃね」
私の顎はすっぽりと晴くんの片手に収まっていて、やっぱり目を逸らすことを許してもらえない。
またしても恥ずかしい音と温もりがおでこに降ってきた。
どうしておでこにばかりキスをするんだろう。
何度されても慣れないから、おでこを抑えながら逃げるようにして立ち上がる。
でも、晴くんの膝の上は私が思っていたよりもずっと高かった。
そしたら右足が滑って、気がついた時には床が目の前だった。
私は反射的に目をつぶってそのまま転げ落ちた。
その一瞬で思ったことがある。
――これは私の幸せすぎる妄想なのかもしれない。
きっと王子様が迎えにきてくれるという、小さい頃の夢を見ているんだ。
だって転んだはずなのに、体がちっとも痛くない。
あぁやっぱり夢なんだと思った時、聞きなれた声が耳をかすめる。
「さ、さすがに焦ったんだけど」
体を包み込む温もりで目を開ける。
私は晴くんに、後ろからぎゅっと抱きつかれるようにして包まれていた。
「夢……じゃない?」
「何それ、夢だと思ったの?」
「だって、は、はるくんが……」
「俺が?」
「わ、私に、キス……するから」
眉間にしわを寄せ、口をとがらせながら鼻で笑った。
「だから!好きなんだって言ってるじゃん!」
「そ、そうなんだけど……」
「というかまず!転びそうになったらまず手をつかないとダメでしょ!まさか目をつぶってそのままダイブするなんて、思いもしなかったわ」
床の上に晴くんが座っていて、私はその上に座っている。
多分ソファーから滑り落ちるようにしてキャッチしてくれたみたい。
「とにかく気をつけてよ?」
「ご、ごめんなさい」
「どこも痛くない?」
「うん、大丈夫」
「は〜、マジで寿命縮まったわ」
晴くんは大きなため息と共に、私をそっとぎゅっと抱きしめる。
「もう、責任とって」
ダルそうに肩に顎を乗せられた。
「せ、責任?ど、どうやって取れば……」
「まず、このままぎゅっとさせて」
と言われても、すでに強く抱きしめられている。
「姫奈乃から俺の匂いがするの、マジでいいわ」
「な、何それ!」
「彼女にはやっぱり同じシャンプー使って欲しいよね」
あの念押しはそういう意味かと今気がついた。
私も自分から晴くんの匂いがすると思っていたけど、そういうことか。
「そんで俺のパジャマを着てるとかさ、本当は今すぐ襲いたい」
「なっ!?」
「うそうそ、冗談」
そうやって子どもみたいに笑うけど、どこまで冗談なのかまったくわからない。
こんなに可愛くて優しい人が、本当に私の彼氏なんだ。
――私は王子様が隣にいたと、10年も気がつかなかった。




