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第47話 欲




 我慢できずに溢れた涙を、上手に止めることはできなかった。


 申し訳ないという気持ちが、溢れて仕方なかった。

 


 

 ただ、下を向いて静かに泣くことしかできなかった。


 


「泣かないでよ」



 

 目の前にしゃがみ込んだ晴くんはの目尻は下がっている。


 

 うっかり目があった時、彼はそっと親指で私の頬を拭った。




「可愛いって思ってるよ」


 


 携帯で調べたカエル化現象。


 私は先ほど聞かれた言葉を思い出す。


 


 可愛いと思われたいのか?


 

 ――思われたい。本当に思われたい。


 


 それは、ずっと欲しかった言葉。


 

 それをもらってもなおバカな私は、この期に及んでまだ可愛くない言葉を返すしかできない。



 

「本当にそう思ってる?私に気を使ってるんじゃないの?」


 


 

 子どものようなことを言っていると、自分でもわかっている。


 でも、心のどこかで期待している。晴くんなら何度だって欲しい答えをくれるはずだと。


 

 

「思ってる。思ってるよ。1番可愛いお姫様だって思ってるのに……まだ、わからない?」



「……わかんない」



「んー、どうしたら伝わるかな」




 乾いた笑いと困った目。



 どれだけ彼に迷惑をかけているのか、その反応を見れば嫌でもよくわかる。



 わかるけど、私もどうしたらいいのかわからない。




「じゃあこれしかないかな」


 


 再び宙に浮いた体。


 

 私はまた、晴くんの膝の上に座っている。


 2度目の景色であるはずなのに、突然のことにびっくりして涙が止まった。



 

 心臓のドキドキが聞こえる。


 ときめいているのか、不安なのか、自分のことすら何1つわからない。




「こっち見てよ」


 


 悲しい声につい顔を上げれば、今度は晴くんが泣き出しそうな顔をしている。


 

 

「好きだよ」



 

 そう呟いて、優しい優しい温もりが唇を染めた。



 目を閉じる暇もなく私の頭に回された手。その温もりは柔らかかった。



 

 優しく包まれてるだけなのに、抵抗することも離れることもできない。




「伝わった?」



 

 晴くんの閉じていた目がそっと開き、子どものように笑った時ようやくわかった。

 



「……伝わった」



「ほんと?」



「ほんとだよ」



 

 嘘じゃない。


 好きな人に好きだと言われることが、こんなに嬉しいなんて知らなかった。


 

 キスが温かいことも、優しさが伝わることも、ちょっと泣きたくなることも初めて知った。

 



 あぁ、私はやっぱり


 ――晴くんのことが好きなんだ。




「ふふっ。姫奈乃が俺のこと好きなのも、ちゃんと伝わったよ」


 


 イタズラに笑って、私の眉間を指でつんつんする晴くん。

 



「な、なんで……わかるの?」



「そんな顔されたらわかるよ」



 

 私はどんな顔をしているんだろう。



 新しい気持ち、新しい感触、新しいことを知って、私は自分のことがわからなくなった。



 ただ1つだけちゃんとわかったことがある。それは晴くんには敵わないということ。


 それだけはわかった。


 


 

 

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