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第46話 でも





「じゃあ次のレッスンね」



 

 そう言って私の隣に座る九条くん……いや、晴くん。


 

 私の頭の中には「なんで?」でいっぱい。レッスンとは何なんだろうか?

 


 

 そんな私の思いとは関係なく、私の右手をもみもみと握り出した晴くん。


 

 


 心の中で晴くんと呼んでいること。

 

 手を握られていること。

 

 何のレッスンが始まったのかわからないこと。


 


 そんなドキドキを無視する言葉が飛んできた。

 


 

「お客様、凝っていますね。手がキンキンに冷えています。お仕事は何されているんですか?」

 


 

 何かが始まってしまった。そしてその意味はわからないが、マッサージされる手は気持ちが良かった。


 

 

「えっと、学童の先生を……」


 

「じゃあ子ども相手で体を使うんじゃないですか?」


 

「んー、いや?どちらかというとパソコンの方が肩や首へのダメージが」

 


 

 整体に行くのがめんどくさくて、家にあるフォームローラーをするぐらい。運動不足の私の体は硬いだろう。



 

「では失礼して」


 


 そういって私の後ろに回り込む晴くん。そして肩に手を置いた。


 ビクッと反応してしまう肩に「何もしないよ」と笑うが、もう信用できない。



 とはいえ振り払うこともできないので、晴くんにされるがままの私。

 

 


「んー、凝ってますね」

 


「そ、そうですよね」



「これはちょっと問題あります」



 

 本当に何もしないし、なんならちょっと笑ってるし。


 たわいもない会話。


 

 さっきまで私に敬語を使うなと言っていたのに、まるでお店の人のように敬語で話している。

 

 

 

 色々考えていたけど、晴くんのマッサージが意外と上手で、体の緊張がほぐれてしまった。


 

 そしてつい体を預けてしまった。




 それを待っていたかのように、突然私の首元に顔を埋める晴くん。



 

「なっ、くすぐったいよ」



 

 思わず首を逸らして上を向いたら最後、晴くんと目が合ってしまった。



 

「まだわからない?」



「えっと……」



「姫奈乃と過ごせるなら何でもいいよ。話ならいくらでも聞くし、マッサージだってするよ。俺は、姫奈乃が好きだよ」



 

 何でそんなに優しいんだろうか。

 

 つい目を逸らして下を向けば、少し温まった自分の手が目に入る。

 


 


 晴くんと呼びたい。

 

 手を繋ぐのだって本当は嬉しい。

 

 好きって言われたらドキドキする。



 

 ……でも「でも」という言葉が頭の中でこだまする。

 

 チグハグな思いに、私はもうどうしたらいいのかわからない。


 

 

 我慢できずに、目から涙がこぼれた。


 


 ここまでしてもらったのに、今度こそ幻滅されちゃうかな?


 

 

 泣いてばかりの自分が大嫌い。


 なんでこうも可愛げがないのだろう。



 素直に晴くんにありがとうと言えば、それだけでいいのに。




 


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