第41話 不用心
――ガチャッ
その音にびっくりして振り向くと、ドアが開いており、壁に寄りかかった九条くんが腕を組んで立っていた。
「あのさ、不用心すぎない?」
「えっと……」
「鍵閉めないっていうことは、そういうこととして受け取るけど?」
「――ご、ご、ご、ごめんなさい!すぐ閉めます」
のん気に鏡を見つめていた私は、鍵をしめることを忘れていた。
とはいえ、忘れてたからとして普通開ける?
一瞬で駆け巡ったいろいろを押し殺して、入り口に立つ九条くんを押し出す。
なんとかドアを閉めて、急いで鍵をかけた。
バクバクした心臓を右手で抑えて、開かないようにドアへ左手を当てる。
そしてドキドキが落ち着くまでドアを見つめ続けた。
ちょっと考えられるようになった時、ドアにそっと耳をつけてみる。
廊下からは何も音がしない。もう九条くんはいないのかな。
長い長い息を吐いて、やっと安心できた私は、再び服に手を掛けた。
おしゃれしてきた服を丁寧に畳んで、パジャマの隣に置く。
お風呂場のドアを開けると、そこはラベンダーの香りに包まれていた。
いつもは先に湯船へ浸かるけど、よその家ではやめた方がいいよね。
理由はわからないが九条くんの家の物を使うように圧力をかけられたので、ありがたく借りることにした。
シャンプーは柑橘香るムスクの匂い。普段私が使っているものより、たぶんずっと高級そうな香りがする。
トリートメントも同じ匂いがして、髪がすごくサラサラになった。
体を洗ってそっと湯船に足を入れると、私の家よりも少しぬるめで、それが心地よかった。
緊張し続けた手足に染みる。
ぐっと体を伸ばせば、体の力が抜けていくのがよくわかる。
ドアの向こう側で起きたできごとなんて、実は夢だったんじゃないか。
そうだ、きっと私はどこかのホテルにいるのかもしれない。年内の仕事を終わらせて、朝から頑張ったし。
少し前に流行った、ホカンスっていうやつなのかもしれない。
お風呂を出たら現実と向き合わなきゃいけないな。
九条くんの前でどんな顔をしたらいいのかな。
お湯に顔が沈みそうなぐらい、私は湯船の中に逃げ込んだ。
そうやってぐるぐる考え事していたら、すっかりのぼせてしまった。
そろそろ出ないと、九条くんを待たせてるし悪いかな。
仕方なく私は重い腰を上げた。
少し冷たいシャワーを浴び、気合を入れてドアを開ける。
逃げていたって仕方ないよね。




