第35話 膝の上
「――あー、マジで!そんなことしちゃう?俺もうダメだわ」
突然のお姫様抱っこは、宙に浮いたちょっぴりの恐怖と、九条くんとの距離の近さで私をドキドキさせた。
九条くんは私を降ろすことなくソファーに座った。
そしてなぜか、私は九条くんの膝の上に座っている。
かろうじて残っている理性が、に重いって思われないかなという不安を訴えている。
だって私、九条くんの片足の上に座ってるんだよ?
それにこんなに体が密着したら、私のうるさすぎる心臓の音が伝わってしまう。
いつも見上げていた九条くんの顔を、今度は私が見下ろしている。
そして逃げることはできない。なぜなら九条くんの両手が、私の腰をがっちりホールドしているからである。
「ドキドキしてくれてるんだ」
バレていたとしてもそんなこと言わないでよ。そう思ったら、うっかり言い返してしまった。
「いじわる」
「うん、俺意地悪してるんだ。でも姫奈乃が悪いんだよ?」
「なっ!私何もしてないのに……」
照れ隠しと九条くんに勝てないと不貞腐れた気持ちが、私の顔をそっぽ向けさせた。
「ふーん、そういうことするんだ」
私は九条くんに顎を掴まれ、強制的に見つめあう形になった。
「あのさ~、大学卒業してから俺がどんな思いで姫奈乃を探したと思ってんの?」
「あ、その……」
視線を逸らすと、今度は九条くんの両手が頬に伸びて、すっぽり顔が包まれた。
「マジで大変だったんだからね!」
「なっ、なんで……」
「大学卒業後に同じ学部のやつらとお酒を飲んでたら、姫奈乃の話題になった」
「わ、たし、の?」
「知らないの?姫奈乃めちゃくちゃモテモテだったんだから」
子犬みたいな顔になった九条くんは、私の顔から手を離す。
「そしたらさ、クリスマスマーケットに行くからムリって毎年振られてたやつがいてさ」
確かにお出かけに誘われても、冬はクリスマスマーケットを理由に断ってた。
「卒業した年からクリスマスマーケットに行って、姫奈乃を探したよね。まあ簡単に会えるわけないってわかってたけど」
クリスマスマーケットを探した?あんなにいろんな場所で開催されてるのに?しかも長期間開催されているのに?
「偶然じゃない……あの日、やっと見つけたんだ」
「だ、だったら……連絡してくれたらよかったのに」
「連絡したら付き合ってくれるたの?」
その質問に私は答えることができなかった。
私たちの間に静かな空気が流れ始め、加湿器の音しか聞こえない。
黙りこくる私にしびれを切らしたのか、またいじわるをしようとしたのかはわからない。
沈黙を破ったのは私。でも、私のせいじゃない。
「な、な、な、何を……」
九条くんはなぜか、私の両脇の下に手を滑り込ませた。
片足の上に座っていた私の体は、抱っこするように持ち上げられ身動きができなかった。
35話まで読んでくださりありがとうございます。
姫奈乃を翻弄するのが上手だなと思った皆様。そしてそんな王子様に会いたいなと思った皆様。
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