第29話 開いた扉
あまりにも続くドキドキの連続に頭を抱えた私は、とぼとぼと九条くんの後ろを歩くしかなかった。
今度は意地悪しないで、玄関の鍵を開けてくれた九条くん。
しかし家の中に入ったはいいが、前回来た時とまるで違う状況になかなか足が進まない。
「靴、脱がないの?」
微笑みながらひざまづいて、ブーツのチャックに手をかける九条くん。なんでこんなにさらっとイケメンなんだろうか。
なんて思いながらも、その手を思わず目で追えば真剣な眼差しに高まる鼓動。
しかし私は気がついてしまった。
――今見上げられたら、スカートの中が見えてしまう。
そんなしょうもない雑念にとらわれて私は、天井を見上げて何も視界にいれないことにした。
「ほら、脱げた」
一方余裕の落ち着きで、リビングのドアを開けて先に行ってしまった九条くん。
まるで私ばっかりが意識しているみたい。
熱い頬を冷たい両手で覆い、気持ちを落ち着ける。大丈夫、大丈夫、そう言い聞かせる。
しかしその間に、ポツンと玄関に置いて行かれてしまった。
覚悟を決めて目をぎゅっとつぶり、静かに長い息を吐く。
そろりそろりとリビングに入ってみたが、なぜか九条くんがどこにも見当たらない。
不思議に思いながらもダイニングテーブルまで歩いていく。
――窓に反射する九条くんに気づくより先に、私は温かいぬくもりに包まれた。
抱きつかれたんだと理解した私の手から、トンと音を立てて落ちるバッグ。
後ろから急に現れた九条くんの抱きしめる力は優しい。でも振り解くことができない絶妙な強さが、九条くんは男の子なんだと主張している。
「姫奈乃ちゃん、そのつもりで来てくれたんでしょ?」
――「そのつもり」という言葉にハッとして、無意識に力が入る体。
「今、振り解こうとした?」
低いその声に心が縛られてしまった私は、全力で首を横に振る。
「だよね、お姫様はそんなことしないよね」
その言葉に見合わない固い声。そして首に当たる熱い息に、思考放棄したくなる。
「お姫様」と呼ばれていることに気がつかないくらい、私にはもう余裕がなかった。
だんまりの私を抱きしめる力が少しずつ強くなって、頭によぎったのは少女漫画のワンシーン。
意外にもごつごつとしたその手が、ゆっくりと私の胸元に移動する。あぁ、大人な関係になってしまうかも……そう思った私は、息をのんだ。
「お部屋ではコート、脱ごっか?」
するすると慣れた手つきでボタンが外され、コートを脱がされた。
しかし私の行き過ぎた想像とは違って、そのまま九条くんは隣の寝室へと消えてった。
ぽかんとした私は、広い広いリビングに1人残されてしまった。




