第26話 本音
ネガティブな言葉が頭に浮かび、結論を出せない私。
――しかし扉は開いてしまった。
気がついたら、私たちは2人でソファーに座っていた。
部屋に漂う甘い香りは、私の香水だけではない。
膝と膝がくっつきそうな距離は、九条くんの呼吸さえ耳元で感じる。
そんな状況なのに、今の私はふわふわしていない。机の上ネックレス、そして鍵のことでいっぱいいっぱいだった。
「あの白いバック、お泊まりする準備してくれたの?」
ニコニコと私を試すように指差す九条くん。
「あー、うん、えっと……」
「今うんって言った?言ったよね?」
「は、はい……」
揚げ足とも言える言質を取られてもなお、顔を上げることができず自分の手を見つめることしかできない。
「俺のこと、どう思ってる?」
直球を投げておいて、私の手をさらっと取る彼はずるい。こんなふうにされたら、忘れていたときめきが私の体を支配してしまう。
「わ、たしは、その……九条くんを……」
「九条くんを?」
「ド、ドキドキはし、して、する?」
「ドキドキしてくれてるんだ」
いやらしく笑う九条くんに、もう限界を迎えている私。
「あの、うん。その、ね?」
「言ってくれないとわからないよ」
優しく、そして低い声。漏れた吐息がくすぐったい。
九条くんは机の上のネックレスを手に取る。しかしなぜか昨日と違って顔がとても近い。
「ヒャっ」
思わず変な声が出てしまった。
それが恥ずかしくて恥ずかしくて、ネガティブな感情はどこかへ飛んでいった。
さっきとは違う理由で下を向き続ける私の耳に、ふーっと息を吹きかける九条くん。
「な、な、な、何するの!」
私は思わず顔を上げてしまった。
目の前にある九条くんの顔。それはいつだってキスができるほど近い距離。
私の頬を冷たい手でさわる九条くんの目に、すべてを見透かされたような気がした。
「答え、教えてよ」
甘く苦いビターチョコレートのような声が、とうとう私の思考能力を停止させた。
「い、きます」
「鍵、受け取ってくれるの?」
私は可愛くないし、九条くんとは釣り合わないかもしれない。
そうやっていろいろ並べ、自分に言い聞かせてきた。でも、もう自分の心を押さえつけることができない。
「……はい」
真剣な彼の視線に逆らえなかった私は、イエスと答えた。
――九条くんといると、自分の奥底に眠る本音を止めることができない。その姿はまるで子どものようだった。




