第23話 学生時代
空いているバスの中は静かで、心地よい揺れにみんなウトウトしている。
いつもの私なら朝番の帰りのバスなんて、絶対に疲れて寝てしまっている……が、今日は頭が冴えている。
――もちろん九条くんのせいだ。
鍵を握られたその感覚がよみがえってきては、じわじわと恥ずかしくなる。
何度も「姫奈乃」って呼ぶその顔はびっくりするほど優しくて、温かい手で私に触れたあの感触。
九条くんのひとつひとつの行動にドキドキさせられる。
私は九条くんのことが好きなんだろうか?
昨日から何度も自分に問いかけるが、答えが浮かんでは消える。
10年間共に過ごした学生時代に、1度だって特別な感情を抱いたことはなかった。
中学時代はたまたま3年間同じクラス。委員会が一緒だったことはあったが、休み時間に話すことはない。
必要であれば話すけど、それ以上ではない。そんな関係だった。
卒業式の日、同じ高校に行くと聞いた時は驚いた。私たちが進学したのはいわゆる頭の良い学校。
九条くんは陸上部で、大会で記録を残すようなすごい選手。彼の名前の垂れ幕が、学校の入り口に飾られたこともあった。
でも、勉強は苦手だって聞いたことがあった。だから失礼ながらスポーツばかなのかと思っていた。
担任の先生にやりたいことがないならと、勧められた高校に推薦入試で合格した私は進学クラス。
九条くんは一般クラスだから一緒に授業を受けることもなかったけど、一緒に学校へ行くことはあった。まあ出発点と目的地が同じだから、駅で鉢合わせただけだけど。
高校では部活に入らなかった九条くん。その分勉強をしていたようで、2年生になると私たちは定期テストの順位を競うようになった。
大学も私は行きたいところはなく、担任の先生に指定校が取れると言われたので選んだ国立大学。九条くん大学も同じ学校に進むと言われた時、今の成績ならそうかもなぐらいにしか思っていなかった。
同じ大学とはいえ流石に学部は違った。でも同じキャンパスだったから、時間が合えば一緒に登下校する仲となった。
しかし私は教育学部で、九条くんは情報学部。4年生になれば授業数も減るし、私には実習があって、ほどんど顔を合わせることなく卒業。
就職先はもちろん別。
22歳で大学を卒業してから、一切取ることはなかった連絡。
だからあの日、クリスマスマーケットで出会った時。懐かしいという感情の他に嬉しいと思った。
酔っていたとはいえ喋り倒したのは、再会が嬉しかったから。
――いつから九条くんは私のことを意識してくれたんだろう……。
王子様が迎えに来るまであと2話。




