第21話 浮ついた夜
冷えた指先が痛くなってから、私は震えた手で家のドアを開けた。
玄関にパンプスを脱ぎ捨てて、赤い花束を机の上にそっと置く。ドサッとソファーに座れば、体が沈んでいく。
鍵を握りしめて、私は一生懸命考えた。
――九条くんは多分、私のことが好き……。
どうしてかはわからないし、なんでって思う。でも多分、自意識過剰ではないと思う。
首元のネックレスと目の前の花束がそう告げている。プレゼントを、こんなに素敵なものを何とも思っていない人にあげるだろうか?
そもそも、突然職場まで車で来るってことはそういうことで。
お泊まりの準備……彼氏がいたことのない私でも、その意味を察せられない程うぶじゃない。
たった1週間で、少女漫画のような出来事が次々に起こる。
正直、心も頭もいっぱいいっぱいだ。
それでも考えなくてはいけない。私は九条くんをどう思ってるのか。
姫奈乃と呼ばれ手を繋がれては胸がドキドキして、甘くて低い声に頭がクラクラする。これが恋なのかわからない。だって恋愛なんてしたことないんだもん。
一旦考えることを放棄をした私は、ネックレスと鍵を机の上に置く。スーツを脱いで、なんとかハンガーにかける。
ヨタヨタした足取りで椅子に座り、クレンジングウォーターをコットンに馴染ませてメイクを落とす。
熱めのシャワーでは邪念を払いきれず、念のためとムダ毛の処理。
たまにしか使わないちょっとお高めのボディークリームを、全身に塗りたくる。
いつもよりちょっとだけ高い1枚入りのパックをしたところで、自分が浮かれていることに気づいてしまったがそんなの無視無視。
開き直ってヘアオイルも、いつもより丁寧になじませる。
寝る支度を終わらせてベッドに座って出てくるのは長いため息。
答えを出せないと言いながら、浮かれている自分が恥ずかしくもその思いは止められない。
【1:30】
……明日は早番だから6時前に起きなければいけないのに。布団を頭まで被っても眠気なんてあるはずない。
布団から顔を出して机の上の鍵を見れば「受け取って」と言った九条くんのまなざしが頭にちらつく。
「迎えに行く」なんてセリフ、本当に王子様みたいじゃん。
ベッドから起き上がって、忘れていた花束を花瓶に入れる。
車の中で「お誕生日おめでとう」と笑う九条くんが脳内再生された。
――私はこの状況で嬉しいと思ってる……私、嬉しいんだ。




