第20話 鍵
――それから涙が止まったのは5分か、10分か……どれくらい後かわからない。
自分でも、なんでこんなことで泣いてしまったのかわからない。ただ涙が止まらなかった。
泣き止んだ私の目は赤くって、頭はクラクラしていて、心はふわふわしていた。
だから九条くんに手を握られていることにも気がつかなかった。
「誕生日、毎年祝わせてよ」
そう言って笑う九条くん。
「ごめんね、帰るの遅くなっちゃったよね」
つい照れ隠しでごまかすようにそう口走った。しかし車の画面に映る「22:24」の文字を見て、本当に遅くなってしまったことに気がついた。
申し訳ない気持ちと、嬉しい気持ちでどんな顔をしたらいいのかわからなくて、私はヘラヘラするしかなかった。
「気にしないでよ。それよりプレゼント、受け取ってくれる?」
花束のことなのか、ネックレスのことなのかはわからなかったが、祝ってくれた気持ちが嬉しかった。
「うん」
素直に受け止めた気持ち。しかし3秒後に想定外の発言が返ってきた。
「言ったね?」
ニヤリとする九条くんに頭の中に?が浮かぶ。
「えっ、なんて?」
「冗談冗談」
何を言ってしまったのか、どこが冗談だったのかわからなかったが、九条くんが楽しそうなことだけは伝わった。
車が発進して知らない洋楽が流れたら心地よくなって、ついウトウトしてしまった。
「……の」
「……なの」
「――姫奈乃」
「…………っえ?」
「おはよう、着いたよ」
「ご、ごめん。私寝ちゃった……」
「いいのいいの、仕事終わりに疲れてたとこ誘ったのは俺だし。今日は一緒に過ごししてくれてありがとう」
「な、こ、こちらこそ、その、ありがとう」
「あのさ、土日休みって言ってたよね?」
「うん、休みだよ」
「明日は何時に仕事終わるの?」
「明日?早番だから17時ぐらいかな?」
「わかった。明日、18時半に家まで迎えに行くね」
「……な、なんで?」
スムーズな会話からの急なパンチ。寝起きの私は、つい流されそうになったがなんとか思いとどまった。
「これ」
突然取られた私の手の中には、鍵が握られていた。
「受け取って」
「えっ……どういう意味?これ……」
「いらなければ明日返して。でも、受け取ってくれるなら――お泊まりの準備をしてきて」
……お泊まりの準備?
「本当に、どっちでもいいから、ね?じゃあ明日迎えにくるから。またね」
――車を降りた私は花束を抱えたまま動けなかった。
20話まで読んでくださった皆様、本当にありがとうございます。
いよいよ九条くんと姫奈乃の歯車が回り始めました。
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