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第19話 溢れた涙





 

 九条くんがあまりにもまっすぐ私を見つめるから、茶化すこともできなかった。



 結局「ありがとう」とだけ伝え、コーヒーを口に運んでごまかした私の顔はきっと赤い。





 「明日も仕事だよね」と言われたのが22時過ぎ。

 

 お店を出ると風が吹いていて、耳が痛くなるようなその冷たい空気がとても心地よかった。




 

 歩き出したかと思えば、突然立ち止まりくるりと振り返る九条くん。

 

 イルミネーションを歩くときはさらっとつないだくせに、今度は私を試すように目の前に手を差し出す。




「どうする?」


 

 

 まぶしいほどの笑顔で目の前に立つ王子様が私を見ている。



 九条くんが私のことを見つめ、私のことを考えている。そう思えるこの状況に、悲しくないのになぜか泣き出してしまいそうな気持ちになった。





 

 ――私は覚悟もないのにその手を取ってしまった。


 きっとクリスマスの魔法のせいだ。



 


 2人で歩くことが、まるで特別なことのように感じたのも魔法のせいだろうか?



 

 駐車場に着いて離された手が、優しく助手席のドアを開けてくれた。そんなひとつひとつの行動に、ときめいてしまう自分が自意識過剰な気がして嫌になる。



 

 

 運転席に座った九条くんはが助手席のヘッドレスにドンと手をついたから、私の体が少し揺れた。


 びっくりして思わず閉じてしまった目。



 


「お誕生日おめでとう」



 


 そう言われうっすら目を開けると、赤い何かが目の前を埋め尽くしている。



 


「お姫様には花束を」



「わ、わ、私に?」



「もちろん。クリスマスが好きって言ってたから、赤い花束にしてみた。どうかな?」




「……きれい、ありがとう」




 

 大好きなクリスマス。誕生日とはいえみんながお祝いするのはクリスマスで、ケーキだってサンタさんが必ずのっていた。


 

 人生でこんなに誕生日を祝われたのが初めてだったからか、サプライズに驚いたからなのか……涙がこぼれてしまった。





「な、ご、ごめん。困らせたかったわけじゃないんだ。嫌だった?ほんとごめん」



「ちがうの、ただ、なんかびっくりしちゃって。その、すごく嬉しいから、謝らないで……」




 なかなか涙が止まらない自分に、さらにびっくりした私は一生懸命涙をぬぐった。それでも止まらない涙に受け取った花束が濡れてしまって、ラッピングの透明な袋をコートの袖で拭いた。




「大丈夫だよ」



 九条くんに拭くことを止められた手は、包み込むように握られた。九条くんがあまりにも優しい目で私を見るから、涙を止めることはもうできなかった。






 ――泣き止んだ頃、私の目は真っ赤っかになっていた。







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