第15話 ドライブ
――状況を理解できないまま助手席に座る私を乗せた車は、なぜか都心を走っていた。
紺色のスーツが良く似合う整った顔。こんなイケメンを世の女性が放っておくはずないよな。なんで彼女いないんだろう。
どこに向かっているのかわからない静かな車内で、私はそんなことを考えていた。
沈黙を破ったのは九条くんだった。
「今日さ、クリスマスじゃん。そこでといっては何なんだけど、2つお願いがあるんだよね」
「な、な、な、何!?」
突然の提案に私の肩が跳ねる。
「1つ目なんだけど、姫奈乃って呼んでいい?」
「ん?なんて?」
まさかすぎる発言に私の声は上うわずってしまったが、こればっかりは九条くんが悪い。
「藤原さんじゃなくて姫奈乃って呼びたい」
「……ち、ちなみにもう1つは?」
「晴って呼んで欲しい」
「…………ムリ」
意味がわからない。なんでこんなことになってしまったのか、謎すぎる展開についていけない。
「なんで?恥ずかしいの?」
勝ち誇っているようにも見える顔でそんなふうに言い放つ九条くん。
「あ、あたりまえじゃん」
これについては私の反応が正しいと思う。
だいたい、本当なら今頃家で映画を観ながらチキンとマッシュポテトを楽しんでいたはずなのだ。それがいったいどうしてイケメン男性とドライブしているのだろうか。
「でもさ、今日誕生日だよ?」
「うん……あのね、私の誕生日だよ?」
「誕生日は下の名前で呼ぶものじゃない?」
私は自分の感覚が間違えているような気さえしてきた。九条くんがさも当たり前かのように話すもんだから、そうなのかなと錯覚し始めそうな勢いだ。
「い、いや、そんなの……ないよ、ね?」
「騙されてくれないかぁ」
子どものようにケタケタと笑う九条くん。危なかった。しかしふとある疑問が頭の中に浮かび上がる。
「……というかなんで私の誕生日って知ってるの?」
私は今まで特定の仲のいい友達なんてできたことがない。だから誕生日を聞かれたり、祝ってもらったこともない。
「それは姫奈乃と同じ小学校のやつに聞いた。誕生日がクリスマスだなんて、1度聞いたら忘れないよね」
「確かに小学校では誕生日一覧とかあったけど……初めて、誕生日当日に誕生日を知ってる人に会ったよ。っていうか大学まで一緒だったのにそんなこと言わなかったよね?」
「んー、まあ勝手に聞いて知ってたらうざいかなって。でも今日会えたから言わせて?」
「何を?」
「お誕生日おめでとう」
一人暮らしを始めてからは、とうとう家族からも言われなくなった言葉。久しぶりに聞いた「おめでとう」は嬉しいような恥ずかしいような変な気持ちになった。
――私たちの間には再び静かな時間が流れた。
15話まで読んでくださった皆様、本当にありがとうございます。
姫奈乃の誕生日がクリスマスという新情報です!
早く下の名前で呼び合わないかな~なんて思っている作者です。
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