第12話 オオカミ
――思考回路が停止した私は、気づけばなぜかレインボーブリッジを見ていた。
高層マンションから見えるきれいな夕日。そして痛いほどに感じる視線。
「九条くんのお家は、なんかすごいね」
振り返る勇気はなく、外を必死に眺めながら声を掛ける。
「藤原さんが気に入ってくれたようでなにより」
そう言って私の隣に立った九条くんは、一体どういう気持ちなんだろうか?
「何か飲む?」
「あ、うん。ありがとう」
「マーケットでココアを飲んだから、今度は紅茶にしようか」
そう言ってキッチンに向かう九条くんに、ほっと胸を撫で下ろす。
ちょっと余裕のできた私。ふと横を見ると隣の部屋のドアが開いていた。私は少しの好奇心で部屋を覗いてみた。
そこには見たこともない程の大きなベッドとサイドテーブルだけが置かれた、とてもシンプルな寝室。さすがはイケメンの部屋という感じ。
「キングサイズかな?」
そっと部屋に1歩足を踏み入れて、左右をキョロキョロ見てみる。スッキリとした部屋はモデルルームのようだった。
「へぇ、いい度胸じゃん」
その声に気づいた時にはもういろいろと遅かった。
「こ、降参です」
思わず両手を挙げてもじもじと下を向いたが手遅れだった。目の前に立った九条くんに左手をぐっと掴まれ、壁へと追いやられる私。
やばい、怒らせてしまった……。
――ドンッ。
一瞬の出来事に反応できなかった。
気がついたら九条くんの右膝が私の股の下にあって、身動きが取れない。
びっくりして顔を上げてしまったら最後、九条くんとばっちり合った目を逸らすことはできない。
「男の寝室に入るってことはそういう意味として受け取るけど?」
そういう意味?どういう意味?
わからないけどやばい状況なのはわかる。
「藤原さんのエッチ」
……エッチ?
そう言われて初めて自分のした行動の意味を理解した。
広げられた足を閉じることもできず、密着する体。息づかいが耳元で聞こえるほど近い整った顔。
恥ずかしすぎるこの状況に、胸が壊れてしまうんじゃないかってぐらいバクバクした心臓。
「そんなに煽られたらさ、王子様も狼になっちゃうよ?」
――パニック状態の私は、その息づかいに目をギュッと閉じた。




