第10話 おそろい
「――ほら、クリスマスに遅れちゃうよ」
私は九条くんに手を引かれながら、芝公園にたどり着いた。
受付でQRチケットを提示して、特典のマグカップを受け取る。
そしてなぜか同じくマグカップを受け取っている九条くん。事前予約しないともらえない物なのに。
私が見つめていることに気がついた九条くんは、マグカップの入った紙袋を片手に笑顔で「おそろい」と言った。
え?私たちおそろいのマグカップ持ってるの?この会場では珍しいことじゃない、じゃないけど……。
九条くんの言葉ひとつひとつに揺すぶられる私。
心臓が壊れちゃったのかな?と思うような鼓動が体に響く。
お構いなしに手をつないで歩く九条くんは、ごく普通に過ごしているからなんだか悔しい。
私だって九条くんをときめかしてギャフンと言わせたい。
「もう1つおそろい探しに行く?」
なんて、わざとらしく精一杯のかわいいを込めて言ってみた。どうだ!さすがに動揺したかな、と顔を覗きこむ。
――しかしその考えは甘かった。
「へぇ、そんな可愛いこと言って、俺期待するよ?」
つながれている手の力がギュッと強くなり、九条くんの方に引き寄せられた体。私たちの腕がくっついた時、やってしまったと思ったがもう遅かった。
「ねえ、何をおそろいにする?」
「ごめん、私が悪かったから。その……許してほしい」
「いーや、許さない」
会場に着いてたった5分。すでに決着はついたのかもしれない。
なんとか九条くんを見ないように横を向いて歩いていると、目の前に現れたスノードームショップ。落ち込んでいてもスノードームの魅力には敵わない。
私はバレリーナの小さなスノードームを手に取った。くるみ割り人形モチーフにときめきが止まらない。
「小さいし玄関におけるかな」なんて思い、値段も確認せずにお会計へ。しかしレジにスノードームを置いた瞬間、私の声を遮るようにかぶせられた声。
「これください」
そう言って九条くんは、私の欲しかったスノードームを買ってしまった。
「……私がそれ買おうとしてたのに」
ムスッとする私に、これまた爽やかな笑顔で「プレゼント」と紙袋を渡す九条くん。
「えっ……何言ってるの?そんなの悪いよ」
慌ててお財布を出すと深いため息をつく九条くん。
手を引かれて連れていかれたのは、会場のはじっこ。
「あのさ、俺が何のために働いてると思ってるの?」
「知らないよそんなの」
意味がわからず反射的につぶやいた言葉。まさか聞こえているとは思わなかった私は、すぐに後悔をした。
「――ねぇ、藤原さん。わからせてあげようか?」
目の奥がギラギラとした視線。私は地雷を踏んでしまったようだ。
10話まで読んでくださった皆様、本当にありがとうございます。
姫奈乃の「知らないよそんなの」はその通りだと思います。
しかし作者はぜひ「九条くんにわからせてほしい」とときめいております。
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