表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/42

第31話 再会


 視界が白く弾け、思わず目を細めた。

 杖が震え出し、その振動が右腕にも伝わる。


 やがて、魔力が杖に吸い込まれる感覚。

 腕が痺れ、放たれる光が次第に弱まっていく。


 もう、限界だ――意識が断絶しかけた、そのとき。



 ――サーン……ネイサーン!!



 耳に飛び込んだ声が、失いかけた意識を引き戻す。



 アドルフと……ベンジャミンの声!



 光が霧散し、腕から力が抜けた。

 崩れそうな膝を踏ん張りながら、周囲をぐるりと見渡す。



「アドルフさーん! ベンジャミンさーん!」



 応えるように、遠くで地を踏む足音。

 やがて、薄霧の中からゆっくりこちらへ近づいてくる二つの影が見えた。



「ネイサン! 無事か!」



 懐かしい声を聞き、安堵感が胸を満たした直後。

 僕の意識は、霧の中へ完全に引きずり込まれた。




 ◇◇◇

 



 ――いい子ね、坊や。仲間を見つけたのね。



 柔らかな女の声が、どこからか語りかけてきた。

 額の上に、指先のかすかな温もりを感じる。

 生ぬるい吐息が耳元を撫で、声がささやいた。



 ――もう、大丈夫。ひとりにしないわ。

 ――あなたの仲間も、一緒に連れていってあける。



 連れて行く? 一体どこへ……

 


 次の瞬間――

 目の前に焼けただれたグーラーの顔が現れ、血の滴る牙をむき出しにした。




 ◇◇◇

 



「……サン……ネイサン!」



 叫びとともに、瞼の奥で女の幻が砕け散る。

 恐るおそる両目を開くと、丸眼鏡をかけた青年がこちらをじっとのぞきこんでいた。



「ネイサン! 目が覚めましたか?」


「あ……ベンジャミン、さん」



 名を呼ばれた植物学者は、くしゃりと顔をほころばせる。



「よかった。丸一日眠り続けていたので、心配したんですよ」


 

 僕は首をそっと動かし、上へと視線を持ち上げた。

 見慣れない天井から、見慣れないランプがぶら下がっている。



「丸一日……」


「昨日の夜、オルガノ山の麓から少し離れた村にある、この宿に着いたんですよ」


「あの山を、越えられたんですね」


「ええ。ネイサンのおかげです」



 鼻からずり落ちかけた眼鏡を指先で持ち上げ、植物学者がにっこりと笑う。



「そんな……僕は、何も」


「謙遜しない。あの強烈な光、ネイサンが魔法で放ったのでしょう? アドルフさんも驚いていましたよ」


「あ……そういえば、アドルフさんは」


「風呂に行っています。一日中山を歩き回って、三人ともひどい有様でしたから」



 両肘をついて、ゆっくりと起き上がる。

 胸元までかぶせた布団をめくると、服にはまだ泥や砂がこびりついていた。



「さすがに、風呂場まで担いで裸にするわけにもいかないので」



 試しに腹筋を使い、上半身を動かしてみる。

 だが、すぐに力が抜けてベッドから転げ落ちそうになった。

 ベンジャミンが慌てて僕の右肩を支える。



「急に動かないほうが。まだ体力が戻りきっていないんですよ」


「そうだ……光の魔術を使ったときも、意識がなくなりかけて」


「魔力の使い過ぎだと思います。あるいは――」



 ふと口を閉ざし、細い顎を撫でるベンジャミン。

 その横顔には、学者らしい賢さと思慮深さが浮かんでいる。



「山の魔力による影響かもしれません」


「山の魔力?」


「オルガノ山には、強烈な魔力が宿っていたはずです。何しろ“魔物の臓物”ですから……その山の魔力とネイサンが持つ魔力がぶつかり合って、魔力の均衡が崩れたとも考えられます」



 つまり、僕の魔力は山の魔力に負けたのか。

 そもそも、二つを比べること自体がおかしいのだ。

 分かっているのに、理性より感情が勝ってしまう。



 ――悔しい。

 魔力が足りないのも、魔力を制御しきれないのも。

 すべてが、自分の実力不足なのは明らかで。


 それを、否応なく目の前に突きつけられたようで。



 拳に力が入り、布団がくしゃりと音を立てる。



 「……ネイサン」



 傍らに座るベンジャミンが、静かに告げる。



「私もアドルフさんも、あなたに救われたんです。あの光がなければ再会できなかった――ありがとう」



 ガラス玉のような瞳が優しい光を(たた)え、僕を見る。

 口を開きかけたものの、返す言葉はうまく出ない。

 


 そのとき、錆びついた音を鳴らしながら部屋の扉が開いた。



「なんだ、ネイサン。起きたのか」



 湯気の名残りを(まと)い、さっぱりした身なりのアドルフが立っていた。

 ベンジャミンは椅子から腰を上げると、



「では次は私が風呂を。ネイサンは無理せずに」



 軽く目配せして、植物学者は扉の向こうへ消える。

 彼の残した「ありがとう」が、暗い胸の奥に小さな灯をともした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ