第98話 模擬戦の後は
【アリソン子爵 side】
「今日の報告は何かあるか、騎士団長」
「団員たちも新たな土地に慣れてきました」
「地理を把握する為にも、小隊に分かれ街中や外の森や草原を見回っております」
「トラブルとかは無いか」
「無いですが、武器の新調と馬を増やしたいですね」
「武器かぁ。だいぶ傷んでいたからなぁ」
「団員を増やす予定はありますか」
「いや、今のところ考えていない」
「なんだ、今の人数では足りないか」
「管理する土地も広くなりましたし、町の人数も多いですから、増やしてもいいかなと」
「うーん、予算のこともあるしな、まだしばらくはこのままでいく」
「分かりました」
「副団長は何かあるか」
「騎士の寮も前任者がしっかり管理して使われていたようで、壊れている箇所も無いですし問題ないです」
「各ギルドとの顔合わせは済んでいるのですか」
「あーそれな、冒険者ギルドには行ったが他はまだだ。近いうちに行くとしよう」
「冒険者といえば、今日の彼らは何者ですか」
「ジョンとアンか」
「私どもとも模擬戦をしましたが、互角でした。引き分けに終わりましたから」
「なんだと、お前らやったのか」
「ええ、団長と私が」
「なんだよ。俺は帰しておいて自分たちはやったのかよ。ずるいじゃないか」
「なにを言っているんですか。本来ならばお館様は訓練に参加する時間すらないはずなんですよ。それを2回もしたんですから、充分です」
「書類整理ばかりしていたら、身体が鈍っちまうんだよ」
「まあ、分かりますが、子爵になったのですから以前よりも管理が大変なはずです」
「あーあ、お前らはいいよなぁ」
「それで、彼らは何者なんですか」
「いや、知らないよ。冒険者ギルドに行ったら偶々ギルマスと話ししていたんだから」
「それで、実力がありそうだから、その場で模擬戦をしたんだ」
「彼らもよく承諾しましたね」
「あー、最初は断られたけれどな」
「あれだけの実力でDランクですか」
「まあな、まだ成りたてのようだからな」
「ジョンだけならばわかりますが、まだ少女のアンまでもそうですからね。普通では考えられませんよ」
「その辺りは、ギルマスにも聞いていないからな」
「今から話すことは他言するなよ」
「ギルマスから聞いた話だと、前任の子爵が問題を起こしたのは知っているな」
「ええ、平民相手に暴行していたとか」
「ああ、アンもその被害者だそうだ」
「えっ、そうなんですか」
「ああ、屋敷に招かれて睡眠薬と媚薬を盛られたそうだ。もちろん未遂に終わって無事に帰ったそうだがな」
「隣町でも貴族に酷い目にあったそうだ。そっちの内容は聞いていない」
「あー、だからお館様が呼び足しても来なかったんですね」
「そうだ。聞いたら貴族は嫌いだそうだ」
「その時も平民だとさんざん罵倒されたそうだ」
「いますよね。偉そうにする貴族が」
「でも、Dランクの冒険者をなぜ屋敷に呼んだんでしょうか」
「いや、理由までは聞いていない」
「それに、薬を盛られたのにどうやって分かったのでしょうか」
「どちらかが鑑定もちか」
「そうかも知れませんね」
「まあ、あれだ詮索はしないでおく」
「ギルマスからも釘を刺されたよ。追い詰めれば彼らはこの町を出ていくからって」
「それほどですか」
「まあ、元々冒険者は自由だからな」
「だから、お前たちも詮索はするなよ」
「分かりました」
「彼らはもう呼ばないのですか」
「またやりたいよなぁ」
「興味のわく相手ですよね。でも、彼らとする前に団員ともしてくださいよ。僻みますよ」
「えー、そんなことないだろう」
「いいえ、今日だって自分たちだってお館様と戦ったことがないのにと、Dランクの冒険者がやってきて戦うとなったら良い気はしませんよ」
「そんなものか」
「そんなものです」
「分かった。奴らとも対戦しよう。でもまた、彼らは近いうちに呼ぶとしよう」
ジョンは、アリソン子爵で模擬戦をしてから、俄然やる気がでたようだ。
引き分けになったのが納得いかなかったのかな。
シェルターに引き籠り、朝から晩まで訓練尽くしだ。
人形ジョン『子爵に一本取れたのは、偶々でしょう』
『やはり、経験不足なのがいけないのかもしれない』
『アンは身体強化していましたよね。身体強化なしでは無理ですか』
「そうだね。やっぱり大人の男の人相手だと力で負けると思う」
人形ジョン『そうですか。それでは、もっと腕や手を強化できますか』
「どうだろう。特に意識せずに強化を掛けていたから」
人形ジョン『戦ってみてどうでした。どこが苦戦しましたか』
「うーん、叩きつけるように打たれると受けるのが大変かも」
「それから、動きも早い。だから、それを受けるのが精いっぱいで中々打ち込めないんだよね」
人形ジョン『どう、訓練しましょうか』
『普通のペースと少し早いペースとに分けて訓練してみましょう』
『それから、複数での対人戦もしましょう』
『1対2から1対3、1対5と増やしていきましょう』
うわぁ、これって、いやだって言えるのかな。無理だろうなぁ。
「ジョンは私の対戦を見て何か思うところはあった」
人形ジョン『そうですね。やはり体格の差は影響しますよね。それとアンは強化していても力が弱いですね』
「まあ、そうだよね。ジョンはどうだった」
人形ジョン『そうですね。力では互角だと思いますが、経験の差というか、場数を踏んでいるかどうかですね』
『人形とコピー騎士を戦わせて、戦い方を覚えましょう』
「ああ、よくあるよね。日本でも相手選手を撮影して戦い方や弱点を見つけ出したりしていたから」
一通り戦いを見た後は、実践にうつる。
今度はジョンも立ち会い指導してくれるようだ。
人形ジョン『もっと早く踏み込む。もっと力を入れて。剣を振り切って』
一つ一つの動作に指示を出される。
指示してもらえるのはいいが、中々その通りには動けない。
休憩をしながらだが、13人を相手にするのは疲れる。
実際には、体力は自動回復されているので疲れているわけではないが、なんかね。
人形ジョン『じゃあ、今度は速度を速めてみよう。最初は1.2倍にしてみようか』
えー、今でも速く感じるのにもっと早くするのか対応できるかな。
重心がずれたり、型がくずれたりしないように気を使いながら訓練を続けていく。
重心がずれ型がずれれば、すぐに負けてしまうだろう。
ただ、受ければいいというわけではないのが難しい。
1.2倍の個人戦が終われば、複数人との対人戦だ。
これって、慣れたら1.5倍、2倍と速度が変わっていくのかな。
わぁー、やだやだ。




