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第97話 アリソン子爵邸で模擬戦

【冒険者ギルド ダーニュ町 side】

「これでも俺は忙しいんだぞ。お前だって子爵になったばかりだから、忙しいはずだろ。こんな所でサボっていないで仕事しろよ」

「なんだよ。冷たいな。お前と俺の仲だろう。俺だって、それなりに忙しいんだよ」

「だったら、来るなよ」

「だってよぉ。嬢ちゃんと兄ちゃんを呼んでも来てくれないんだよ。だから仕方なく俺が来たんだ」

「嬢ちゃんってアンちゃんのことか」

「そうだよ。模擬戦をしたあの子たちだ。何回呼んでも来てくれないんだ。おかしいだろ」

「はっ、貴族に呼ばれてノコノコと行くわけないだろう。まして、用件も分からないんだ」

「貴族っていっても、俺はなんちゃって貴族だぞ。本業は冒険者だ」

「馬鹿を言え。お前は子爵なんだ、立派な貴族じゃねえか」

「どっちでもいいだろ。なあ、なんで来てくれないんだ」

「当り前だ。お前、前の子爵がなんで追い出されたか知らないのか」

「あー、詳しくは知らないが、なんでも従業員が平民相手に酷い事をしたとか」

「ああ、そうだ。見習いが仲間たちと平民相手に暴行をしたんだ。女には暴行、男には乱暴をして死んだ奴もいる」

「アンたちは子爵に呼ばれて屋敷に行き、家令見習いに睡眠薬と媚薬を盛られたんだ。幸いアンたちは未遂で終わったがな」

「その時も平民のくせにと、さんざん罵倒されたようだ」

「子爵の娘が冒険者をしていて、俺たちも先輩冒険者と仲良くすればいいと思ったんだ」

「まさか、あんなことになるとは思わなかったしな。だから、俺たちは貴族からの誘いは勧めないんだよ。それにキルィ町でも子爵に酷いめにあったらしい」

「だから、子爵のお前が呼び出しても行くわけないんだよ」

「えー、そんな事があったのか。でもさぁ、俺は関係ないだろ」

「まあ、直接は関係ないが、子爵は子爵だ。会いたいわけないだろ。まして用件も分からないんだから。それで何の用だったんだ」

「いや、大したことは無い。模擬戦をしたかっただけだ。俺は忙しいだろ。だから頻繫には来れないからさぁ。屋敷に来てもらえれば、時間を取られずに模擬戦できるだろ」

「なんだよ。そんな理由かよ。模擬戦がしたいのならば、自分のところの騎士たちとすればいいじゃないか」

「いやぁ、それは騎士と冒険者じゃあ戦いかたが違うだろ。それにあの子たちの戦い方は面白いからさあ」

「そんなくだらない理由かよ」

「ひでぇなぁ。くだらないなんて。お前だって分かるだろ、あの子たちの戦い方は色々と混じっていて、楽しいんだよなあ」

「まあ、それは分かる。一般の冒険者とは違うな。騎士のような部分もあるし」

「だろう。だからさぁ。息抜きに丁度いいんだよ」

「だったら、最初から模擬戦がしたいって言えばいいだろ」

「いやあ、まさか呼べば来てくれると思うじゃないか」

「そもそも、お前の考えが貴族なんだって。なんでよく知りもしない相手の屋敷に行くんだよ。そんなの用心するに決まっているだろ」

「えっ、俺貴族に染まっていたのか。そうかそうだよな、他の奴らは呼び出せば来てくれたから、それが当り前になっていたかも。俺が冒険者だった時もそんな奴のところには行かなかったよな」

「そうだろ。もう俺はアンちゃんたちに貴族を勧めたりはしない。だから、本当に模擬戦がしたいのならば、依頼を出せばいい。だけれど、断られるかも知れないがな」

「ああ、そうか。指名依頼すればいいのか。分かったこれからしてくるよ」

「おお、そうしろ。但し、受けなかったからといって追い込みはするなよ。そんなことをしたら、あの子たちはこの町を出ていくだろうから」

「えー、そこまでか。でも、分かった」


今日は、採取はせずに狩りだけをしてきた。

「こんにちは、レジーナさん。今日は狩りだけして来ました」

「おや、そうかい。それじゃあ解体所に行っておいで」


「こんにちは、ウルフとワイルドボアを狩ってきました」

「おう、ここのテーブルに出してくれ」

ウルフ30頭にワイルドボアを3頭出す。

ワイルドボア1頭は、ウインドバレットで倒した。

前回と違い、すぐにヨロヨロとして倒れてくれた。

「おー、今回はウインドバレットで倒したか。これならばすぐに死んだだろう」

「はい、すぐにパタリとしました」

「獲物がデカくなると、倒し方も変えなくちゃな」

「はい、勉強になります」


「レジーナさん、解体所の査定です」

「今日の会計だよ」

「はい、ありがとうございます」

「ギルマスが呼んでいるから、案内するよ」

「そうなんですか、わかりました」


トントン「アンさんとジョンさんをお連れしました」

「入れ」

「忙しいのに悪いな。アンちゃん、ジョン」

「いえ、大丈夫です」

「アリソン子爵から何度か使いの者が来ていただろう」

「はい、何の用事か分からないので行っていません」

「まぁ、そうだろうな。先日当主が来てな、アンちゃんたちと模擬戦がしたかったと言うんだよ」

「まさか、その為の呼び出しだったのですか」

「あいつも子爵になって来たばかりだろう、そうそう屋敷を抜け出せないからな。それなら屋敷に来てもらえばいいじゃないかと思ったようだ」

「あの、子爵ならば騎士団がいますよね。その人たちと模擬戦をすればいいんじゃないですか」

「そう思うだろ。だが、あいつが言うには騎士と冒険者では剣の使い方が違うって言うんだよ。それは、俺もそう思うがな」

「だから、偶には違う相手と対戦したいと」

「そうなんだよ。今回俺は話しをするだけで、どうこう言うつもりはないから安心してくれ。前回のことで懲りたからな」

「あー、まぁ、そうですね。全ての子爵貴族があのような人たちとは思いませんが、やはり貴族だとトラブルになった時は厄介ですし、平民とは差別というか区別しているでしょう」

「あいつのところはそう酷くはないと思うが、概ねそういう考えだから、そればかりはどうしようもないな」

「それでは、この話しは断っても、何も問題はないんですね」

「ああ、もちろん。それは確認している。だから、アンちゃんたちがどうしたいか決めていいぞ」

「少し、考えさせてもらってもいいですか」

「ああ、構わないよ。急ぐことでもないからな。ジョンとよく相談するといい」

「ありがとうございます」


「なんだか、疲れたね。ジョン、あの話しどうする」

人形ジョン『そうですねぇ。どうしましょうか。相手は貴族だし厄介なことには変わりないです』

『屋敷に行って、騎士団の人たちと会えば、広く顔が知れ渡ってしまうでしょう』

『それは、良くもあり悪くもありますから』

『アンはどうしたいですか。このままなるべく人と関わらずに生活したいですか』

「うーん、どうかなぁ。人と付き合うのが面倒だとは思うよ」

「このシェルターで生活して、時々外に出るのがいいかなって思っていた」

「でも、まだ16歳だしこの先は長いでしょ。そんな枯れたような生活でいいのかとも思うんだ」

「ジョンは、どうすればいいと思う」

人形ジョン『正直に言いますと、貴族とは関わりあいたくないです』

『騎士団にも顔が知れ渡りますし、転移で移動しにくくなるかも知れません』

『ただ、私だけでなく他の人とも訓練できるのは良いことです』

「えっ、でも、コピーした騎士の人と訓練しているよね。それじゃあダメなの」

人形ジョン『いえ、コピー騎士との訓練は大切です』

『ですが、人間の咄嗟の判断や切り替えなどの動作までは真似できないのです』

「そっか、それだけは人間だけがもつ感覚とか感情だったりするから、いくらコピーしても人形には難しいのか」

人形ジョン『そうです。訓練だけを考えれば、子爵と模擬戦をするのはとても参考になるのです』

「それじゃあ、一回ぐらい行ってみる?」

人形ジョン『そうですね』

「行くときは、先触れを出すのかな」

人形ジョン『いえ、いつでも来てもよいとされているようです』

「うーん、でも後から難癖付けられると嫌だから、先触れはだそうよ。ちなみに先触れってどうやって出すのかな」

「明日、レジーナさんに聞いてみよう」


「こんにちは、レジーナさん」

「こんにちは、アンさん、ジョンさん」

「アリソン子爵に先触れを出したいのですが、どうすればいいですか」

「それと、貴族のお屋敷には何時ごろ訪ねたほうがいいですか」

「そうだねぇ。まずは先触れは依頼を出してくれれば、下級冒険者が配達してくれるよ」

「あとは、訪問時間だけれど、午後の方がいいね」

「普通のお貴族様ならば、午前中は休んでいることが多いよ。特に女性はね」

「だから、最初は午後1時30分とか2時ごろに行くといいよ」

「それでは、3日後の午後2時に訪問で依頼を出したいです」

「じゃあ、この依頼書に記入しておくれ」

「はい、これでお願いします」


アリソン子爵邸に伺う当日。

「ねえ、ジョン。アリソン子爵まではどうやって行くの」

人形ジョン『馬車を予約しています』

「へぇーそうなんだ」

人形ジョン『最初なので、印象を良くするためです』

「まあ、そうか。歩いていくと良くないのか」

人形ジョン『そうですね。人によっては気にされますので』

「はぁー、やっぱり貴族は面倒くさいね」

何度か利用している馬車屋さんに寄り馬車を借りて、アリソン子爵邸に向かう。


貴族門のところで、アリソン子爵からの依頼表を見せる。

依頼表があるので怪しまれることもなく、すんなり通してもらえた。

アリソン子爵邸の門衛さんにも依頼表を見せると、「伺っております」と通された。

玄関の前で馬車から降りると馬車は馬丁さんが移動させてくれる。

家令見習いのような人が出てきて、入口近くの応接室に案内される。

「ご当主様がお越しになるまで、少々お待ちください」

次に侍女がお茶を持ってきてくれた。

味はまあまあってところか。

お茶を飲んで寛いでいると、当主がやってきた。

「いやぁー、悪かったね。わざわざ来てもらって」

「いえ」

「最初は呼んでも来てくれないからさぁ。ギルマスに会いに行っちゃったよ」

「それはお手数をおかけしました」

「アンとジョンは貴族が嫌いなのか」

「まあ、何度も酷い目にあいましたから」

「そうか。まあ、ギルマスからはここにいた以前の子爵のことは概ね聞いたけれどね」

「うちは、そんな事はないからさ。安心してよ」

「じゃあ、早速模擬戦をしようか」


建物を出て訓練場まで歩いていくと、騎士たちが訓練をしていた。

「おーい、皆集まってくれ」

50名ほどが集まってくる。

騎士たちの訓練は、交代制で行うらしい。

他の人たちは、持ち場についているようだ。

「今日は、俺が模擬戦をするために、冒険者を呼んだ」

「Dランクのアンとジョンだ。よろしく頼む」

私とジョンはとりあえず、ペコリとしておいた。

「なんでDランクなんて低ランクの奴がお館様と模擬戦なんてするんだ」

「そうだよな。俺たちだって、お館様と模擬戦なんてしたことないのによぉ」

「じゃあまずは、ジョンから始めよう。皆は訓練に戻っていいぞ」

騎士たちの声は聞こえている。

まあ、分からなくもない。

でも、こっちだって好きで来ているわけじゃないんだよなぁ。

騎士たちは、文句を言いながらも元いた位置に戻り訓練を再開している。


立ち合いは、アラフォーの体格の良い人がやるようだ。

「模擬戦は5分間行う。途中で木剣を落とした方が負けだ。始め」

アリソン子爵とジョンの模擬戦が始まる。

ジョンもここ数週間コピー騎士たちとの訓練をしているので、前回よりは戦えるだろう。

木剣の打ち合う音が、カンカンと響く。

打ち合っては離れ、打ち合っては離れを繰り返している。

あれだけ訓練しても、子爵には簡単には勝てそうもない。

ジョンもアリソン子爵のコピーと訓練しているので、ある程度の癖は掴んでいる。

想定外の行動をされない限りは問題ないだろう。


Dランクだと馬鹿にしていた、他の騎士たちもジョンたちの打ち合いを見て驚いているようだ。

「おいおい、あれでDランクなのか、嘘だろう」

「なんか、お館様と互角に戦っていないか」

「いや、そんなことはないだろう。お館様が手加減しているんだろう」

「えー、でもお館様も押されていないか」

「そうだな。なんか押されているように見えるぞ」

そんな騎士たちの会話が聞こえてきたら、「カキーン」と大きな音がした。

「1本、勝者ジョン」

おっ、ジョンが勝ったか。


「はぁー、なんだよ。ジョンつえーなぁ」

「この前よりも強くなっていないか」

「俺も訓練不足だな。もっと頑張らないとなぁ」

「何を言っているんですか。お館様は訓練よりも書類整理があるでしょう」

「家令執事に任せてばかりではいけませんよ」

「なんだよ。俺だって鈍っていたら、いざというときに困るだろ」

「そうですが、その為に我々がいるのですから」

「あー、はいはい」

「じゃあ、10分休憩したら次はアンとな」

「えっ、彼女とも対戦するんですか」

「なんだ。当り前じゃないか」

「ですが、彼女はDランクですよ」

「ジョンだって、Dランクだぞ」

「いえ、そうですが、彼女はまだ子供ですよ」

「子供だって、強ければいいんだよ」

「それに一度は対戦しているしな」

なんだか、立ち合いの人は不服そうだが、当主が良いって言っているんだからいいのだろう。


10分の休憩が終わり、模擬戦を始める。

「模擬戦は5分間行う。途中で木剣を落とした方が負けだ。始め」

アンのほうから攻めていく。

バリアと身体強化をかけてある。

適格に相手の急所を突いて行く。

前回は様子見だったのか少し手加減している感があったが、今日は少し本気を出しているようだ。

私は小回りがきくので何度も同じ箇所を狙う。

だが、それだと相手の剣を落とすまでに時間が掛かってしまうのが難点なのだ。

アリソン子爵も女性相手は慣れないのか、苦戦している。

男同士ならば力技でなんとかなるが、ちょこまか動かれるのは苦手なようだ。

私も剣を叩かれないように必死だ。

剣を当てに行っても力が無いので無理なのだ。

だから、手首とかを狙う。

「ピー、両者引き分け」


どうにか、剣を落とさずに済んだ。

「おい、あの嬢ちゃんも凄くないか。引き分けだってよ」

「本当にDランクなのか」

「俺たちじゃ、負けるんじゃないか」

「アンもこの前よりも強くなっていないか」

「一応、訓練していますから」

「では、依頼完了でよろしいでしょうか」

「えー、まだ来たばかりじゃないか。もう一度しようぜ」

「お館様、ダメですよ。執務が滞っていますから。これで我慢してください」

「えー、そんなつれない事を言うなよ」

「いいえ、家令からもきつく言われていますから」

そう言われて子爵は渋々と戻っていく。


人形ジョン『それでは、私たちは失礼させていただきます』

「もし、お時間がありましたら私と手合わせ願えますか」

「申し遅れました、私はこの騎士団の団長を務めさせていただいております。ディッキー・モーハンティーです」

「ご丁寧にありがとうございます。ジョンとアンです」

「Dランクとは思えない戦いぶりですな」

「いえ、まだまだ訓練の途中です」

「どうです、1本」

念話『ジョンどうする』

人形ジョン『時間はありますし、折角来たのですからいいんじゃないですか』

「分かりました。私とアンと1本ずつですか」

「そうですね。お二方でお願いします」

「誰か、立ち合いを頼む」

「あー、俺がやります」


ジョンと騎士団長との模擬戦が始まる。

コピー騎士団長との訓練もしているから、こちらも慣れた感じだ。

騎士らしい戦いぶりだ。

子爵よりも毎日訓練しているせいか、手馴れている。

男同士だから剣にも双方力がはいる。

カンカン、キンキンと打ち合いの続く音がする。

「ピー、両者引き分け」

心なしかジョンが楽しそうである。

人形相手ではなく、本物の人間相手が楽しいのだろうか。

「ジョン、お疲れ様。どうだった」

人形ジョン『やはり手ごわいですね。まだまだ訓練が必要なのが分かりました』

うぇー、これって帰ってから強制訓練が待っているかもしれない。


10分休憩して、私の番になる。

「では、両者始め」

速攻で相手が攻めてきた。

子爵と戦った時には私から攻めたから、逆の手法で攻めてきたのかも。

力強い一撃を打ち込んできたが、受け流す。

これは、訓練の時もそうしてきたからである。

相手もまさか、受け流されるとは思ってもいなかったようだ。

すぐに次の一撃を打たれるが、それもなんなく受け流す。

ただ受け流すだけではなくて、こちらも次の一手を打つ。

訓練すれば、打ち返すことも出来るようになるかもしれない。

ジョンの時ほどではないが、カンカン、キンキンと打ち合いの音が響く。

「あの嬢ちゃんも騎士団長と打ち合いしているぜ」

「本当にどうなっている。Dランクなんて嘘なんじゃないか」

「ピー、両者引き分け」

はぁ、楽しいような疲れたような感じだ。

もう、帰りたい。いや帰ろう。

「お疲れ様でした。いやぁ、ジョンもアンも凄いな」

「本当にDランクなのか」

「ええ、まだなってからあまり時間はたっていません」

「では、私たちはこれで・・・」


「なんか、面白そうなことをしているね」

「なんだ、副団長執務は終わったのか」

「ええ、ほとんど終わりましたよ」

「それで、こちらの方々がお館様が呼んだ冒険者ですか」

「ああ、ジョンとアンだ」

「アンです」

人形ジョン『ジョンです』

ペコリとお辞儀をする。

「お館様とも模擬戦をするのではなかったのですか」

「ああ、お館様は一戦したから執務に戻った」

「それで、なぜあなたが対戦しているのですか」

「面白そうだから」

「はぁー、そんな理由でですか」

「ジョンはお館様に一本取ったし、アンは引き分けだったぞ」

「私とは引き分けだ」

「へぇー、そうなんですか」

ジョンと私を見てくる。

なんだよ。文句でもあるのか。

「それは、楽しそうですね。では、私とも一戦頼みましょう」

はっ、なんでだよ。いやだよ。早く帰りたいよ。

人形ジョン『やりましょうか、アン』

念話『えー、ジョンやるの』

人形ジョン『折角の機会ですから』

人形ジョン『では、1本ずつお願いします』


10分休憩して、今度はジョンと副団長と模擬戦だ。

立ち合いは、騎士団長。

「では、両者、始め」

コピー副団長とやった通り、返しにくい箇所を攻めてくる。

初めてならば、驚いてミスをしたかもしれないが、訓練していたおかげでなんなく打ち返している。

たぶん、相手は驚いているだろう。

こんな戦法で戦う人はあまり居なさそうだからね。

ジョンも相手の嫌がるような箇所を攻めている。

お互い様だ。

まわりの騎士たちも驚いている。

「おいおい、副団長の剣を返しているぞ」

「すげえな。俺たちじゃあ打たれてお終いなのにな」

こんな攻め方をする副団長は性格が悪そうである。

副団長という役職にはあっているのかもしれない。

「ピー、引き分け」

「ジョンは強いんだな。よく私の剣を受け止めたな」

人形ジョン『いえ、まだ訓練中ですし、なかなか打ち返せません』

「そのまま訓練を続けるといいよ」

人形ジョン『はい、ありがとうございました』


次は、私の番だ。少し緊張する。「フゥー」と息を吐いて定位置に立つ。

「では、両者、始め」

両者同時に攻め込む。

相手の出方はだいたい分かるが、急に対応が変わると受けられるか分からない。

コピー副団長と同じように微妙にずらしながら打ち込んでくる。

本当に性格が出るな。

相手も私までもが打ち返してくるのが不思議だと思っているだろう。

私とて、やられているばかりではない。

同じ箇所を必要以上に狙っていく。

訓練の成果か、剣の動きも以前よりは早くなった。

体力も自動回復だから疲れない。

ただ、気力は疲れてくるので負けないように頑張るしかない。

相手も小娘相手に負けるわけにはいかないのだ。

まあ、本気は出していないだろうが。

「ピー、両者、引き分け」


はぁ、やっと終わったよ。今度こそ帰ろう。

「いやぁ、ジョンもアンも凄いね。私の剣を受けられるとは」

「いえ、剣を取られないように必死でした」

「また、手合わせしよう」

「ありがとうございました」

「では、今度こそ失礼します」

「ああ、お疲れ様」

「誰か、案内して」

「あー、俺が行きます」

騎士の一人が手をあげた。


「いやー、二人共凄かったな。本当にDランクなの」

人形ジョン『そうです。Dランクです』

「お館様といい、騎士団長や副団長相手に打ち合えるなんてすごいよ」

「いいえ、まだまだ訓練不足だと実感しました」

「そんなことはないぞ。俺たちじゃあ、剣を取られてしまうからな」

「やっぱり、騎士団長とか副団長は強いんですか」

「そうだよ、そこらへんの騎士たちよりもずっと強いんだから」

「魔物とか盗賊たちを相手にしてきたから、弱くてはダメなんだよ」

「あー、そうなんですね」

「門まで案内するんでいいのか」

「いえ、馬車出来ていますので、馬丁までお願いします」

「馬車出来たのか」

「ええ、初めてですから、馬車で来ました」

「そうか、まあ貴族の屋敷だからな」

「じゃあ、あそこが馬丁だから」

「はい、ありがとうございました」


馬車に乗り込み、貸し馬車屋まで戻り、冒険者ギルドに行く。

「こんにちは、レジーナさん」

「こんにちは、アンさん、ジョンさん」

「アリソン子爵の依頼が終わりました」

「ああ、行って来たのかい。大丈夫だった」

「はい、模擬戦をして帰ってきました」

「そうかい、怪我はないかい」

「はい、大丈夫です」

「はい、これが依頼分の手数料だよ」

「ありがとうございます」


「ジョン、疲れたね」

人形ジョン『ええ、本当に』

「まさか、三人を相手するとは思わなかったよ」

人形ジョン『そうですね。でも、騎士団長と副団長と戦えたのは良かったんじゃないですか』

「まあね。ギリギリ引き分けだったけれど」

人形ジョン『まだまだ、訓練が必要だってことです。明日から頑張りましょう』

うわぁ、ジョンの鬼教官魂に火が付いたかも。


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